天下布武プロジェクト、始動

                 急

「ここまで残ったのは9人……では、ここからは一対一で参加者同士のガチンコバトルと行きましょう」

「ガ、ガチンコバトル?」

 姫が心配そうな視線を主催者に向ける。主催者は笑みを浮かべる。

「いえ、安土城の天守閣に特設されたステージに上がり、お互いのアイドルへの熱い想いを述べてもらえばそれで良いのです」

「は、はあ……」

「それでは、〇〇さんと、宗我部さん、ステージへ……」

「は、はい……」

 姫と同じ組の女性がアイドルについて熱く語る。

「では、宗我部さん……」

「は、はい、わたしはアイドルの皆さんの発する元気な声に励まされて参りました……わたしも同じように、声を使って、皆さんを時には元気づけ、時には癒して、また時には、背中を押すような力になれたらと思っております……! 是非、この天下布武プロジェクトでその夢を叶えたいと思っています! どうぞよろしくお願いいたします!」

 姫のよく通る声は城の下部にも十分聴こえた。主催者たちが顔を見合わせて頷く。

「宗我部姫さん、合格です!」

「! あ、ありがとうございます……!」

「それでは、✕✕さんと、武枝さん、ステージへ……」

「おう……」

 海と同じ組の女性がアイドルについて真面目に語る。

「では、武枝さん……」

「……アタシは前人未到の存在になりたいんだ! 口で言うのは簡単だって? ちゃんとプランも考えている……そらっ!」

「!」

 幸たちは驚く。海がジャージを脱ぎ捨て、ビキニ姿になったからだ。豊満な肉体が揺れる。幸は同性ながらも、思わず視線を逸らしてしまう。

「アタシの出身は山梨、いわゆる『海無し県』だ……だが、海を身近に感じたことのないやつがグラビアアイドル界で輝いたらどうだい? これは革命的な出来事だろう? 前人未到だろう? この天下布武プロジェクトで天下を獲りたいぜ! よろしくな!」

 海の高らかな宣言が響く。主催者たちが顔を見合わせて頷く。

「武枝さん、合格です!」

「よっしゃ! あんがとうございま~す♪」

 海がにこやかに手を振る。幸が感心する。

「セルフプロデュースが出来ている……」

「それでは、△△さんと、金毛利さん、ステージへ……」

「はい……」

 彩と同じ組の女性が得意のアイドルソングを披露する。やや緊張気味だが、良い歌声だ。

「では、金毛利さん……」

「はい……~~~♪」

「‼」

「ハ、ハミング⁉」

 彩のハミング披露に幸と姫が驚く。一通り、ハミングを終えると、彩は口を開く。

「なるほど、ここはいわゆるアピールタイム……普通ならば得意な曲を歌ってみせるものでしょう。しかし、私の持つ様々なデータが導き出した結果は、『ハミング』です。けっしてヤケになったからでも、舐めプをしたわけでもありません。賢明な主催者様方ならば、私のポテンシャルに気が付いてくださったはずです……以上」

 眼鏡を触りながら、彩は自身の行動について説明した。主催者たちが顔を見合わせて頷く。

「金毛利さん、合格です」

「……よろしくお願いいたします」

 彩が丁寧にお辞儀をする。

「それでは、□□さんと、高島津さん、ステージへ……」

「おうよ」

 風と同じ組の女性がダンスを披露する。なかなかのステップワークだ。

「では、高島津さん……」

「……チェストーーー‼」

「⁉」

「木刀を振り回してる⁉」

 風の突然の演武に幸と海が面食らう。動きを終えると、風が口を開く。

「今の一連の動きで、見る人は分かったでござろう……ダンスも武道も基本となるのは円の動き……それが出来ている自分ならば、どんな難しいダンスでも難なく習得することが出来る……メンバーに加えておいて損はないはずでごわす……以上!」

 風が一礼して下がる。主催者たちが顔を見合わせて頷く。

「高島津さん、合格です」

「よろしくお願いいたす……!」

 風が力強く、頭を下げる。

「では、これで……」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「はい?」

「わ、わたしがまだ残っていますが⁉」

 幸が自らを指差す。

「ああ、余ってしまったんですよね……今回はご縁が無かったということで……」

「そ、そんな! わたしにもアピールさせてくださいよ!」

「えっと……」

 主催者たちが困ったように互いの顔を見合わす。

「良いんじゃないの? わたくしが見てあげるわ」

「えっ⁉」

 天守閣の特設ステージから両腕を組んで、こちらをこれでもかと見下ろす、金髪ロングヘアの女性の姿が見える。幸が首を捻る。

「……誰?」

「わたくしは織田桐月おだぎりつき……この『アイドル天下布武プロジェクト』の責任者です」

「えっ⁉ 同い年くらいじゃない?」

「なかなかどうして鋭いわね……そう、このプロジェクトはわたくしをセンターに据えたアイドルグループのオーディションだったのです!」

「ええっ⁉」

「お陰様で良いメンバーが揃いました。わたくしは大変満足しております」

「……わよ」

「は?」

「わたしが全然納得いっていないわよ!」

「そう言われましてもね……」

 月が苦笑を浮かべる。

「わたしの方がこのグループにふさわしい!」

「なにを根拠に?」

「こ、根拠って言われると正直困るけど……だ、大体、ランニングとクイズ大会しかやってないじゃないの! もっとこう……歌とかダンスとかで審査しなさいよ! アイドルグループオーディションなら! ふざけんじゃないわよ‼」

「むっ⁉」

 幸が発した声の圧が、特設ステージにひびを入れ、大きく揺らした。主催者たちが慌てる。

「お、お嬢様!」

「落ち着きなさい……」

「は、はい……」

 月が右手を掲げると、主催者たちは黙る。月は左手で自らの顎をさする。

「その声の圧……大した『武』ね……ある意味、天下布武プロジェクトにふさわしい人材かもしれない……よろしいですわ、華田幸、わたくしに代わって、貴女が合格者です……」

「え? ……や、やった!」

 幸がガッツポーズを取る。天下布武プロジェクトが動き出す……。

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アイドル天下布武 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji

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