第3話-影喰いと深夜のおやつ戦争
■メインビジュアル(
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深夜、
部屋の中は静寂に包まれ、唯一聞こえるのは冷蔵庫の低い唸り声だけだ。
「んー……これしかねぇか。」
航は小さなコンビニプリンを手に取り、うっすらと笑みを浮かべた。
「レンチンで食えるやつって書いてあるな。夜食にはちょうどいいか。」
さっそく電子レンジに入れ、タイマーをセットする。
しかし、その気配を察した黒い影
――カゲが、部屋の奥からぽてぽてと歩み寄ってきた。
ぽっちゃりとしたシルエットは、狸の置物そのものだ。
「おいおい、こんな時間にプリンかよ。影喰いの俺にも少しは分けろよ。」
カゲはテーブルに飛び乗り、尻尾を揺らしながらニヤリと笑う。
航はプリンを取り出しながらツッコむ。
「分けるも何も、これ一人分だろ!影喰いとプリンの取り合いって、どんな同居生活だよ。」
「いいじゃねぇか。夜のプリンには影がたっぷり詰まってるもんだ。」
「お前が適当なこと言ってるのは分かる。」
航は冷えたスプーンを構え、プリンを守るように構える。
カゲは悠然と座り直し、その丸い体をテーブルに押し付けるように前のめりになる。
「お前さ、プリンに影がどんだけ詰まってるか知らねぇだろ?俺が喰ってみせてやるよ。」
航は眉をひそめた。
「喰われたら味とか変わんのか?」
「さぁな。それも実験だろ?」
カゲがスルリと動き、尻尾でプリンの影をなぞるように撫でた。
瞬間、薄暗い影がカゲに吸い込まれていくように消える。
「……これで影喰い完了だ。」
カゲは目を閉じ、胸に手(前足?)を当てながら、深く息を吸い込むようにして大袈裟に語り始めた。
「ふむ、これはまさに芸術だな……!濃厚な夜の孤独に、一片の希望が射し込む光のような滑らかさ。そして焦げカラメルのほろ苦さが、この世の無常をも感じさせる。これはただのプリンではない。これは人生だ!闇と光、甘美と苦みの共演、舌の上で繰り広げられる壮大な叙事詩……まさに至高のデザートだ!」
航はスプーンを持ったまま呆然と立ち尽くした。
「……いや、お前それただのコンビニプリンだぞ!」
カゲは胸を張りながらさらに続ける。
「この影の濃さと滑らかさの調和は、まるでラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を彷彿とさせる繊細さだな!航、これを食わずしてデザートを語る資格はねぇ!」
航は思わずツッコんだ。
「いや、ラフマニノフ関係ねぇだろ!しかもお前、絶対食べ物以外でそんな例えしたことないだろ!」
カゲは無視して、さらに目を細めた。
「ほら、プリンの表面に光るこの艶やかさ……!これは深夜の月明かりを浴びた静かな湖面だ!そんな湖を泳ぐのは、俺という影喰いの貴族よ……!」
航は限界だった。
「貴族がプリンの影喰ってんじゃねぇよ!普通に味わえよ!」
「ったく、夜の孤独とか言われて食いづらいわ!」
「まあ遠慮すんな、ほら影のなくなったプリンだ。食えよ。」
カゲが手を広げるように促すと、航は意を決してひと口すくい、口に運んだ。
しかし――。
「……ん?」
航の表情が曇る。
「なんか、薄くね?」
もうひと口食べてみるが、味気ない甘さが舌の上に広がるだけだ。
「おい、これ、カラメルのコクがどっか行ってんぞ!」
航が抗議すると、カゲは腹を揺らして笑った。
「当たり前だろ。影喰いしたんだから、余計な『重み』は全部俺の腹の中だ。」
「余計な重みって!それ、プリンの大事な部分だろ!」
航はスプーンを叩きつけるように置き、苛立ちを隠せない。
カゲはそんな航をからかうように尻尾を揺らす。
「気にすんなよ。お前もプリンの軽やかさを楽しむ新境地を見つけたと思えばいいだろ。」
「新境地とかいらねぇ!普通に甘くて濃いプリンを食わせろ!」
航の怒号にも似たツッコミが深夜の静けさを打ち破る。
カゲは飄々と椅子から降り、部屋の奥へと歩きながら最後に一言だけ振り返った。
「次は影喰いされないように、俺の目につかないところで食えよな。」
「だったらお前が寝ろ!」
航とカゲの深夜のおやつ戦争は、こうして航の敗北で幕を閉じたのだった。
航とカゲの奇妙な同居生活は、これからも続く……。
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読者のお悩み相談コーナー: 「カゲさんに聞け!(ↀДↀ)✧」
お悩み: 「影喰いをやめたくなったことはありますか?」
(読者: OL・28歳)
カゲ:
やめる?そりゃねぇな。影喰いが俺の生き甲斐だからな。
けどな、影ってのはお前ら人間が勝手に抱えてるもんだろ?
だから、喰ってやった後に文句言われるとちょっとムカつく。
でもまぁ、そういう影すら喰っちまうのが俺の仕事だ。
それにしても、この航のプリンみたいに喰いすぎると「軽くなりすぎる」のも考えもんだな。
お前も影の抱えすぎには注意しろよ。
影喰いがいなくても、自分でちゃんと加減しろ。
そしたら俺みたいに腹が出ることもねぇしな!( ✧Д✧) カッ!!
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【影喰いの黒ねこ】本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16818093090548222724
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