無人島で猫と幼馴染とサバイバル・ゲームします。

沼津平成

第一章 海を渡れ

第1話 航海の始まり

 村は海に面していて、いつでも漕ぎ出せそうだった。

 村長むらおさのロズは勇気があった。海へ漕ぎ出したロズの姿を、見たものはいないという。

 勇敢な村長として、ロズはたたえられた。学校の教科書では、村長ロズの話は単独科目となっており、4年生までで必修だった。

 学校は十二学年ある。特別学校は四学年あるが、特別学校に進むものは少なかった。特別学校は単位なる物を取らねばならないし、何よりその単位の大半に「ロズ」や「勇敢」という文字が見える。

 村の子供達は「ロズ」のことを「面倒屋」と呼んでいた。面倒を売りつけるやつだ、という認識だった。彼らは学校とロズに恨みがあった。英雄ロズは、いつの間にか悪人ロズに変貌を遂げていた。


                    *


 5年生に進級して、はじめて学校に行くその日、校舎に貼り出されていた紙に、プリントされた文字列の中に埋もれたある4文字を僕は探していた。

 やっと見つけた「天童綾人てんどうあやと」の単語は後半にあった。


「危ねぇ……」とため息をつく。4組の石田先生は怒りっぽいので有名だ。僕ぐらい、苦情の百や二百、言われて当然なのだ。

 3組の教諭はまだマシだ。僕は少しガッツポーズをした。


「天童、何をしている?」言われて僕は振り向いた。石田先生がいた。僕は逃げ始めた。

「こら! 校舎を走るなー!」学校に石田先生の声が轟いた。体育教師の雄叫びのような声だった。


                    *


 『5年3組』はまだ第1校舎だった。前から二番目の席に着くと、黒板がよく見えた。机にはすぐ慣れた。頬杖をつきながら、どうやら第2校舎にあがるのは早くてもあともう一年、遅かったら二年待たなければならないらしいな、とさっき考えたことを反芻はんすうした。


「なるほど…………よく出来てるな」と僕はぼやいた。

 

 よお、と軽く肩を叩かれる。この心地よさ——崇人たかとだな、と僕は思った。「崇人ぉ、崇人ぉ、いるんだろ」


 あたたかい息が背中に降りてきた。振り向くと佐藤崇人がにんまりと笑っていた。崇人は僕と大体同じ身長だ。背が高く仲の良い僕らは、同級生から「よお、バディ」と呼ばれていた。


「海に出ないか?」朝のホームルームが終わると、崇人と僕は男子トイレにいた。崇人が、そう切り出した。

 思い浮かぶのはロズのことだった。あんな英雄の二の舞になって、何が楽しいんだろう?


「どうして?」と僕が聞いた。

 

 崇人は相変わらずニヤニヤしている。「楽しいからさ」


「入ってきたの!?」僕は目を丸くした。


 崇人は不敵に笑いながら、軽く頷いた。嘘じゃないよ、と、その青い瞳がいっていた。

 崇人は最近よく顔が焦げていたが、それはその暑い気候をフルに生かしているから、だったのだ。

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無人島で猫と幼馴染とサバイバル・ゲームします。 沼津平成 @Numadu-StickmanNovel

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