勘試験

誰じゃ

第1話

 一年ほど前から政府の動きがおかしい。

 そんな気がしていたが、一般人の私には何もできないし、する気もない。


 性格はゆがんでいるが、それでも楽に器用に人生を生きてきた。

 そんな私が大きな借金を背負った。数か月前の話だ。


 何の関係もないこの二つの話が、どうしても無関係に思えないでいる。根拠は勘だ。


 そして私は、ネットに転がる胡散臭い話に飛びついた。

「これで借金をチャラにできる」

 そんな気がしたから。



  ◇◇◇



 で、今。

 私の手の縄をほどいている異様な男に言う。

「逃げはしない。どうせ逃げられないんだろう」

 私の手をわざとらしく縛っていたロープが床に落ちる。

 

 それほど大きくない部屋で、目の前には小さなテーブル。横には砂袋が置いてある。

 テーブルは傷だらけで砂袋にも六つの穴が開いていて床からは嫌なニオイが登ってくる。

 複数の人間がいて、カメラも複数回っている。おそらく、見えているよりもはるかに多くの人間に周囲を囲まれている。そんな気がした。


「勘試験を受けてもらいます」

 私は黙っている。

 異様な男が布に包まれた物をテーブルの上にゆっくり置く。

 ある程度の重量がありそうだ。

 鉄でできている物。

 拳銃だろうか。

 そんな気がする。


「これは本物なのか?」

 広げられた布の中心にある銃を見ながら聞く。

「本物だと思いますか?」

 男が何気ない風に聞き返す。

「本物だと思う」

「……合格です」

男と目が合った。

「では次に進みましょう」

「この試験に見返りはあるのか?」

「あると思いますか?ないと思いますか?」

「………」

「あなたの勘に従ってください。それが答えです」

 すべてを受け入れる以外に道はない。そんな気がする。


いくつかの勘試験の後、また最初のイスに座らされた。拳銃はまだゴロリと置いてある。

「では最終試験です」

 男は上を指さす。

 私は上を見ない。

 なぜなら、男は上を指していないならだ。

「一億円。あなたの借金の総額です」

「ああ、何者かに仕組まれ、背負わされた借金だ」

 男は小箱の中から6発の弾丸を取り出す。

「この弾の中の1発には火薬が詰まっています。そして残りの5発の中に詰まっているのは2000万です」

「なるほど…では、例えば私が2回引き金を引き、そこでギブアップしたときはどうなる?」

「あなたがそれでよいと思うのであれば、それで終わりです」

「そのまま帰っていいということか?」

「はい。あなたがそれでいいと思うなら」

「………」


ずっとしている不快なニオイは、血のニオイだった。


「おまえは異常者ではない。何が目的かはわからないが、異常者でないならば「できれば殺したくない」と思っているはず…だとすれば……」

 異様な男が軽く首を振って私の話を止める

「それはいけない。それは勘ではない。推理だ」

「………」

 男の言葉の先に何があるのだろう。わからない。

 異様な男が見たいのは、おそらく勘と覚悟だろう。だとすれば、覚悟無く、びびって1発目を砂袋に打ち込んでそれで終わり、なんてことは絶対にない。だから1発目には絶対に実弾は入っていない…

 いやダメだ。これは推理だ。推理じゃダメなんだ。何を言っているのかわからなくても、あの男の言葉には意味がある。そんな気がする。

 

もう、理屈はない。


 4発目の弾丸が砂袋に穴をあける。

 私の側頭部は銃口の熱を感じていて、さらに4000万を得て銃を置く。

 これですべて終わり…という気はしていない。

 異様な男は優しい表情になり、だが、冷静で緊張していた。

「行きましょう」

「ああ」



◇◇◇◇



 部屋に入ると立派な机をはさみ総理大臣と、人間のように見える普通の男が立っていて、その横に見たことのある政治家が並んでいた。

 普通の男以外の顔はみな歪んでいて、冷や汗がふき出している。


 普通の男が宇宙人であるという信じられない話を信じて、話を聞き続けると、この普通の男は地球の存亡をかけたゲームを持ち掛けてきたとのこと。

 ルールは簡単、6つのカップの中に、1つだけボールの入っているカップがありそれを当てるだけ。

 ただし、普通の男には、人の思考を読む能力と、物体をワ-プさせる能力がある。

 こっちの思考を読み、カップの中のボールをワープさせる。ヒドイいかさまだ。

 ゲームは月に一度行われ、12回のチャンスで一度でも勝てば我々の勝利が認められる。今までに7回のチャレンジが全て失敗に終わっているという。

 一人目は総理大臣。

 二人目は防衛大臣。

 三人目は奇跡のマジシャン。

 四人目は世界最高のIQ。

 五人目は伝説のギャンブラー。

 みんな負けた。

 だが無駄ではなかった。とても重要な弱点を知ることができた。それは、『物体をワープさせるのに1秒かかる』ということ。

 そして理解する。

 駆け引きをしてはダメ。

 推理をしてはダメ。

 読み合いをしてはダメ。

 スピードが大事。

 直感が大事。

 勘だけが人類の武器なのだと。

 そして勘試験で選ばれた2人も、手ごたえこそあったが、勝つことはできなかったという。

 なんとなくだが、私は本当に8人目だろうか?と思った。私に過剰なプレッシャーをかけないためにそう言っているだけで、本当は、残されたチャンスはそれよりも少ないのではないだろうか?そんな気がした。


 そういえば、一年前に大きな山火事があり、そこは今でも立ち入り禁止になっていたはず。とても違和感があったので覚えている。なぜか今、そんなことを思い出した。


 しかし、高度な文明を持った星からの来訪者がこんな事をするだろうか?おそらく、星のはみ出し者。星から追い出された頭のおかしいイカレ野郎だ。


「大丈夫。理解している」

 普通の男がしゃべる、普通の声だ。

「キミたちのルールでは、無礼なことを思っても、口に出さなければ無礼にはならないのだろう。理解している」

 ゆっくり振り返りながら

「…理解はしているが、ブチギレそう♡」

 そう言って、笑顔であろう顔をした彼と目が合った。


 たぶん、私は今日、地球を救う。



 そんな気がする。




         完

 


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