夢のマリアージュ
天川裕司
夢のマリアージュ
タイトル:夢のマリアージュ
▼登場人物
●夢野仲江(ゆめの なかえ):女性。35歳。潔癖症から来る男性恐怖症。結婚はしたい。
●本川隆史(もとかわ たかし):男性。40歳。仲江の新しく出来たフィアンセ。本編では「隆史」と記載。
●靴手(くつて)レイ:女性。30代。仲江の理想と欲望から生まれた生霊。
▼場所設定
●カクテルバー:都内にあるお洒落なカクテルバー。仲江とレイの行きつけ。
●仲江の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージで。
▼アイテム
●Love Success in Real Life:レイが仲江に勧める特製の錠剤サプリ。これを飲むと現実での恋愛成就がなされる。恋愛にも積極的に。但し効果は3ヶ月。
●Success in Love in Dream:レイが仲江に勧める特製のサプリメントドリンク。これを飲むと夢の中で理想を全て叶えられる。その効果は一生分。
NAは夢野仲江でよろしくお願い致します。
ト書き〈カクテルバー〉
私の名前は夢野仲江(ゆめの なかえ)。
今年35歳になる独身OL。
私は今悩んでいる。それは潔癖症から来る男性恐怖症のようなもの。
がさつな人、野蛮な人、男性独特の不衛生…そんなものがどうしても耐えられず、
結婚したい夢はあるのだが、それを拒絶してしまう。
現実がそうさせるのだ。その現実さえどうにかなれば…
そんな事を思うのだがどうにもならない。もう皆も知っている事。
今日もその事で悩みつつ、いつものカクテルバーで愚痴を吐いていた時…
レイ「フフ、お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」
と1人の女性の声をかけてきた。
彼女の名前は靴手(くつて)レイさん。
都内で恋愛コーチやライフヒーラーの仕事をしていたようで、
どことなく上品ながら心が落ち着かされる。
それに「昔どこかでいちど会った事のある人?」と言う印象を投げかけてきて、
その点でも心が解放され、私はつい自分の悩みを打ち明けていた。
レイ「え?男性恐怖症?」
仲江「そうなんですよぉ。もう私この事で本当に悩んでて…。このまま行けば、結婚したくても出来ないんじゃないかなんて…。夢はあるんですけどね」
彼女は親身になって聞いてくれた。
レイ「そうですか。では、その夢を叶えて差し上げましょうか?」
そう言って彼女は持っていたバッグから錠剤のような物を取り出し
それを私に勧めてきてこう言った。
レイ「こちらをどうぞ♪これは『Love Success in Real Life』と言う特製のサプリメントでして、これを飲めばきっとその夢を叶える為の土台が出来るでしょう」
仲江「え?」
何でも話をよく聞けば、その錠剤は女性特有のホルモンを活性化させ、魅力を引き出し、
心を丈夫にした上、こと恋愛に対して積極的になれる…とか何とか。
仲江「そんな事あるわけが…」
レイ「信じて下さい。何かに挑戦する時は、まず自分を信じることが大事ですよ?」
ここで2つ目の不思議に気づく。
他の人に言われたって絶対信じないような事でも
彼女に言われると信じてしまう。
結局私はそのサプリメントを受け取り、その場で飲み干したのだ。
レイ「但しそのサプリメントの効果は3ヶ月。その先は自分の力で幸せを掴み取るよう努力して下さいね」
ト書き〈3ヶ月〉
それから3ヶ月。私は本当に人が変わったようになり、
生活にメリハリがついた上、恋愛に対して信じられないほど積極的になれていた。
その効果があったのか、なんと私に恋人ができたのだ。
隆史「君のような人に出会えるなんて幸せだよ」
仲江「私もよ♪」
本当に幸せだった。でも3ヶ月後…
仲江「ハァハァ、何だろう…。私なんだか自信が…」
せっかく手にした心の強さを無くしたようで、
私はまた前の自分に戻っていたのだ。
とにかくこのままじゃいけない!そう思い、私は又あのカクテルバーへ駆け込んでいた。
ト書き〈カクテルバー〉
仲江「あ、居た!レイさん!」
仄かな期待だったが、彼女はやっぱり居てくれた。
前と同じ席に座って飲んで居た彼女に近寄り、
私はその時の悩みを全部打ち明け、とにかく何とかしてほしい!と無心していた。
レイ「恋人が出来たのですか?それはおめでとうございます」
仲江「あ、ありがとうございます。…で、でも今はそんなこと言ってる場合じゃないんですよ!せっかく出来たその恋人も、ホントに無くしちゃいそうで…!」
でも彼女は…
レイ「前に申し上げるのを忘れておりましたが、あのサプリメントは誰に対しても1回限りのお勧めなんです。少し依存性が強いところがありまして、これは前に申し上げました通り、その後は何とか自分の力で…」
仲江「ダメなんですよ!私の性格、もうあなたなら或る程度は知ってるでしょ!?ああゆうクッションが無いと私、恋愛なんかとても出来ません!」
そうなのだ。サプリメントの効果が切れ始めた時、
それまで全く感じてこなかった彼のがさつなところ、
ちょっと不潔なところ、それらを含めた野蛮なところが
なんだか膨らんで見えてきて、もう我慢できないようなそんな状態になっていたのだ。
でもせっかく出来た恋人、1度は愛した人だから…と、
私はこれまでと少し違う気持ちになっていた。
なんとしてもこの恋愛を成就させ結婚したい!
その気持ちが更に強まっていたのだ。
「もし今の自分の力でその恋愛を成就させられないなら、次の機会を…」なんて彼女は言ってきたが、
私はどうにも我慢できない。この恋愛を成就させたいのだ。
レイ「ふぅ、そうですか。どうしてもと言われるなら、ではこちらを差し上げましょう」
そして今度は持っていたバッグから栄養ドリンクのような物を取り出し、
それを勧めてきてこう言った。
レイ「これは『Success in Love in Dream』と言う特製の栄養サプリで、前のサプリメントとは違い、その効果は永遠です。必ずあなたは誰にも何にも邪魔される事なく、いちど愛したその相手とずっと幸せに暮らす事ができるでしょう」
仲江「ほ、ほんとですか!?そんな良いものがあるなら先にそっちを勧めて下されば!」
レイ「フフ、こちらをお勧めしなかったのには理由(わけ)があります。最後にもう1度だけお聞きしますが、本当に自分の力で恋愛を勝ち取る気はもう無いんですか?」
仲江「え?」
レイ「薬の力に頼ると言う事は、自分の力でそれを成し遂げると言う事にはなりません。あなたは心の向きを変えればおそらくどんな恋愛でも成就させる事ができ、今はその力を見限っているだけだと、私は見て居ます」
意地でも「自力で、自力で」と言ってくるので少し苛立ってしまい…
彼女の言葉を最後まで聞かず、私は今渡されたそのサプリメントを全部飲み干した。
ト書き〈自宅〉
仲江「ウフフ♪本当に夢のよう。あなたとずっとこうして一緒に居られるなんて…♪」
隆史「ハハ、僕もだよ。これからはずっとここで一緒だからね」
私達は結婚した。本当に幸せだった。
私の人生にまさかこんな幸せが待って居てくれたなんて。
私達は今、夢のような新婚生活を送っている。
(ずっと眠り続ける仲江を見ながら)
レイ「ウフフ、今日も楽しそうな夢を見てるようね。あの最後にあげたサプリメントは、その人に幸せの夢をずっと見せ続けてくれるもの。結婚も何もかも、全部、その夢の中で彩られて行く」
レイ「夢の中だけに、自分の理想は全部叶う。あなた達を邪魔するものはもう何も無いわ。私は仲江の理想と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れたの」
レイ「守るものが出来れば、たとえ自分を犠牲にしてでもそれを追いかける。仲江の場合は自分の人生だったようね。自分の生活での実力を見限り、それ以上の成長を諦めていた。本当にこれが彼女にとっての幸せだったのかしら」
レイ「フフ、また笑った。この笑顔を見ている分にはきっと、彼女にとってこう成るのが本望だったようね…」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=4PqCHmthdJM
夢のマリアージュ 天川裕司 @tenkawayuji
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