第8話

「ヘレナとも勝負するのです!」


中山さんに勝負をふっかけられて数日が経った時のことだった。5’s Hの1人、坂田ヘレナから勝負を申し込まれたのは。


「坂田さん…勝負って何?」


「晴果ちゃんをオトしてみせたその手腕、ヘレナにもやってみてほしいです。晴果ちゃんは負けたって言ってたけど、ヘレナは負けないって断言します!それにレイがどんなことするのか…楽しみです」


ペロと舌なめずりをしてみせた彼女に、俺はまたも勝負を仕掛けられたと悟るのだった。今、俺は中庭のベンチで弁当を食べようとベンチに座った瞬間だった。前から坂田ヘレナが来ていたのはわかっていたが、俺目当てじゃないと思ってたからスルーしていた。坂田ヘレナは俺の方に向かってくると、俺の横に座り俺を挑発してきた。俺は面倒ごとは先に片付けてしまいたいタイプなので、弁当を食べる前に坂田へレナを倒すことにした。


「へぇー。坂田さんは俺に負けないの?どうして?」


坂田さんの顔を優しく包みこみながら、尋ねる。


「ヘレナだって、キスくらいしたことあります!だから男の子のレイとしてもあんまり変わらないと思います。やってみるのです!勝負にのらない男はカッコ悪いです!」


「そうだね。そこまで自信があるなら坂田さんからキス、してみてよ」


あまりにも自信満々に自分は負けない、と言ってくるものだからその実力はどんなものなのか気になって坂田さんからしてみるように促す。


「なっ!ここまで言っといて女の子からさせるなんて男の恥です!すこしくらい女の子を立てようって気にならないですか!?」


「じゃあ、遠慮なく」


喚いているのを気にせず、遠慮なく切り込んでいく。まずは初手でぐいぐい行きすぎないように唇に口付けることから始める。


「なんだ、やればできるじゃないですかっ、ふ…んっ」


唇をはむはむしてから、ペロリと舐める。ふと、目を開けてみるとあおと目が合う。目が合うと、半月状にしてうっとりとする碧に俺は素直に綺麗だなぁなんて思ってしまった。相手が喋ったと同時に口の中に舌を潜り込ませ、絡み付ける。


「ん、…」


坂田へレナは中山晴果に比べ喘がないタイプらしい。全然感じてる感じもしないし、さすが負けないって豪語しただけあるな。でも俺だって負けたくない。顔を支えていた手を両手に変えて、相手の耳を塞ぐ。


「んむ!?」


塞がれた瞬間ちょっともがいていたが気にしない。耳を塞いでいると、中の音が反響して感じやすくなるらしい。これは前の知識だけど、今役立っている気がする。耳を触っていると、体温変化がわかりやすく、とても熱いということはわかった。それに、さっきから手で俺の胸を押そうと一生懸命なのが伝わってくる。


(お?来るか?降伏宣言。でもどうしようかなー。俺が辞めるメリットないし。弁当食べる時間が少なくなるくらいだし…)


そう思っていると、頭がガクっとなって坂田へレナが倒れた。倒れた坂田へレナの顔を見ると、真っ赤になっており息もゼエゼエと絶え絶えになっていた。


「えっと…さすがに保健室連れてかなきゃだよね…いや、でも。うーん…弁当食べてからで良いか」


まぁ酸欠で失神したくらいじゃ大丈夫か、と思い弁当を食べ始める。数分後、目を覚ました坂田へレナはキョロキョロした後、隣にいた俺に向かって叫んできた。


「ヘレナは負けたなんて思ってないです!また勝負するのです!!別に気持ち良かったからじゃないんですからね!!」


「…へぇ、気持ち良かった、ね。結局良くなってんじゃん。負けないとか言ってたのにね」


「そ、それは…!ともかく、また勝負してくださいね、約束ですから!」


そう言って走り去っていった坂田へレナだったが、なんでこうもこの学園は勝負好きが多いんだろうか。あと3人もこんなことが続くと思うとなんだか嫌になってしまうが、俺のこの拙いテクで勝ててしまうんだから心地良くなってしまうのはしょうがないだろう。残りの3人、待ってろよと思い弁当を咀嚼するのだった。

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