・クエスト【緑の人よ、白き大狼を討て】
クエスト【緑の人よ、白き大狼を討て】の概要はこうだ。
今から約1ヶ月前から、スミモトの郊外各所で人喰い狼がキッチリ5日刻みで現れるようになった。
その狼の体高は成人男性の胸のあたりまであり、これに狙われた者は決して逃げられない。
この狼は家畜には目もくれず、人間の若い娘ばかりを狙うという。
5日が過ぎるたびに、女が1人ずつ喰われてゆく。
郊外の民は震え上がり、討伐に向かった冒険者は1名を残して行方知れず。
その者が言うには、東部大森林の奥底、古くは魔女の森と呼ばれる密林の大岩の前を、白い大狼は寝床にしているという。
いや、なにそれ、ムチャクチャ怖……っ。
間違いなくこれ、ダークファンタジー系のクエストじゃん。
けどまあ、魔王とタイマンするよかマシだし、きっとどうにかなるでしょ!
と前向きに、俺は白い朝日を浴びながら狼狩りに出た。
ところがその道中、『そういえばここでシペラスに襲いかかってその後に干し草の中に捨てたなー』と思い返す昨日ぶりのポイントで、なんかデジャブる光景が繰り返された。
「お待ちしておりました、ミフネ様」
「またお前かよ……」
テンプルナイトことシペラスだった。
彼女は丘の街道で両手を広げて、俺の道を阻んだ。
「昨日は不覚を取りましたが、今日はそうはいきません!」
「ええー、もういいじゃん……。それとも何、またエロいことされたいの……?」
「ぶ、無礼者っっ!! そのようなことを私が望むわけがないでしょう!!」
「え、まさか、図星……?」
「そ、そそそ、そんなわけありませんっ! 私は別にっ、あ、貴方のアレが……癖に、なってなんか……いませんから…………」
内股でふとももをすり合わせながら、耳まで真っ赤にした姿で言われてもね、『ソレ誘ってんの!?』って感想しか出てきませんでした、はい!
「わかった、そういうことね」
一歩踏み込むと白騎士は逃げ出して、10メートルも先の一本杉を盾にした。
……ちょっとかわいいかもしれん。
「ちちちっ、違いますっ!! 貴方はふしだらですっっ、男性と女性はもっと尊重し合い、愛を確かめ合ってから手を繋いだりするものでしょう!!」
「んなこと言われても返答に困る」
神殿所属のテンプルナイト様は今日日グレーテストに奥手だった。
面倒だから偏った貞操観念にはツッコミを入れない。
「いえ、それよりもそうではありません! 私は別に、火照る体を慰めていただききたのではありません!」
「え、火照ってんの?」
「火照ってませんっ!!」
唐突に、ムラッときた。
シペラスは価値観が古くてめんどくさい宗教系地雷娘、というカテゴリーにあたる女性である。
そこはわかってはいるのだけど、見目麗しく、純粋で、無知で、なんかこう、いたずらしたり、騙してやりたくなる雰囲気があった!
「大変だなー」
「貴方のせいですっっ!! 貴方があんなことするから――う、ううっ……」
そろそろそうやって、恥ずかしそうに内股でモジモジするの止めてもらえないかな。
だって【緑の人よ、白き大狼を討て】って気分じゃなくなっちゃうし……。
「と、とにかくっ、話は聞かせていただきました!!」
「へ、話? いきなり、どゆこと?」
「緑の英雄殿、その大狼が引き起こした事件には、貴方と同じく私も胸を痛めております……。娘さんを食べられてしまった親御さんは、さぞやるせない悲しみにくれていることでしょう……」
「ああ、手伝ってくれるってことか」
「はい、貴方に死なれては困りますので」
なんだそんなことか。
俺はシペラスのやさしさと人間らしさに彼女を見直しながら、歩み寄って握手の手を差し出した。
「ちょうど一人で不安だったんだ、一緒にがんばろう、よろしく!」
端から握手に応えてくるとは考えていない。ただの意思表示のための動作だった。
なのにその手を、シペラスは顔を真っ赤にして見下ろしている。
やがて迷い迷い手を上げて、危険なその手に握手を交わしてくれた。
「んっ、んん……っ、よ、よろしく、はうっ、おね、お願いします……っっ。は、はぁっ、はぁぁーっっ?!」
「はは、俺と握手するなんて勇気あるな。気に入ったよ」
ピクピクと小さな余韻に震えるシペラスを背中に従え、俺は魔女の森と呼ばれる危険な密林を目指した。
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