第7話
❀十翼と呼ばれるもの❀
そもそも、
さくや亭にあらわれた最初の異形は、黒猫を
「さきにネコを離せ」
青年の手に吊りあげられたネコは、まったく動かない。怪我のていどはわからないが、細い手脚は
「本物かどうかウロコを見せろ」
という青年の主張は、ごもっともである。だが、ウロコが本物かどうかなんて、螢介にもわからない。したがわなければネコの身が危険につき、学ランの
「あのな、脱ぐほうをまちがえてるぜ。上ではなく下だ。ウロコってのは、大事なものの近くに封じるものなんだよ」
ズボンの縫い目をたどる指が、螢介の意識とは関係なく動く。あからさまに口調と態度が変化したことで、対峙する青年は身ぶるいした。黒猫を吊りあげる手が痺れてきたので、床へ放す。それでもネコは動かない。
「きさま、さては
「われ、
「
青年は血の気のひいた顔をして
「おのれ、炎估め。ウロコを独り占めにするつもりか!」
「おまえといっしょにするな。こんなものに頼るほど、おちぶれちゃいないぜ。闘いたくなけりゃ、
炎估が廊下の窓をあけると、そこから飛びだした少年は、燃えさかるからだの
「ウロコが必要なのは、おまえのほうだったとはな。……三枚あるうちの一枚はくれてやってもいいが、ただ見せるだけってのは趣味じゃないな」
云うだけいって、炎估は
「無事か、どこも怪我してないな?」
しゃがみこんで顔を近づけると、猫パンチを喰らった。……なんで? ものすごく心配したのに!
「だ、だれだ」
と、無意識に口走る。おれの顔にしか見えない。ただ、髪の色が赤に変わっているだけで、すぐにもとの黒色へもどった。……おどろかせやがって。炎估かと思ったぜ。
頭がぼうっとする螢介は、簞笥の抽斗から救急箱をひっぱりだして、傷口を消毒すると、ガーゼを貼りつけた。押入れのなかで、がさごそと物音がする。……ネコめ。さすがにひどいぞ。おれは、必死に助けようとしてたのに。
「こら、ちょっと出てこい」
押入れをあけると、小さな女の子が眠っていた。しかも全裸だ。やばい。こっち向きで横たわっているから、全部ばっちり見えた。パシンッと、秒でしめる。しめたけど、心拍数の上昇がとまらない。息苦しい。……おちつけ、あの子はネコだ。うちの子こねこ!
〘つづく〙
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