第4話-影喰いとサンタクロースの正体
■メインビジュアル(
https://kakuyomu.jp/my/news/16818093090644023638
「街中、浮かれてんなぁ……」
その横で、黒いぽっちゃりシルエットのカゲが尻尾をパタパタと揺らしている。
「おい航。」 カゲが唐突に口を開いた。
「……何だよ。」 航はビールを置き、カゲを一瞥する。
「サンタクロースの影、喰ってみてぇ。」
「……はぁ?」 航は呆れた表情で首を傾げる。
「サンタなんかいねぇよ。」
「いやいや、そこが重要じゃねぇんだ。」
カゲの目がキラリと光る。
「サンタがいるって信じた瞬間、影に味が宿るんだ。夢と希望、ちょっとした切なさの三拍子揃った影――これは喰わずにいられねぇ。」
「お前、また変な理屈作ってんじゃねぇよ。」
航はビールを一口飲みながら肩をすくめる。
その時、テレビからニュースが流れた。
『○○公園でサンタクロースらしき人物が目撃されました――』
「ほら見ろ、やっぱりいるじゃねぇか!」
カゲがリビング中を跳ね回る。
「どう考えてもただの酔っ払いのコスプレだろ。」
「それでも影は本物だ!」
カゲの尻尾が勢いよく揺れ、航に飛びかかってきた。
「さぁ、出発だ!」
「待て待て待て!なんで俺まで巻き込むんだ!」
航は渋々、大きなリュックを取り出した。
「お前の体型じゃ普通のバッグに入らねぇから、これにしろ。」
リュックを地面に置くと、カゲがゆっくりとその中に収まった。
「ぎゅうぎゅうじゃねぇか!」
カゲの頭と尻尾がリュックからはみ出している。
「我慢しろ。誰にも見つからないようにするためだ。」
「俺が影喰い界の貴族だってこと、忘れてねぇか?」
「忘れてるわ!貴族ならお上品に静かにしてろ!ああっ重てぇ!」
航がリュックを背負うと、カゲが不満げに唸る。
「俺だってこの体勢は気に入らねぇ!」
公園に着くと、赤い服のサンタらしき人物がベンチで酒瓶を振り回していた。
「……絶対に酔っ払いだろ。」
航は冷ややかに呟いたが、リュックの中のカゲは興奮を隠せない。
「見ろ!あの影、まさに特級品だ!」
「ただの酔っ払いの影だろ!」
「いや、違う。この影にはクリスマスの希望と悲哀が混ざってる。」
カゲがリュックから顔を出し、真剣な表情を浮かべた。
「真剣な顔してるけど、ただの狸にしか見えねぇ!」
「黙れ!俺の芸術的嗅覚が分からねぇ奴に説明しても無駄だ!」
カゲが突然リュックから飛び出しサンタの影に突進した。
「おい待て!お前そのまま行く気か!」
航が必死に追いかけるが、カゲは軽快にベンチの下に滑り込む。
「おっさん、その影一口喰わせろ!」
「な、なんだこの狸は!」
サンタが驚き、酒瓶を振り回す。
「狸じゃねぇ!」
航が慌ててカゲを引き戻そうとするがタイミング悪くサンタが振り回した袋が航の頭を直撃。
「うわっ!」
航はその場に倒れ込みながら、呻き声を上げる。
その隙に、カゲはサンタの影にじりじりと近づいていく。
「おいおい、これぞクリスマスの影!これは喰わずにいられねぇ!」
「待てって!喰うなよ!」
航が体勢を立て直そうとするが、今度はサンタが足元でふらつき思い切り航の足を踏む。
「いってぇぇぇぇ!!」
航が叫ぶ中、カゲはついにサンタの影にかぶりつく。
「んんっ!この影、濃いけどしょっぱさがいいアクセントになってる!うまい!」
「食レポしてる場合か!」
航が足を押さえながら叫ぶが、カゲはさらに勢いづく。
サンタも気づいたようにカゲを見下ろし酔った勢いでさらに声を張り上げる。
「おい、この狸、俺の影に何してやがる!」
酒瓶を振り回しながらカゲに迫る。
「狸じゃねぇっつってんだろ!」
航がカゲを抱きかかえて守ろうとするが、足元で転び、今度は酒瓶が空振りした勢いで航の背中にゴンッ!
「ぎゃあああ!酔っ払いの影守るために俺がボコられるのは納得いかねぇぇ!」
倒れ込む航。その顔にはもはや諦めすら浮かんでいる。
「大丈夫だ、航!」
カゲが影から顔を上げると、ご満悦の表情でこう言い放つ。
「この影、夢と希望とちょっとした切なさが絶妙にブレンドされてる――これぞクリスマス特製の逸品だな!」
「誰が影を逸品扱いしろって言った!」
航は倒れたまま叫び、カゲに向けて手を伸ばすが、その手にサンタの袋が降ってくる。
「うわぁ!」
その間に、またもやカゲはサンタの影にかぶりつく。
「喰うなって言ってんだろ!」
航が倒れたまま叫ぶが、カゲは満面の笑みだ。
カゲが影を味わい終えると、サンタが大きく伸びをしながら笑い出した。
「いやぁ、なんだかスッキリした気分だ!お前らのおかげかもな!」
航は頭を抱えながら答える。
「いや、俺ボコられただけなんだけど……」
サンタは袋の中を探り、何かを取り出した。
「ほら、このプレゼント、余ったからお前らにやるよ!」
「余ったってなんだよ……」
航が呆れつつも受け取ると、中には小さなチョコレートの詰め合わせが入っていた。
カゲはその瞬間、目を輝かせた。
「おお!やっぱりサンタは本物だったな!」
「いや、ただの酔っ払い。」
カゲはそんな航を見下ろしながら尻尾を揺らし、飄々とこう言う。
「でもお前、こんなスリリングなクリスマス、初めてだろ?」
「スリリングすぎだ!寿命が縮むわ!」
航が叫ぶが、その顔には少しだけ疲れた笑みが浮かんでいた。
――クリスマス。
気づけば、これまでの人生で特別だと感じたことなんて一度もなかった。
幼い頃も、家族が騒がしくケーキを囲む中、自分は端っこで静かに過ごしていた。
一人暮らしを始めてからは、ただの日常の一部として過ぎ去るだけだった。
でも、今は違う。
「……こんなクリスマスも悪くないな。」
航がぼそりと呟くと、カゲが得意げに尻尾を揺らしながら毒舌を吐いた。
「おいおい、急に感慨に浸るなよ。それとも俺のおかげで年に一回の幸せ噛みしめてんのか?」
そして、チョコレートに目をつける。
「で、そのチョコは俺がもらうぜ!」
「やらねぇよ!」
航がチョコを死守しながら、夜空を見上げる――。
空には雲の切れ間から星が瞬いていた。
ドタバタしたけど、不思議と温かい気持ちになった航の胸には、ほんの少しだけ希望の光が灯っていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ ★
読者のお悩み相談コーナー: 「カゲさんに聞け!(ↀДↀ)✧」
******
お悩み1: 「カゲさん、クリスマスが楽しいのは分かるけど、影喰いにとって特別な日なの?」 (読者: 主婦・35歳)
カゲ:
特別かどうかって?
そりゃ特別中の特別だ。
クリスマスはな、人間が色んな感情を撒き散らす日なんだよ。
浮かれたり、寂しくなったり、プレゼントで喜んだり、逆にケンカしたり……
感情のデパートみてぇなもんだ。
それが影に染み込むから、喰う側としては味のバリエーションが豊富で最高なんだよ。
ただしな、間違えちゃいけねぇ。影喰いだって食べ過ぎると太るんだよ。
俺も今回の酔っ払いサンタの影でちょっと腹が……ほら、ぽっこり。
航がダイエットしろってうるせぇから、年内は控えめにするつもりだぜ。
……ま、気が向けばな。
******
お悩み2:
「航さんとのクリスマス、楽しそうですね。でもカゲさん、航に感謝してます?」
(読者: OL・28歳)
カゲ:
感謝だと?
アイツが俺に影喰わせてる時点でお互い様だろ。
……まぁ、仕方なく言ってやるとだな。アイツ、結構面倒見いいんだよな。
リュックに詰められたのはムカついたが、外に連れ出してくれるのは悪くねぇ。
でも感謝ってのは性に合わねぇから、言葉にはしねぇよ。
あいつの影を喰い尽くすまではな。
******
お悩み3: 「サンタクロースを信じたいけど、大人になると難しいです。どうしたらいいですか?」
(読者: 学生・19歳)
カゲ: 信じたいなら信じりゃいいだけだろ。
大人になったってそんなの自由だぜ。
影ってのは人間の思い込みや期待で濃くも薄くもなるんだ。
サンタがいるって信じる影は、それだけで旨味が詰まる。
お前も思い切り信じてみろ。
影が濃ゆくなったら、俺が喰ってやるからな!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【影喰いの黒ねこ】本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16818093090548222724
【カクヨムコン10に参加してます応援よろしくお願いします】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます