第2話 イカダ発明者アヤト
「そこで綾人、お前に頼みがある」
僕は崇人の口車に乗せられたのだ。それはわかっていた。でも海だぞ、海! 夏の海ほど楽しい場所は日本にない。あ、人参堂の
あれを除いて、夏の海は1位だ。2位に春の海、3位に春の山、4位に新幹線の車窓から見る海の水切り——。とりあえず自然こそ強いらしい。
「何?」僕は崇人の頼みならなんでも受ける準備をしていた。だが、流石に次の言葉には驚かされる。
「イカダを作ってほしいんだ」
まさか、長い船旅なのか——? そこまで話したところで僕は男子トイレにある一人の生徒の影を見つけた。顔が綻ぶ。
『宮内……』僕と崇人の声が重なった。
僕らの悪友、
*
宮内は背が低い分成績が良く、通知表は体育をのぞいては常に4か5だった。反対に崇人は成績はからっきしで、国語と体育を除いては常に1か2のどちらかだった。僕は標準で、体育を除いては常に3を取っていた。体育は、4だった。
三人が合体すると、どうなるか。お互いの苦手なところを組み合った、最強のトリオが誕生する。僕の役割? 司令塔補助だ。佐藤を操り、宮内と作戦を企てるやつ。
こういうと嫌な風に聞こえるかもしれないが、佐藤と僕はそれぞれお互いの奴隷だった。だからさっき宮内を悪友と称した。三人はそれぞれ一般に悪友と呼ばれる仲だった。
「——さて、今まで話してたのはこんな感じ。どう?」
用を済ませて、僕らは廊下に出ていた。予想通り宮内は顔を輝かせ、何度も頷いた。「決まりだ、仲間に入れよう」と崇人はいった。宮内は実年齢よりいく年か若いかのように、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
*
学校が終わり、二人は僕の家で合流するという約束をして、時間まで家で宿題を解いていた。もっとも、長い海の旅だから、明日から宿題はないのだが。
そうだ、そうだ。「海の旅」を表す、熟語があったんだ、そういえば。
家の奥にある、木造の倉庫をあけるのは久方ぶりで、っぽさだけでなく現実にたまった埃の山を見て、呆れた。
掃き掃除を一通り終えた。ただでさえ咳き込むのに、あんな動きをしてしまうから余計埃がたった。
塵取りをとって町へ出た。ゴミ箱は近い。
青い空、白い雲——空気を吸えば焼却炉の臭さ。でも、それを除けばうまい匂い。
山や海は、もっといいだろうに——と僕は思った。
そして一直線に駆け出した。どこかって?……もちろん崇人の家だ。
歩道を蹴った。カツカツと音がした。こんな靴じゃ海に出ればずぶ濡れだ、と僕は思った。でも、それはそれでいいんじゃない? と思い直した。
のどかな空気は、やっぱりうまい。特有の潮の香りと共に、波は太陽の光を受けて、きらきら輝いているに違いないのだ。
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無人島で猫と幼馴染とサバイバル・ゲームします。 沼津平成はテツこりと旅行中です。 @Numadu-StickmanNovel
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