一方
「そんな簡単に探せたら苦労しないよなあ」
翔太は首に手を当て、コキっと鳴らした。
遥から電話をもらった後。
奈々の誕生日はすぐに確認できたが、佳奈の母については未だ情報がなかった。佳奈は東京に出て来てから一度も母親と連絡を取っていないらしい。元の住所を確認したが、そこにはもう誰も住んでいなかった。
時刻は十九時。翔太は朝から佳奈の身辺に不審なことがないか様子を見てから、クリーニングのバイトに行き、今は佳奈に異変があった時にすぐ動けるよう佐伯邸から近いネットカフェに居た。
フラットシートに横になり、天井をぼーっと見る。蔵田は今日も変わらずクリーニング屋に来て、面白くもない洒落や自慢話をたっぷりして帰っていった。佳奈は遥たちと会ってから、ママ友とのランチを徐々に減らしていると言い、初めてフリーマーケットで見かけた時よりも心なしか表情が明るくなったなと翔太は思った。
奈々の痣のことを調べる為の依頼のつもりが、まさか自分が狙われているとは思ってもいないだろう。今の時間は旦那が帰宅しているからと、翔太は安心して一息ついていた。
「旦那……」
ふと、佳奈の夫が何をしている人なのか気になってメッセージを送った。するとすぐに佳奈から返事が来る。
「国土、交通省」
よく分からないが、たぶん国の偉い人だろうと翔太は認識した。
(どうりであんな立派な家に住める訳だ)
翔太は注文していたフライドポテトを摘みながら、またパソコンへと向かう。
「国土交通省、佐伯……っと」
検索すると、国土交通省のホームページの幹部名簿というところにその名前はあった。
「高そうなスーツ」
翔太は自分の服装を見てため息をつく。自分のスマートフォンに画像を転送したあと、最初からスマートフォンで調べればよかったのでは、などとどうでもいいことを考えていた。
ブブッ
持っていたスマートフォンが鳴る。画面を見ると、着信は遥からだった。翔太は急いで部屋の外に出て通話を押す。
「はいはいはい、どうしました?」
「遅い。何してんの?」
「そんな言い方ないっすよ。ちゃんと情報収集しにネカフェに居たんで、外に出たんです」
遥からの信用はいつになったらもらえるのかと、翔太は苦笑した。
「それで、何かわかった?」
「すーぐ本題。……えっと、奈々ちゃんの誕生日はメッセージで送った通りです。でも、佳奈さんのお母さんの方は居どころ掴めなくて。名前で検索したんですけど、SNSやってないみたいなんすよね」
「わかった。翔太は引き続き佳奈さんの様子を見張っててよ。なんかあったらまた連絡する」
「ちょっと待った!」
電話を切られそうだと思った翔太は大声で阻止する。
「びっくりした。なに」
「俺、先輩の頼みだからこんなに頑張ってるのに。ご褒美ください!」
「は?」
遥は呆れて笑う。
「翔太、誕生日いつなの?」
「誕生日ですか? まだずっと先っすよ」
「そっか」
「ご褒美ですよ、約束ですからね!」
「分かったよ。ところで、佳奈さんのお母さんの名前って」
名前を伝えると、すぐに電話を切られてしまった。翔太はスマートフォンの画面を見ながら部屋に戻り、残りのフライドポテトを一本ずつ口に放り込む。
「あーあ。もうすぐ全部、なくなっちゃう……うわっ、やばい」
くんくん、と自分の服を臭った後、翔太は慌ててシャワーを浴びることにしたのだった。
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