ここのココアは少し甘い

 お茶濁しに少しだけココアを啜る。

 つられて杜さんも静かにカプチーノを飲んだ。


「それにね、もし犯人がうちの生徒以外の人で校内を練り歩きたかったなら、内側からじゃ教室の扉が開かないって気付いた時点で今度はちゃんと廊下側のガラスを割る。だからね、


「まあ、確かにそうだよね」


 笑顔でそう言いながらもぼくは、「このココア、ぼくには少し甘かったかな?」くらいのことしか考えてなかった。


 笑顔のまま言う。


「でもさ、犯人はどうしてガラスを割ったんだろうね」


 我ながらにこやかに言えたのだけれど、


「わたしはそれを広瀬くんに考えてって言ってるの!」


 野犬のように吠えられてしまった。

 反省。


「それにね、広瀬くん。問題はそれだけじゃなくて、実は隣の席のしろちゃんが気になることを言ってたの」


 しろちゃん?


 頭上に疑問符を浮かべたぼくの表情は確実に読まれた。


「えぇっ! 広瀬くん、知らないの? 同じクラスの青葉白あおばしろちゃんだよ。ほら、あの男子にモテモテの!」


 モテモテ……ああ、なるほど。

 通りでぼくが知らないわけだ。

 縁がないもの。


 その時、ふと店内の有線がリズミカルなものに変わった。どことなく聞き憶えのあるメロディーに、「はて、この曲は?」と数秒耳を傾ければ何てことはない。クライスラーの『愛の喜び』だ。となれば……恋が成就した店員でもいたのかな?


「……広瀬くん、聞いてる?」


 おっと。

 数秒空中に浮いた視線がバレたのか杜さんが怪訝そうに聞いてきた。さすがのぼくもここで「もちろん聞いてるよ。確かこれは愛の喜びだったね」なんてポカはしない。


 ぼくはたった今思い出したかのように言う。


「ああ、青葉さんだね。あの」


「うん。それでね、その子が言ってたの。犯人捜しをするわたしに『』って」


「!」


 へえ……。


 どうやらこの話、聞く耳だけが必要な愚痴でもないらしい。

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