熱いココアを目の前に
「それでね、調べてみるとこの窓ガラスは昨日の夜中に何者かによって割られたものらしいの」
おや、それは初耳だ。
「へえ、そんなことよく知ってるね」
正直な感想を言ったぼくの前、杜さんは突然身を乗り出して言ってきた。
「でもなんだよ広瀬くん! 問題なのは、教室のガラスが割られていただけで他の被害が何もなかったことなの! 教室の中の物が盗まれたわけでも、荒らされたわけでもない! わざわざ夜中の学校に来て犯人はガラスを一枚割っただけ。これがおかしいのっ!」
言いながら杜さんはテーブルをバンバンと叩いた。
遠くの席ではウエイトレス姿のお姉さんがぼくたちをじっと見ている。どうか怒りに来ないでほしい。
「で、ここまで聞いて広瀬くんはどう思う?」
いや、藪から棒にどうと言われましても。
とりあえずは笑顔で首をかしげてみる。
「さあね。犯人は夜の学校を探検したかったんじゃないかな? ほら、よく言う思い出作りってやつ」
そう言った途端、杜さんは睨むような目付きになった。
無論、見ているのはぼくだ。
「まさかだけど広瀬くん、本気で言ってないよね?」
「……」
店内の空調は確かに効いている。それなのにどうしてだろう。ぼくの頬を嫌な汗が流れるのは。
杜さんは「はあ」と、わざとらしく息を吐いた。
「あのね。もし深夜に学校を練り歩きたいなら、割るガラスは教室のじゃなくて廊下のだよ。だってほら、うちの学校の教室のドアって内側からは施錠も開錠も出来ないでしょ? 放課後には事務員が廊下側から教室のドアに鍵を掛けるわけだし。だからね、学校探索が目的で教室のガラスを割ったりなんて誰もしないの。そんなこと、うちの生徒ならみんな知ってるよ」
別にそうでもないさ。
現にぼくが知らなかったんだから。
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