弟へのクリスマスプレゼント

土蛇 尚

これからもずっと一緒

「赤ちゃんにもサンタさんちゃんと来るよね?赤ちゃんこんなに小さくてサンタさん大丈夫かな?」


 幼かった兄はそう両親に聞いたらしい。うちの両親は少し抜けたところがあって、クリスマスプレゼントは言葉を話すようになったくらいから渡すものだと考えていた。


 しかし、サンタを信じる小さな子どもが家にいるとなると話は変わってくる。赤ちゃんの頃にはサンタがいなかった、それはまだサンタを信じている子どもにとっては極めて重大なことだ。

 サンタとは産まれてきた頃からいるはずのもので、これからもずっとくるはずのものだからだ。


 兄は産まれたばかりの弟に、ちゃんとサンタが来るかどうかを気にするほどには優しく、自分が赤ちゃんの頃にどんなプレゼントを貰ったのか両親に確認する発想は持っていない、そんな子どもだったみたいだ。


 両親はそんな兄の事をとても愛していた。今も愛している。


 その兄は今から15年前のクリスマス目前の冬、5歳で飲酒運転のドライバーに跳ね飛ばされて亡くなった。公園で雪だるまを作った帰り、ベビーベットで寝るまだ赤ん坊の僕に見せるため、小さな雪だるまを家まで持って帰ろうとしていた時だった。


 兄の人生最後の願いは『作った雪だるまを産まれたばかりの弟に見せたい』だった。

 

 このクリスマスの悲劇はA君事件として全国的に報道され、YouTubeには飲酒運転の厳罰化を訴える両親の動画が今も残っている。自分の子どもの死を無価値なものに決してしない、その覚悟を決めた親の瞳の黒さといつも自分に向けられる両親からの優しい視線にはあまりに違いが大きい。

 犯人のドライバーが酒を飲んだ店はその冬に町にいられなくなった。自分が住むこの小さな町にそんな憎悪があったとは信じられない。


 僕は兄の事は何も知らない。だからたくさん調べた。でも一番兄の事の心が伝わってくるにはいつもこの小さなウサギの縫いぐるみだ。


 『ベットで寝る小さな小さな弟。こんなに小さかったらサンタさんが見逃しちゃうかもしれない。お兄ちゃんの僕がクリスマスプレゼントをあげないと!』


 そうして選んでくれた僕へのクリスマスプレゼント。


 このウサギがあるから僕は自分を肯定する事が出来る。兄が受け取るはずだった多くの物を、自分が受け取っているのではないかって思考に囚われた時、このウサギを見たら大丈夫だと思うことが出来る。兄はちゃんと僕のことを愛してくれていたと思える。


 今年もクリスマスがくる。


「ありがとう。お兄ちゃん」



終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

弟へのクリスマスプレゼント 土蛇 尚 @tutihebi_nao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画