・追跡者 白騎士シペラス
賢者の手記は弟子たちに3つに寸断され、世界各地に散逸――いや事実上の封印をされたという。
ま、それは当然だろう。
異世界から何かを呼び出す力なんて、そんなのどう考えたって、ヤベー。
ウーバーイーツを頼むくらいのお手軽感覚で、世界だって『ポーンッ』と滅ぼせちまう。
召喚、ICBM!
世界は滅びる! みたいに。
勇者召喚ってそう見ると、ハブを駆除するためにマングースちゃんを放すのそう変わらない。
結局はツケを払うことになる。
ともあれ世界からすればヤベー過ぎる賢者の手記が、俺はエルフ耳が優美でむっちりセクシーなナタネ女教授から、大陸南方のトモマク地方に隠されていることを聞き出した。
大陸東方の学術都市アサティスから、南方トモマク地方の産業都市スミモトまで、徒歩で8日間もかかる長い旅路となったのである。
馬車?
平地の多い土地ならともかく、今回の旅ではほとんど出番がなかった。
馬車なんてものは、傾斜面の前にはクソザコナメクジなのであーる!
「おお、あれが産業都市スミモトか! 思ってたより、でっけーっ!!」
スミモトは海沿いに位置する大都市だった。
たくさんの工房と倉庫が立ち並び、海岸沿いには大きな貨物港まで見える。
都市に向けて合流する2つの河も水運が活発なようで、産業都市と呼ぶよりも、産業+交易都市と呼んだ方が正しい一大生産拠点だった。
低い丘からそれらを見下ろした俺は、脇では牧畜が行われている平和な街道を進んだ。
今日の晩飯は海魚にしようか。
賢者の手記を探しながら、しばらくあそこでゆっくりするのも悪くない。
刺身とか食いたい。
イカもいい。
タコを食べない地方が多くて困っている。
生魚がダメならイカスミパスタとか、ないかな。
とにかく今日は魚介が食いたい!
飯のことばかり考えながら歩き、馬車のために左右に織りなす道の折り返し地点を俺は曲がった。
すると――
「お待ちしておりました、ミフネ様」
そこに可憐な白騎士が俺を待ち伏せしていた。
彼女の名前はシペラス。
職業:テンプルナイト。
んで、すごく雑に言ってしまえば、仲間に【クジ箱にすら入らない丸見えの貧乏くじ】を引かされたことにも気づかない、超しつこい追っ手ちゃんだ。
髪はくすんだ赤色。
顔立ちは欠点なく整っていて、女にしては背が高い。
装備は華やかな剣と銀色の軽装鎧。
やたらに短いスカートとニーソックスの狭間からは、男を惑わす魅惑の魔術【絶対領域】の力がパッシブで放たれているのだが、本人にはまるで自覚がないようである……。
女の子にとってのカワイイは、男の子にとってのエロいになる。
世の中にままあることだった。
「よく俺の行き先がわかったな……」
「造作もないことです。全身緑色の、背がこんなに高くてひょろ長い男はいなかったかと聞けば、覚えていない者はそうおりませんでしたから」
「全身緑色で何が悪い!」
「人様の美的感覚に注文を付ける趣味はありませんけど、全身緑は、どうかと……」
「ピカピカの白騎士やってるやつに言われたくないぜ、俺はよーっ!?」
シペラスはある王国のルルド神殿に仕えている。
その神殿こそが俺たちを断りもなく召喚した戦犯だ。
俺たちが追放劇を演じたのは、俺たちを召喚した王国および神殿の連中を欺くためだった。
「そろそろ勇者パーティに戻っていただけませんか?」
「無理だ、俺が帰りたがってもあいつらが望まない。だってそうだろう、俺は、全身セクハラ人間だ」
「ぅ……っっ」
そう俺が言い訳すると、シペラスの色素の薄い頬に朱がさした。
「ほらな、お前だってそうなるんだ。俺みたいなのと一緒に行動できるわけないだろ」
「そ、それはそうかもしれませんがっ、神は、共に魔王を討てとおっしゃっております!」
「いや、俺は俺なりのやり方で魔王と戦う。俺は勇者パーティの別働隊、志は常にあいつらと共にある」
話にならないので横をすり抜けようとすると、両手を広げて阻まれた。
「この先に行きたかったら私を倒してからにしなさい!」
「倒す? この前みたいに……?」
「ぇ……っ、ひ…………っ!?」
シペラスが涙目になって後ずさる。
それは完全にケダモノを見る目だった。
こうなってしまったのはかれこれ1ヶ月半前、彼女が追っ手として初めて俺を阻んだ時のことだった。
あ、回想入ります。
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