桜の木の下で

yun_nゆん

第1話

待ってたけど、来なかった。

足元に落ちている、幾重にも重なったピンク色した桜の花びらを見下ろしながら、唇を、噛み締めた。

悔し涙なのか、悲しいのか自分でもまだわからない。ただ、明日どんな顔して会えばいいかわからないまま、花びら舞う一本道を足早に帰路についた。


眠れなかった。

それは、そうだ。当然だ。

一世一代の、告白。勇気を出して伝えたかった。

「話があるの。明日、学校終わりに、校門前の桜の木の下で待ってるから。」

そう幼馴染の慶太に伝えた。

耳が熱い、鼻が熱い。燃えそうだ。

だけど、舞うピンクの花びらに隠れて、わたしの気持ちは明日まで気づかれませんように。花びらたちが、隠してくれますように。そう願った。


だけど、慶太は来なかった。

しばらく待って、夕暮れに近づくまで待ったけど、慶太は現れなかった。

今日は、学校に行きたくない。

そう思うのは当然だ。

自分に言い聞かすように、布団に潜り込んだ。


それからしばらくして、慶太と仲の良かった、さゆりが慶太と付き合い始めたことを知った。

そっか、慶太はさゆりのことが好きだったんだ、自分の気持ちに必死で、私は、そんなことにも、気が付かなかった。いつのまにか、足元には、枯れた紅葉の葉が落ちていた。


それから、なんとなく慶太とは、疎遠になり、高校最後の春を迎えた。なぜか、私は、今、桜の木の下で、慶太に告白をされている。


私の気持ちに気づいていたこと、

その時さゆりに告白されていて、付き合おうか悩んでいたこと、

あの日、約束の日に、行かなくて申し訳なかった、と言われた。

さゆりと付き合ってみて、私のことが好きなことに気づいたこと。


なぜか、話が頭に入ってこない。

「慶太はさ、多分誰も好きじゃないよ。私のことも。だって、今更ずるいよ。さゆりがだめなら私なんて‥、慶太は、きっと自分のことが1番好きなんだよ。」


少しの沈黙の後、そうだね、そうかもしれない、ごめん

そう言って、慶太がうつむいた。

沈黙の時間が流れた後、慶太が静かに去っていった。

足元に広がる、無数のピンク色の花びらが、せつなくて、2年前のあの日を思い浮かべた。


あの時の、悲しさや、苦しさから、慶太の告白を信じれずに、慶太を傷つけた自分がいる。


あれから、10年。

慶太はどうしてるかな、桜色の花びらが舞うたびにあの頃を思い出す。

今は、正面を向き、舞い踊る花びらに胸を躍らせる。

慶太もそうだといいな、と思いながら、

地元に帰る新幹線に乗り込んだ。

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桜の木の下で yun_nゆん @yumiko-hayakawa

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