第21話
❀旅をするタマシイ❀
亭主に云われるがまま、あやしいタクシーに乗って雨あがりの町をさまよう螢介は、老婆の写真を頼りに、この
「ケイちゃん、ごめんなさいね。お約束の日は、きょうだったかしら。うちのひとったら、まったくもう、困っちゃうわね」
物干し台でため息を吐く女は、痩せ形であるが、むかしの輪郭は崩れ、目尻や唇の
螢介は女の芝居を見つめ、カチャッと玄関の鍵があくと、「どうも、こんにちは」と、まじめにあいさつした。女との歳の差はあきらかだが(螢介のほうがずっと子ども)、丁寧な口を訊く。
「雨のなかを、わざわざ来てくださったのに、どこもぬれてはいらっしゃらないのね」
「はい。ここへくるとちゅう、すっかり晴れましたので」
「傘は、お持ちでないの?」
「……はい。タクシーを使いました」
「そうでしたの。さあさ、なかへ、はいってくださいまし。すぐ、お茶を淹れますわ」
座敷に案内された螢介は、運ばれてきた湯呑みをうけとり、なんとなしに視線を泳がせた。
夫人は座敷から姿を消していたが、奥のほうで声がきこえる。「あのひとったら、やめてって云ってるのに、性懲りもなく
コウノトリとは、人里近くに暮らし、赤ちゃんを運んでくるという伝承をもつ
……コウノトリって、
すすんで調べたり興味を示さずとも、周囲の人間から得られる情報は多岐にわたる。ケイちゃんと呼ばれる人物は、どうやら女性のようだ。……おれのどこをどう見たら、女とまちがえるんだ? この屋敷に住まう夫人は、螢介を阿婆擦の女と見なしている。
「……もしかして」
白黒写真の老婆が、ケイちゃんではないかとうたがった螢介は、湯呑みを卓袱台へもどすと、ジャージのポケットへ手を突っこんだ。……ない。
「ん? んん? ……どこいった?」
小さな写真につき、うっかり落とした可能性が高い。卓袱台や座布団の下を探したが、見つからない。文鎮が
〘つづく〙
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