第3話

目を覚ます度に、前の世界だったらどうしようって考えてしまう。女々しいと思われても構わない。それくらい前の世界には戻りたく無い。すでに俺の脳はこの世界を受け入れ始めている。そんな中無事退院をした俺を待っていたのは、高校への入学だった。前はちょっと見栄張って偏差値60の学校に入学したけど、今度の高校の偏差値は55くらいらしい。2駅隣の比較的近くにあった私立しか俺を受けいれてくれなさそうだったらしい。全部らしいで終わってるのは、知らない間に母さんが全部入学手続きなどを済ませてくれていたからである。やっぱ母は強しって言うけど、とは思ってしまった。


(母さん、頑張りすぎじゃね)


今日はもう4月の中盤だから、俺は数日間遅れての入学となる。それに、こっちの世界でも俺には父親がいないという事実が発覚した。俺なんかのせいで、母さん辛くさせてなんか悪いなって毎日死にたくなる。でも、こんな世界で目を覚ましたんだ。俺はこの世界で、あいつらを見返してやるんだ…!


「零?高校着いたよ。ほら、降りな」


「母さん、いつもありがとう」


「急にどうしたの、気持ち悪い。先生に挨拶しに行ったりしなきゃいけないんだから早くして」


急に日々の感謝を伝えられて、気持ち悪いとは言いつつも笑顔だから本心からの言葉ではないだろう。確かに同年代と比べたら、反抗期とか無かったと思う。今日だって高校まで、母さんに車で送ってもらったし。甘えてばっかで、いいんだろうか…やっぱ俺死んだ方がマシだったんじゃないか。そんな思考に陥っていた俺は、急に横から腕を引っ張られた衝撃で我に返った。


「さっきから目死んでるけど、ほんとに大丈夫なの?」


「だ…大丈夫」


全然大丈夫じゃないが、大丈夫しか口が動いてくれなかった。母さんは俺の心まで読めるのか?ていうポイントで腕を引っ張られた。そして今気付いたが、もう校内に入っていて校長室の目の前に俺は立っていた。校長室なんて入ったこと無いから緊張する。挨拶は母さんがしてくれるらしいので任せる。コンコンコンと3回ノックをする。


「今日入学予定の宮下の家の者です」


「宮下さんですね、お待ちしておりました。どうぞ」


やたらめったら丁寧に校長室に招かれた俺は、盛大にキョドっていた。スムーズに進められていく話に着いていけず、愛想笑いしか浮かべられない。ていうか歴代の校長の写真見ても、男が写ってるのは300年くらい前まで遡らないと無い。ほんとにこの世界男いないんだなっていう実感がやっと湧いてきた。


「以上です。宮下さん並びに宮下くん、質問はございますか?」


「特に質問は私からも…息子からも無いので大丈夫です。丁寧にありがとうございます」


そんなこんなで挨拶は終わってたみたいで、俺からの質問なんて何もなかった。


「では、これから担任である者に回しますので少々お待ちください」


内線で職員室から先生が呼ばれるのだろう、校長先生も女だし校内に男っているんかな。前みたいに友達が欲しいってわけでは無いけど、何か女の子とか母親に言えないことを言い合えるような相手は欲しいなって思う。


「佐藤です、失礼します」


あ、やっぱ女の人だ。


「こちら1組担任の佐藤です。こちらは我が校に入学した宮下さんよ」


何故かやたら俺は特別扱いだ。そんなに男は貴重なのか?


「よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いいたします」


とりあえず、目立たずに生きるていうことは無理そうなので頑張って大人しく生きようと誓った瞬間であった。

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