第5話-宅配便と影喰いの罠
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休日の昼下がり。
「午後は映画三昧だな。さて、何を観ようかな~」
そんな平和な時間も、あの黒いぽっちゃりシルエットの登場で崩れ去る運命にあった。
「おい航。」
部屋の隅でゴロゴロしていたカゲが尻尾を揺らしながら言う。
「お前、影喰わせるの忘れてんじゃねぇか?」
「またそれかよ!」
航は呆れながらスマホを放り投げた。
「今、影を溜め込んでる感じはないんだって。」
カゲはじっと航を見上げた後、ふと耳を動かす。
「ん?おい、今ピンポン鳴ったぞ。」
「え、宅配便かな?」
航は面倒そうにソファから腰を上げた。
「はーい、今行きまーす!」
荷物の到着に、少しだけテンションが上がる航。
リビングの片隅では、カゲがゴロゴロと寝転がっていた。
「また荷物かよ。お前、無駄に物増やしすぎじゃねぇのか?」
カゲは尻尾をパタパタしながら文句を垂れる。
「うるせぇな。これは必要なもんだよ。」
玄関に向かいながら航は答えた。
ドアを開けると、そこには若い宅配業者が立っていた。
「こちら、ご注文の品です。お受け取りお願いします。」
業者が差し出したのは、少し大きめの箱だ。
「どうもありがとうございます。」
航が礼を言って荷物を受け取ろうとしたその時――。
「おいおい、その影、なんか良さそうじゃねぇか。」
背後からカゲの声が聞こえた。
「はぁ!?影を喰うなよ!」
航は思わず振り返るが、宅配業者には当然カゲの声は聞こえていない。
「……何か問題でも?」
不思議そうに首をかしげる業者に、航は慌てて言い訳をする。
「あ、いや、なんでもないです!」
その間にもカゲがじりじりと玄関に近寄る。
「ほら、この影、程よい疲労感と期待感が混ざってるぞ。味見させろよ。」
カゲは興味津々で業者の足元にできた影をじっと見つめている。
「ダメに決まってるだろ!」
航が声を荒げると、宅配業者がさらに怪訝そうな顔をする。
「……猫ですか?でも、ちょっと……見た目が……。」
業者の視線がカゲに向けられる。
「あ、これ……珍しい種類の猫でして……。」
航が言い訳をし始めると、カゲはさらに調子に乗って尻尾を揺らした。
「見た目がなんだよ?お前、俺を狸扱いするんじゃねぇぞ。」
「黙れ!頼むから喋るな!」
航は心の中で叫びながら、外面を取り繕う。
「いやぁ、ほら、ちょっと太ってるだけで猫ですよ!」
航が必死に言い訳を続けるが、カゲはふてぶてしく座ったまま業者を見上げている。
「それにしても影が美味そうだな……一口だけ……。」
カゲがにじり寄ると、航は咄嗟に足でカゲを止める。
「ちょ、こら!お前、黙ってろって!」
必死にカゲを引き戻そうとするが、その動きはどう見ても「猫の珍行動」にしか見えない。
「……この猫、なんか狸っぽいですね。」
宅配業者のつぶやきに、航の冷や汗が一気に噴き出す。
「た、狸じゃないです!ほんとに猫なんで!」
必死に弁明しつつ、カゲを押し戻す航。
しかし、カゲはさらに悪ノリして影に前足を伸ばす。
「航、お前がちゃんと説明しねぇから、コイツ俺のこと狸扱いしやがった。責任取れよ。」
「責任取れって何だよ!てか、お前、尻尾引っ込めろ!ってか今は静かにしてろ!」
航が怒鳴るが、カゲはお構いなし。
カゲは航の足を飛び越え、宅配業者の足元に座り込みじっと睨みを利かせる。
「やっぱりコイツ、なかなかいい影持ってんじゃねぇか……ちょっと拝借するか?」
「お前が人から影喰ったらマジで問題になるだろ!」
航が叫ぶが、カゲはまるで聞いていない。
宅配業者は恐る恐る後ずさりし始める。
「えっと……あの、サインだけいただけますか……?」
航は慌ててペンを掴み、サインを書こうとするが
――その瞬間、カゲが突然しゃがみ込み、大きく尻尾を振り上げた。
「さあ、この影を喰わせろ!」
「やめろぉぉぉ!」
航は叫びながらカゲに飛びかかるが、間に合わず、カゲの尻尾が宅配業者の影に向かって振り下ろされる――。
結果、影をほんの一口だけ喰ったカゲが満足そうに顔を上げた。
「ふぅ……やっぱり新鮮な影はいいなぁ。」
「この状況をどう説明すりゃいいんだよ!」
航は頭を抱えるが、幸いなことに宅配業者は異変に気づいていない様子。
「えっと、あの……猫って、こういう動きするんですね……。」 と、若干引き気味で荷物を渡す宅配業者。
航は慌ててカゲを引き戻しながら無理やりサインを済ませる。
荷物を渡し終えると業者はそそくさと帰っていった。
「ありがとうございましたー!」 去り際の声は、どこか安堵感に満ちていた。
ドアを閉めると、航はその場にへたり込む。
「ったく、何なんだよお前!」
「いやぁ、なかなかスリリングで面白かったな。」
カゲは悪びれる様子もなく、尻尾を揺らしている。
「俺の寿命が縮むわ!」
「いいじゃねぇか。これでまたお前の影が増えたかもしれねぇぞ。」
「お前の飯の種に付き合ってられるか!」
「心配すんな。それより荷物開けろよ。中身、気になるなぁ。」
「お前、絶対荷物に触んなよ!」
航とカゲの攻防は、今日もこうして続くのであった。
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★読者のお悩み相談コーナー: 「カゲさんに聞け!(ↀДↀ)✧」
お悩み: 「カゲさん、影喰いのやりがいって何ですか?」 (仮想読者: 社会人・30歳)
カゲ:
やりがいねぇ……
まあ、強いて言うなら、美味い影に巡り会ったときだな。
影ってのは人それぞれ個性がある。
疲労感たっぷりの影とか、ちょっとしたウキウキ感が混ざった影とか。
喰ってみるまで分からねぇってのがまたいいんだよ。
ただな、最近は航みたいな鈍感野郎の影ばっかで退屈だぜ。
そろそろ旅に出て、違う影を味わってみてぇな
……いや、待てよ、旅先でも面倒見るのは航か。
やっぱりやめとくわ。
次のお悩み相談、待ってるぜ!
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【影喰いの黒ねこ】本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16818093090548222724
【カクヨムコン10に参加してます応援よろしくお願いします】
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