第10話
俺は重大な精神疾患を患っているらしい。入院してた割と大きな病院ではそういう診察は行ってないらしく、駅近くの精神内科を紹介された。病院でも精密検査のために3ヶ月に1回通う必要があるそうだけど、とりあえず精神内科に行けということだった。たしかに、自殺するくらいだからメンタルは知らない間にやられてたのかもしれない。それに周りからだと精神と現実の乖離、つまり転生したことが記憶障害の一種に扱われるっぽい。
俺は初めての精神内科ということで、緊張していた。普通こんなとこ来ないし、どんな先生なのかも気になる。ネットのレビューがすごい低かったのがちょっと気になるがまぁ大丈夫だろう。そんな状態で病院に行ってまずびっくりしたことは、患者がとても多かったことだ。
(え、精神内科ってもっと暗いイメージなんだけど…変な人しかいないのは普通なのか?)
語弊のないように言っておくと、病気とか生まれ持った障害で変なのではなく純粋に変な人が多い。まだ春先で寒いのに裸足でサンダル履いてる人とか、ことあるごとに手を洗いに行く人とか。
看護師さんから問診票を渡されて転生したことをそれっぽく書かずに欄を埋めていく。今日は1人で来たから、自殺しかけたことを書いても問題ないだろう。この世界ではしてないことになってるけど、俺が自殺するほどあいつらへの失望と恨みが強かったのは間違いないんだから。1時間半ほど待ってやっと俺の番がやってきた。
「今日は初診ということで、どうも医者の高橋です。えーと、自殺未遂と精神と現実の乖離が起こってると…」
あ、男の先生だ。この世界で男の人と喋るの初めてな気がする。
「はい。首をカッターで切って起きたら今この世界にいました。起きる前は男女比率も50:50くらいの世界で…起きた当時は何が何だかって感じでした」
「自殺した理由聞いてもいいですか?」
結構グイグイ来るな、この先生。ていうか精神病んでる患者に原因聞くのは一番手っ取り早いかもしれないけど、聞き方がフランクすぎじゃないかって思う。だからレビューも低くなるのでは?て思う。
「え、と…親友だと思ってた男に自分の彼女を…寝取られて」
最後の方はなんだか、すごい恥ずかしくなってしまってゴニョゴニョしてしまったが通じたと思いたい。
「あーそうなんですね。今でも自殺願望とか死にたいとかそういう感情ありますか?」
今思い出しても”死にたい”というどす黒い感情に呑まれる。思い出さないようにはしてるけど、夢に見たり、寝る前に思い出したりしてしまう。忘れてしまえばいいんだろうけど、忘れたらいけないような気もする。この感情はどうしたらいいんだろうか。
「…落ち着いてきたんですけど、まだあります」
「じゃあとりあえず抗うつ剤軽めのから出してみるんで、また2週間後にきてください」
「はい…あ、ありがとうございました」
こうして、俺の精神内科デビューはつつがなく終わったのだった。薬代が想像以上に高く、また驚いたのを追記しておく。
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