第2話
❀傘を追うことなかれ❀
「なんでこの傘が……」
ネイビーの房飾りがついている。橋の欄干に吊るしたものとそっくりだ。……ユッくんって、だれだ? 知らない名前である。螢介に兄弟や姉妹はおらず、近所に同学年の生徒もいない。正体の知れない人物が、母の
くしゃみがでた。いつまでもぬれたままでは風邪をひく。泥水で汚れた学ランは洗濯機の手洗いモードで洗っておき、シャワーをあびて部屋へひきあげた。
……を
連れ帰ったんだね。
からかうような調子の声がして、ベッドを飛び起きた。ざわっと、白い影が窓の外をよぎる。……どうやら、いちど死にかけた人間には、それまでにない好奇心が身につくようだ。螢介は窓の鍵をあけ、
朝になり、また雨がふりだした。螢介は玄関で通学靴を
[アルバイト募集。空き部屋あり。食事補助あり。男子歓迎、委細面談にて。さくや亭]
求人の貼紙を見つけ、さっそく電話をかけた。家には帰れないため、住みこんで働ける場所が必要だった。面接にきてほしいと応対する声は、黒いレインコート姿の男でまちがいない。螢介は、すぐにピンときた。
「あなたの傘を、あずかっています」
いろいろと
そこで通話を終了した。妙なことがつづき、頭がおかしくなっている。……いまのはなんだ? おれは名乗ってないぞ。ひたすらぼんやりする螢介は、雨のなかを歩く猫を見かけた。艶のある黒猫で、人々のあいだをたくみにすり抜けていく。学校に用事のない螢介は、黒猫を尾行してみようと思いつき、あとをつけた。しばらくすると雑木林へはいりこまれてしまい、さすがに追いつけないとあきらめたが、ニャアという鳴き声にいざなわれ、足はとまらなかった。
「ここが、さくや亭……?」
突如としてあらわれたのは、大きな屋敷だった。白い
……やはり、惜しいか。
増水した川にのみこまれたせいか、螢介のからだには、云い知れぬ
「きみ、ぼくを尾行しましたね」
ふりしきる雨のせいで油断した螢介は、横にならんだ男の声に仰天して
〘つづく〙
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