第5話-宅配便と影喰いの罠

■メインビジュアル(わたるとカゲ)

https://kakuyomu.jp/my/news/16818093090644023638


休日の昼下がり。



わたるはソファでくつろぎながら、スマホで映画を検索していた。

「午後は映画三昧だな。さて、何を観ようかな~」


そんな平和な時間も、あの黒いぽっちゃりシルエットの登場で崩れ去る運命にあった。


「おい航。」


部屋の隅でゴロゴロしていたカゲが尻尾を揺らしながら言う。


「お前、影喰わせるの忘れてんじゃねぇか?」

「またそれかよ!」


航は呆れながらスマホを放り投げた。


「今、影を溜め込んでる感じはないんだって。」


カゲはじっと航を見上げた後、ふと耳を動かす。


「ん?おい、今ピンポン鳴ったぞ。」

「え、宅配便かな?」


航は面倒そうにソファから腰を上げた。

「はーい、今行きまーす!」


荷物の到着に、少しだけテンションが上がる航。


リビングの片隅では、カゲがゴロゴロと寝転がっていた。


「また荷物かよ。お前、無駄に物増やしすぎじゃねぇのか?」

カゲは尻尾をパタパタしながら文句を垂れる。

「うるせぇな。これは必要なもんだよ。」


玄関に向かいながら航は答えた。


ドアを開けると、そこには若い宅配業者が立っていた。


「こちら、ご注文の品です。お受け取りお願いします。」


業者が差し出したのは、少し大きめの箱だ。


「どうもありがとうございます。」


航が礼を言って荷物を受け取ろうとしたその時――。

「おいおい、その影、なんか良さそうじゃねぇか。」


背後からカゲの声が聞こえた。


「はぁ!?影を喰うなよ!」


航は思わず振り返るが、宅配業者には当然カゲの声は聞こえていない。



「……何か問題でも?」


不思議そうに首をかしげる業者に、航は慌てて言い訳をする。

「あ、いや、なんでもないです!」



その間にもカゲがじりじりと玄関に近寄る。

「ほら、この影、程よい疲労感と期待感が混ざってるぞ。味見させろよ。」


カゲは興味津々で業者の足元にできた影をじっと見つめている。


「ダメに決まってるだろ!」


航が声を荒げると、宅配業者がさらに怪訝そうな顔をする。


「……猫ですか?でも、ちょっと……見た目が……。」


業者の視線がカゲに向けられる。

「あ、これ……珍しい種類の猫でして……。」


航が言い訳をし始めると、カゲはさらに調子に乗って尻尾を揺らした。


「見た目がなんだよ?お前、俺を狸扱いするんじゃねぇぞ。」


「黙れ!頼むから喋るな!」


航は心の中で叫びながら、外面を取り繕う。

「いやぁ、ほら、ちょっと太ってるだけで猫ですよ!」


航が必死に言い訳を続けるが、カゲはふてぶてしく座ったまま業者を見上げている。


「それにしても影が美味そうだな……一口だけ……。」


カゲがにじり寄ると、航は咄嗟に足でカゲを止める。

「ちょ、こら!お前、黙ってろって!」


必死にカゲを引き戻そうとするが、その動きはどう見ても「猫の珍行動」にしか見えない。


「……この猫、なんか狸っぽいですね。」


宅配業者のつぶやきに、航の冷や汗が一気に噴き出す。

「た、狸じゃないです!ほんとに猫なんで!」


必死に弁明しつつ、カゲを押し戻す航。


しかし、カゲはさらに悪ノリして影に前足を伸ばす。

「航、お前がちゃんと説明しねぇから、コイツ俺のこと狸扱いしやがった。責任取れよ。」


「責任取れって何だよ!てか、お前、尻尾引っ込めろ!ってか今は静かにしてろ!」

航が怒鳴るが、カゲはお構いなし。


カゲは航の足を飛び越え、宅配業者の足元に座り込みじっと睨みを利かせる。


「やっぱりコイツ、なかなかいい影持ってんじゃねぇか……ちょっと拝借するか?」

「お前が人から影喰ったらマジで問題になるだろ!」


航が叫ぶが、カゲはまるで聞いていない。



宅配業者は恐る恐る後ずさりし始める。

「えっと……あの、サインだけいただけますか……?」


航は慌ててペンを掴み、サインを書こうとするが

――その瞬間、カゲが突然しゃがみ込み、大きく尻尾を振り上げた。


「さあ、この影を喰わせろ!」


「やめろぉぉぉ!」



航は叫びながらカゲに飛びかかるが、間に合わず、カゲの尻尾が宅配業者の影に向かって振り下ろされる――。


結果、影をほんの一口だけ喰ったカゲが満足そうに顔を上げた。


「ふぅ……やっぱり新鮮な影はいいなぁ。」


「この状況をどう説明すりゃいいんだよ!」


航は頭を抱えるが、幸いなことに宅配業者は異変に気づいていない様子。

「えっと、あの……猫って、こういう動きするんですね……。」
と、若干引き気味で荷物を渡す宅配業者。


航は慌ててカゲを引き戻しながら無理やりサインを済ませる。


荷物を渡し終えると業者はそそくさと帰っていった。


「ありがとうございましたー!」
去り際の声は、どこか安堵感に満ちていた。


ドアを閉めると、航はその場にへたり込む。


「ったく、何なんだよお前!」


「いやぁ、なかなかスリリングで面白かったな。」


カゲは悪びれる様子もなく、尻尾を揺らしている。


「俺の寿命が縮むわ!」


「いいじゃねぇか。これでまたお前の影が増えたかもしれねぇぞ。」


「お前の飯の種に付き合ってられるか!」

「心配すんな。それより荷物開けろよ。中身、気になるなぁ。」

「お前、絶対荷物に触んなよ!」


航とカゲの攻防は、今日もこうして続くのであった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


★読者のお悩み相談コーナー: 「カゲさんに聞け!(ↀДↀ)✧」


お悩み: 「カゲさん、影喰いのやりがいって何ですか?」
(仮想読者: 社会人・30歳)


カゲ:


やりがいねぇ……

まあ、強いて言うなら、美味い影に巡り会ったときだな。


影ってのは人それぞれ個性がある。

疲労感たっぷりの影とか、ちょっとしたウキウキ感が混ざった影とか。

喰ってみるまで分からねぇってのがまたいいんだよ。


ただな、最近は航みたいな鈍感野郎の影ばっかで退屈だぜ。


そろそろ旅に出て、違う影を味わってみてぇな

……いや、待てよ、旅先でも面倒見るのは航か。

やっぱりやめとくわ。

次のお悩み相談、待ってるぜ!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

【影喰いの黒ねこ】本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16818093090548222724

【カクヨムコン10に参加してます応援よろしくお願いします】

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