地球とは何か?

南 瑞朋

第1話

 肌寒さを打ち破る様に、東から光が照りつけている。いつもの様に学園へ歩を進めつつ辺りを見回すと、自然のものは緑がかった黄色に覆われ、自然のカレンダーを感じさせていた。

 "伊藤いとう 由里ゆり"と刻まれた下駄箱から上靴を抜き取り、二階の教室へ歩っていく。

 ストーブの前は複数人が占拠していて、空気の流れに乗った柔軟剤の香りが鼻を通り過ぎていく。ストーブの頭に乗って携帯を触る人、周辺で手をかざしながらひたすら駄弁る人。教室は多様で混沌だった。

 自分の席はストーブが近くにあって、ひざ掛けをしなくても充分暖かい。それ故に、陽気な気分と眠気の襲来に耐える事が日課だった。それなのに、ここに付いているストーブから暖風は出て来ず、肌寒い思いをする事になっていた。疑念を浮かべながらも、とりあえず教科書だったりを取り出していると、友達が私の席に飛び込んできた。

「おはよ〜伊藤ちゃん!」

「ん、おは〜」

 私にだけ明るい笑顔を見せて挨拶する親友の"鳴瀬なるせ みどり"。彼女は笑顔以外の情を浮かべた事が無いと思う程輝かしくて、太陽としか言い表せない。

 こんな調子で挨拶してくるのもすっかり慣れたもので、いつもの様に軽い返事で済ませておく。

「また1週間が始まったよぉ〜!」

「それは大変だねぇー」

「どうでも良さそうに言うんじゃないよ〜!」

 私にとっては本当にどうでも良いものである以上、最高な返事も何も思いつかないわけだが。

 萩の木らしい髪飾りを緑の髪と一緒に揺らしながら、緑色の目を潤ませて私の席に纏わりつく、そんな友達を宥めていると、朝のショートホームルーム(SHR)を始める鐘が鳴る。


 私や先のみどりちゃんが通う、"アニキナダ"……ではなく"阿荷樹灘みかなだ学園"は、授業のカリキュラムが少々ふう変わりで、二年生からは科目の選択が出来る様になっていた。加美市この地域で活躍したい人や、手に職を付けたい人など、色々な思惑を孕んだ人が、それぞれの科目に進んでいく。私は自然が好きだからと、生物の授業が取れる方に進んだ。みどりちゃんは……なんで来たのか良く分からないが、多分私が行くから……なのかもしれない。とりあえず後悔はしないように援助している。

 

 授業が終わり、月替わりの掃除も終えて、後は帰るだけになった。殆どの人は部活で帰れないが。

 毎日遅くまで辛そうな練習を重ねている部活もあれば、何もして無いだろうと疑いたくなる部活もあって、本当に多種多様なものだと思っている。

 それはともかく、私は自然科学部で日夜探究に明け暮れている。部員は少なく、6人ほど。いわゆる幽霊部員でもないのが不思議だ。

 

 〜(ただただ熱狂的に研究してる私を見せてもつまらないでしょ?割愛しとくね!)〜

 

 部活も終わって、後は本当に帰るだけとなった。外は若干暗くなり、緑のカレンダーがまた何枚も散っていた。道の端は葉にまみれて見えなくなり、側溝の淵がくっきり浮かび上がっていた。それはずっと続き、曲がっては見えなくなっていた。

 家は暗くて伽藍洞。進学する時に家族から離れて暮らす事になったからだ。今や日常となっているため、別に驚く事でも無いし、悲しむ事でもない。でもどこか寂しいような淋しいような……。


 適当に家事やら食事やらを終えて、気づけばベッドが身を受け止めていた。布団に入ると、どこか冷たいし、どこかが冷たい、そんな感じだった。去年は自由を謳歌出来ていて、未来が明るく見えた。でも今年は、レールもなければ壁も見えない。寂しくて孤独な事に気づかされ、どこか伽藍洞に感じていた。


 SNSを適当に見回していると、トレンドに入った言葉が気になった。"地球"、"宇宙人"、"箱庭"……全部似た投稿で、"地球は宇宙人の箱庭に過ぎない。だからこそ今から……"。主張は多種多様に見えても、根拠は全て一緒。

 コメントの殆どは嘘だと言っている。あまりにも突飛で信じられる要素が無いからだが、信じている人も一定数いるらしい。


 世界の広さに驚きながらも、明日がある事を思い出して、とりあえず電灯を消す。頭上にある緑色の観葉植物をうっすら目に映しつつ、眠気に身を委ねていく。

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