第1章 推しが我が家にやってきました

第3話

──『こんにちは、マカです。本日は……お料理教室第二弾……』


「あぁ……今日も尊い……録画しといてよかった」


私こと橘実秋たちばなみあき、二十五歳。独身、恋人なしは本日も一人暮らしの部屋で録画しておいた推しであるマカの配信ライブに夢中だ。


マカはここ数年のあいだに彗星のごとく現れ、あっという間に若者たちの間では知らない人はいない程の若手人気イケメン俳優だ。元はモデルをしていたマカだが、子供向けアニメの仮面ライドオンのレッドレンジャー役をオーディションで勝ち取ったことから本格的に芸能界活動を始め俳優デビューしている。


─『今日はマカ特製、ハンバーグです』


私は柔らかそうな黒髪に切れ長の目を細めながら長い指で綺麗にお箸をもつ推しの姿に釘付けだ。


「マカ、今日はハンバーグなんだ! やった、私と一緒」


仕事帰りに寄ったスーパーで特売だった鶏ひき肉を使って、ハンバーグを作ったのだが、まさかの推しも同じメニューに仕事の疲れも吹っ飛ぶ。


──『じゃあいただきまーす』


「はい。いただきまーす」


マカがハンバーグを口に運ぶのを眺めながら、私もハンバーグ口に持っていく。


その時だった。



──ピロロロン、ピロロロン



ふいに鳴ったスマホの液晶には「お母さん」の文字が表示されている。


「あぁ、もうちょっとでマカと一緒に食べれたのにー」


私は口に運びかけたハンバーグをプレートに置くと動画を一時停止してからスマホをスワイプした。すぐに母の明るい声が聞こえてくる。


──「もしもし、実秋ちゃん?」


「うん、聞こえてるよ。どしたの?」


──「あ、今日は実秋ちゃんに報告があって……」


母の少し恥ずかしそうな声色から、あの件が頭に浮かぶ。私は先に口を開いた。


「もしかして、神崎かんざきさんのこと?」

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