第5話
❀雨を呪うことなかれ❀
きょうも雨がふっている。さくや亭という大きな屋敷に住みこんで働くことになった
「あのさ」
スーツ姿の亭主を玄関で見送るさい、当座の着がえを手配してもらえないか、たずねた。……家をでるとき、パジャマとか持ってくればよかったぜ。学校へ行くのに、ふつうは用意しないけど。どこかで買ってくるよと
「黒猫に、名前をつけてあげるといい。きみの力になるだろう。それから、少年が
「わかりました。……あの子ども、またくるんですか?」
念のため、ここの亭主には敬語を使うようにした。おれの雇い主だしな。ときどき、うっかり忘れるのは性分だ。気にしないでほしい。ちなみに、きのうの件は、夕食時に報告してある。書道教室の看板をだしておきながら、どこかへ出かけてゆく亭主だが、夜にはちゃんと帰ってくる。昼間の顔は知らないが、帰宅した亭主に変わったようすはない。おかしな言動は、あえてスルー。おれが知りたいのは、亭主の謎めいた素性などではない。
房飾りのついた黒傘を手にする亭主は、螢介の質問には答えず、硝子戸をあけた。ふりしきる雨のなか、なんの迷いもなく歩いてゆく。玄関先の軒下に、飯茶碗が置いてある。この
少年が訪ねてくるまでひまを持てあます螢介は、黒猫をさがすことにした。野生で暮らす時間が長いのか、ご飯のときしか姿を見せない。とはいえ、
「クロ」
仮の名前として、声に出して呼んでみる。「クロ、どこだ」と、くり返しても返事はない。……もしかしたら、すでに名前があるのかもしれない。名づけ親がいる場合、クロでは反応しないだろう。試しに「ネコ」と、シンプルに呼んでみる。カタンッ。物音がした。反応ありだ。居間の押入れからである。……オーケー、そこにいるんだな。
「ネコ、あけるぞ」
〘つづく〙
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます