助け合い、煽り合い

                 破

「……さあ、続いての試験です!」

「ハードル走とかじゃないでしょうね……」

「甘いね、幸ちゃん、ここは走り高跳びだよ」

 幸の冗談に乗っかる海。

「ハ、ハードル走、走り高跳び……?」

 姫の顔が真っ青になる。

「アイドルとして、これから訪れるであろうどんな困難をも乗り越えられるような跳躍力を見てみたいんじゃないかな」

「そ、そんな、直接的な……」

 姫が俯く。

「海、からかうのはやめなよ」

「あ、バレた?」

 幸の言葉を受けて、海は舌をペロっと出す。

「ああ、いくらなんでも体力テストが続くとは考えにくい。スポーツチームの入団試験じゃないんだから」

「そ、そうですよね……!」

 姫が顔をパッと明るくさせて、幸の方に視線を向ける。

「……」

「ゆ、幸さん?」

「……多分ね」

「た、多分⁉」

「アイドルだって体力勝負だよ~」

 海は袖をまくって大きな力こぶを作ってみせる。

「う、うう……」

 姫が涙目になる。彼女の体力は先程の通算1キロメートル走でほとんど尽き果ててしまったのだから無理もない。

「だから変に不安を煽らないの」

「悪い、悪い、今度はアタシもフォローしてあげるからさ……」

「え……何故?」

「幸ちゃんとは協力しようとしていた。そこで幸ちゃんが助けた君という存在。友達の友達は友達だよ♪」

「は、はあ……」

 海の分かるようで、分からない理論に姫は面食らう。幸は苦笑しながら告げる。

「まあ、困ったときは助け合いの精神だよ」

「はあ……お願いいたします……」

 姫が丁寧に頭を下げる。

「……それでは次の試験は、『〇✕クイズ』です!」

「『〇✕クイズ』?」

「問題を出します、正解だと思う方のグラウンドに入ってください」

 見てみると、グラウンドが大きく色分けされ、〇と✕に別れている。

「これは……」

「ハイスクールクイズとか、そういうノリじゃないの?」

「そうか、そこまで難しい問題は出ないか……」

 海の言葉に幸が頷く。海が笑みを浮かべる。

「アイドルといえども、一般常識は問われるからね。まあ、落ち着いて答えれば大丈夫♪」

「……問題です! 四国で活動する『四国八十八』の初のミリオンヒット曲は『お遍路―テーション』、〇か✕か!」

「はあっ⁉」

「ア、アイドル問題か、これは盲点だった……」

「お二人ともこちらです……!」

「!」

 幸と海に聞こえるくらいの声で、姫が二人を✕印の方に誘導する。

「……正解は✕!」

「や、やった!」

「助かったよ」

「ははっ、アイドルオタクで良かったです……」

 海に肩を叩かれ、姫が笑みを浮かべる。

「では続いての問題……」

「これは〇!」

「問題……」

「これはひっかけ、△です!」

 姫のお陰で、幸と海は残り三分の一の参加者まで勝ち残った。

「……鹿児島の高島津風たかしまづふうさん……まさか貴女がここまで残るとは、どういったデータを活用されたのですか? 参考までに教えて頂きたいのですが」

 金髪ツインテールの女子に銀髪セミロングで眼鏡をかけた女性が話しかける。

「ただの勘でごわす! 山口県の金毛利彩かなもうりあや殿……データ頼りの頭でっかちでは良いアイドルになるなど夢のまた夢でごわすよ! がっはっはっは!」

「むっ……」

 風の言葉に、彩と呼ばれた女性はムッとする。

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