第10話-影喰いと年末準備の大騒動

■メインビジュアル(わたるとカゲ)

https://kakuyomu.jp/my/news/16818093090644023638


年末も押し迫った昼下がり、わたるはスーパーの袋を両手に提げて帰ってきた。


「ったく、人が多すぎて疲れた……年末ってのはどこも戦場だな。」

玄関を開け、どっこらしょとリビングに袋を置く。


「おい航、何その大量の荷物。影じゃなくて食材買い込むとか、珍しいな。」

リビングの隅で丸くなっていたカゲが、尻尾を揺らしながらこちらを見ている。


「珍しくねぇよ。年末だから正月準備だ。」

航は袋から次々と鏡餅、しめ縄、そしておせちの食材を取り出していく。


「おっ、いいねぇ。これぞ“日本の年越し”ってやつか。」

カゲがじりじりと近寄ると、目を輝かせて鏡餅を見つめる。

「なぁ航、この鏡餅、絶対特別な影が宿ってるだろ?」


「宿ってねぇよ!これは飾るもんだから触るなよ。」

航がテーブルの中央に鏡餅を置き、しめ縄を壁に飾り始める。


「正月飾りってやつか。なんか神聖な雰囲気だな。」

カゲはしめ縄を見上げ、興味津々の様子。


「おい、だから触るなって言ってんだろ!」

航が注意する間もなく、カゲはしめ縄に手を伸ばして引っ張り始めた。


「おい、やめろ!それ崩れ――」

その瞬間、しめ縄が床に落下。飾りがバラバラに散らばる。


「影の芸術だな、これ。」

「芸術じゃねぇ!どこがだ!」

航が頭を抱える一方、カゲはしめ縄の陰影をじっくり眺めている。


次に、カゲの目は冷蔵庫の中のおせち料理に向いた。

「おいおい、これ黒豆の影じゃねぇか?絶対うまいぞ。」

「喰うな!これは正月に食べるもんだ!」

航が冷蔵庫を閉めるが、カゲはしぶとく扉の隙間から顔を突っ込む。


「影だけならバレねぇだろ?」

「バレバレだ!味のしない黒豆とか誰得だ!」


そんな攻防が続く中、突然、鏡餅がテーブルから転がり落ちた。

「おいおい、これ転がるのか!」

カゲが尻尾で鏡餅をちょん、とつついた。

「おいおい、なんだこれ。やたら丸くて弾力があるじゃねぇか。」

興味を惹かれたように、カゲは鏡餅を前足で軽く押し、転がしてみる。


「おい、それは飾り物だぞ!遊ぶな!」

航が声を上げたが、カゲは無視してさらに鏡餅を押し転がし始める。


「ほら見ろよ、航!これ、意外といい弾みするぞ!」

カゲは鏡餅を追いかけ、尻尾をふりふりしながら猫のようにぴょんと飛びつく。

「にゃあっ!」と鳴きながら前足で鏡餅を器用に転がし、床を滑るように追いかけていく。


「いや、お前猫のつもりか!なんで影喰いが鏡餅でサッカーしてんだよ!」

航は慌てて鏡餅に駆け寄るが、カゲはその動きを軽くかわし、再び鏡餅を転がす。


「どうだ航、この絶妙なカーブ!俺、影喰い界のリフティング王になれるかもな!」

「リフティング王って何だよ!しかもお前、絶対そのまま割る気だろ!」

航が必死に鏡餅を止めようと追いかけるが、カゲはさらに素早く鏡餅を弄ぶ。


「にゃはは!ほら、次はジャンピングスパイクだ!」

カゲは後ろ足で跳ね上がり、空中で鏡餅を勢いよくポンと蹴り上げた。

「うおっ、危ねぇ!」

航が鏡餅をキャッチしようと飛びつくが、タイミングが悪く、手からこぼれた鏡餅は床で見事に真っ二つに割れた。


「……割れたじゃねぇか!」

航が床に転がった鏡餅を見て呆然とする横で、カゲは平然と尻尾を振っている。


「おいおい、鏡餅って割れるのが本来の目的だろ?これでちょうどいいじゃねぇか。」

「違う!割るのは正月が来てからだ!なんでお前が先走ってんだよ!」

航が頭を抱える中、カゲは満足げに鏡餅の破片をつつき、ポロリとこぼれた餅に鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。


「おい、まさか食べる気じゃないだろうな!」

「これも影の一部だろ?喰ったら美味そうだぜ!」

「食うなーーー!」

「ちょっと影だけ喰わせろよ。味見だ、味見。」

「影を喰ったら正月まで何も残らねぇだろ!」


結局、航が慌てて鏡餅を修復するも、少しひび割れた状態でテーブルに戻されることになった。


一段落して、ソファに腰を下ろした航が溜息をつく。

「はぁ……これが俺の年末かよ……。」

すると、カゲが得意げに笑いながら尻尾を揺らす。

「でもお前、笑ってたぞ。正月準備って案外楽しいんだろ?」


「楽しいわけねぇだろ!お前のせいでバタバタしただけだ!」

航が怒鳴るが、その表情にはほんの少し笑みが浮かんでいた。

――賑やかで、どこか懐かしい年末の風景。

航は心の中で小さく呟いた。

(……まぁ、こんな年末も悪くねぇか。)


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



★読者のお悩み相談コーナー: 「カゲさんに聞け!(ↀДↀ)✧」


お悩み:

「カゲさん、年末になるとやる気が起きないんです。どうしたらいいですか?」

(読者: 社会人・32歳)


カゲ:

やる気が起きねぇ?そりゃ航を見てれば分かるが、年末なんてのは影を溜め込む季節だ。

大掃除だ、正月準備だって、あれこれ面倒事が増えるからな。


でもな、影喰いから言わせりゃ、影ってのはそんな忙しさの中で一番濃くなる。

つまりだ――やる気がなくても動いてみろ。

お前の影は自然と濃くなるし、俺が喰いたくなるくらい美味くなる。


それでも動けねぇ時は、鏡餅でも眺めてみろ。

意外とあれ、リラックス効果あるんだぜ。

ま、俺に言わせりゃ、年末なんて気楽にやりゃいいのさ。次のお悩み待ってるぜ!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


【影喰いの黒ねこ】本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16818093090548222724

【カクヨムコン10に参加してます応援よろしくお願いします】

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