第4話

──「あら、なんでわかったの⁉ もう実秋ちゃんさすがね!」


母の幸せそうな声に私は思わず頬が緩む。神崎さんというのは数年前から母が交際を始めた男性の名前だ。そして神崎さんの強い希望で母は一か月ほど前からこの家を出て、神崎さんの自宅マンションで同棲を始めていた。


──「実は……先日陽介ようすけさんから正式にプロポーズされちゃって……」


「わっ、お母さん!良かったね!」


家には父親がいない。父の度重なる浮気と言葉の暴力が原因で私が五歳のころに両親は離婚、母はスーパーで契約社員として働きながら女手ひとつで私を育ててくれた。そんな苦労人の母には今度こそ幸せになって欲しい。


──「ありがとう……何だかこの年になってから……浮かれちゃって恥ずかしいんだけどね。実秋ちゃん、お母さんプロポーズお受けしてもいいかしら?」


「当たり前だよっ、神崎さんと幸せになってね」


──「実秋ちゃん本当にありがとうね……あ、そうそう。それでひとつ実秋ちゃんにお願いしたいことがあって」


「ん? 何?」


──「以前、陽介さんにもお子さんがいらっしゃるって話したことあったわよね?」


(神崎さんの子ども……?)


一カ月前、私は神崎さんと母と食事に行ったことを思い出す。母と同棲するにあたって神崎さん主催で食事会をしたのだが、そのとき神崎さんが今年二十二歳になる子供が一人いると言っていたような記憶がある。


「そのお子さんがどうかしたの?」


──「実は陽介さんのお子さんのお仕事の関係?とかで陽介のさんのマンションに少しの間おいてほしいと話があったみたいなの……でもその、私がいま陽介さんと一緒に住んでるじゃない? その子に変に気を遣わせてもいけないし私が実秋ちゃんのところに行くと陽介さんに話したんだけど……」


母の濁した言葉に私はピンときた。


「陽介さんが反対したんだ?」

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