第4話 共通一次試験受験

 僕は、共通一次試験の物理の問題は「それが出るもの」と思い、その他の科目の勉強にも、あまり力が入らなかった。

 

 その前の年の共通一次試験に失敗して浪人をしていた僕は、

(年に一回だけの試験で人生が決まるなんて、ナンセンスだ)

 と思っていた。しかし、共通一次を受けていないと、国立大学は受験できない。


 試験当日、物理の試験問題を見た僕は、絶望の底に突き落とされた。


(問題が違う、これは何かの間違いだ)

 僕は、そう思うしかなかった。

 物理はもちろん0点、その他の科目も散々であった。


 共通一次試験の結果が悪かったので、僕は国立大学一期校である九州大学は不合格になり、国立大学二期校である九州工業大学(九工大)になんとか合格した。そこに行くのは、あまり気が進まなかったが、これ以上浪人できなかった僕は、九工大に入学した。

 

 九工大は、勉強すれば、ちゃんとした道に進むことができ、九大出身者よりも偉くなっている人が沢山いる大学だったが、九大が第一志望だった僕は、九工大で勉強する気が起こらなかった。

 大学の実情を知らずに、「名前」や「有名さ」や「世間体せけんてい」で大学を選んでいたのがいけなかったのかもしれない。


 留年を繰り返し、遊ぶでもなく、勉強するでもない僕は、だらだらとした学生時代を送り、8年かけても卒業できず、最後は自主退学する羽目になった。


 手に職を持たなかった僕は、悪いことに手を染めてしまった。


 強盗をして手に入れたお金の分配のことで仲間ともめた僕は、福岡空港のトイレで、強盗仲間に腹部をナイフで刺された。


 薄れていく意識の中で、

(僕はこのまま死ぬのか・・・こんな人生、送りたくなかったな。僕、川口良太は、もっとましな人生を送れたはずなのに・・・一体、どこで間違ってしまったのか?

人生やり直せるなら、自分の事より、人に感謝されるような仕事に就きたいな)

 と思った僕の目に、知らないおじさんがトイレの洗面所で、フロッピーディスクを落としたのが見えた。

 

「おじさん、フロッピーディスクを落としましたよ」

 僕は最後の力を振り絞って、大声でそのおじさんに言った。


 おじさんは、フロッピーディスクを拾って、コートのポケットに入れた。


 僕の目の前は、真っ暗になった。

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