第11話-影喰いと紅白歌合戦の影バトル

■メインビジュアル(わたるとカゲ)

https://kakuyomu.jp/my/news/16818093090644023638


大晦日の夜。

わたるはリビングのソファにどっかり腰を下ろし、テレビをつけた。

画面にはお馴染みの紅白歌合戦が映し出されている。


「大晦日ってのはこれだよな……って、今年もまた同じ顔ぶれかよ。」

缶ビールを開けながらぼやく航の隣で、カゲが尻尾を揺らしていた。


「航、お前さぁ……この番組見て何が楽しいんだよ?」

「いいんだよ、年末の風物詩なんだから。」

航がポテトチップスをつまみながら答えるとカゲが画面をじっと見つめた。


「おい、これって影の宝庫じゃねぇか?」

「……何?」

航が驚いて振り返ると、カゲの目が輝いている。


「見ろよ、あのステージのライト。そこにいる連中の影、エネルギーが詰まってそうだろ?」

「いやいや、あれは歌手だぞ!影喰いとか関係ねぇから!」

「関係あるねぇ。歌ってる奴らの影ってのは、感情が溢れてて絶品なんだよ。」

カゲは尻尾をふりふりさせながら、画面の中の歌手たちを指差した。


「ほら、あいつの影、絶対希望と緊張が入り混じってる味だぞ!」

「希望と緊張に味なんてねぇよ!」

「いや、俺には分かる。あの影には青春の苦味が詰まってる!」

「苦味ってお前、歌手に謝れ!」

航がツッコミを入れるが、カゲの興奮は止まらない。


今度はステージの中央で感情を爆発させるように歌うバラード歌手の影をじっと見つめる。

「おい航、あれだ!あいつの影は絶対、悲しみと愛のコクが深ぇ!」

「影にコクとかあるのかよ!しかも悲しみと愛って、カフェラテみたいに言うな!」

「いやいや、分かるだろ!心が引き裂かれるような失恋の苦さと、でも忘れられない甘さが混ざってるんだよ!」

「だから飲み物じゃねぇんだって!歌手の情熱を影で喰おうとすんな!」

カゲの鼻先がピクピク動き、興奮が抑えきれない。

「これは影喰い界のデザート!絶対に一口喰わなきゃ損だ!」

「やめろ!そんなことしたら情熱が冷めるわ!」


次に、ステージでキレキレのダンスを披露するアイドルグループに目を奪われるカゲ。

「航、見ろよ!あいつらの影、絶対エネルギーが漲ってる!しかもチームプレイのスパイスも効いてる!」

「スパイスってなんだよ!影をカレーみたいに表現するな!」

「いや、見てみろよ!あのリーダーの影は『仲間を引っ張る覚悟』が入ってるし、センターの影には『いつかソロで輝きたい野心』が滲んでる!」

「そんなドロドロした影、食ったら胃もたれするだろ!夢と希望だけ味わっとけ!」

カゲは身を乗り出して続ける。

「いやいや、夢と希望だけじゃ物足りない!この濃い影を一緒に喰うからこそ、本当の青春の旨味が楽しめるんだよ!」

「お前、アイドルの青春を影で味わうな!ファンに土下座しろ!」


「よし、ちょっと試してみるか。」

そう言うなり、カゲがテレビの前に飛び出した。

「おい待て!お前テレビの中には入れねぇからな!」

航が慌てて引き止めるが、カゲは画面に映る影をじっと見つめている。


「ふむ……あれは努力の影だな。ちょっと焦げ臭いけど悪くない。」

「お前、何言ってんだよ!」

「で、こっちは……おっ、これはいいな。夢と挫折が絶妙にブレンドされてる!」

「夢と挫折って何だよ!勝手に物語作るな!」


その時、テレビ画面が急に切り替わり、派手な照明演出で赤組と白組が激突するステージが始まった。

カゲが目を輝かせながら叫ぶ。

「これぞ影のバトルロワイヤルじゃねぇか!」

「いや、ただの演出だから!落ち着け!」


しかし、カゲは落ち着くどころか、テレビの影に向かって前足を伸ばし始めた。

「おい航、これ喰わせろ。絶対うまい!」

「喰えるわけねぇだろ!テレビの影だぞ!」

「いや、俺ならいける!」

「やめろ!壊れるから!」


航が必死でカゲを引き戻すが、カゲはしつこく画面にかぶりつこうとする。

その拍子に、航の足がリモコンに当たり、テレビのチャンネルが切り替わった。


「おい!歌合戦戻せよ!」

画面には突然、料理番組が映し出された。鍋料理を作るシェフが画面いっぱいに映っている。


「ほら見ろ!お前のせいで鍋になっちまったじゃねぇか!」

「鍋もいい影してんな。」

「まだ言うか!」


結局、チャンネルを戻すのに手間取りながらも、航とカゲの大騒ぎは夜遅くまで続いた。

――こうして二人の賑やかな年越しが幕を開けるのだった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


★読者のお悩み相談コーナー: 「カゲさんに聞け!(ↀДↀ)✧」


お悩み:

「カゲさん、今年一年、反省ばかりして終わりそうです。どう切り替えたらいいですか?」

(読者: 社会人・28歳)


カゲ:

反省か。まぁ、お前も影をしっかり溜め込んでるみてぇだな。

でもな、影喰いの俺から言わせりゃ、反省ばかりの一年も悪くねぇぞ。

影ってのは、後悔やら焦りやら、そういう感情が濃くなるほど美味いからな。


切り替え方?簡単だ。次の一年は新しい影を作りゃいいだけだろ。

過去の影は俺が喰ってやるから、明日は明日で新しい影を育てろってこった。

ほら、紅白みたいに盛り上がるイベントがあるだろ?最後は楽しんで締めるのが一番だ。


来年もお前の影を美味しく育ててくれよな!次のお悩み相談、待ってるぜ!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

【影喰いの黒ねこ】本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16818093090548222724

【カクヨムコン10に参加してます応援よろしくお願いします】

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