終末にとらわれた者

ホノスズメ

ゆうなれば終わり

 だれかに聞いてほしい。声に、言葉にならない不安を。

 だれかに理解してほしい。一秒先の死の恐怖を。

 わたしたちはきっと、気が触れてしまった人間ひと。老いでも病でもわたしたちは殺されないが、未来は見惚れるほど美しい鋒で心の臓を貫き、その冷たい刀身の温度を、わたしたちの心に刻みつける。

 魅せられる一方で恐ろしい。人を殺すのはそういうものだ。

 いまという時代では失ったものが多い。だれもが仮初の未来を漠然と懸想し、実直に見据えた者は狂っていく。

 避けられない滅亡と苦しみは、ひたとわたしたちの後ろに忍び寄っている。惰弱な人は目を失い、勇猛なる人は地図を失い、見据えた人は口を失った。

 いまは満たされ、いずれ滅び、もう後には戻れない。

 それでも語るべきものはある。

 言うな、語るな。押し込めた恐れを呼び起こし、死期をはやめても語るものはある。

 それは希望だ。それは歩みだ。終わりが来たり、生きる術を失い、生きる目的を失う。

 いつか来るその日を悲観しないでほしい。きっと、誰もが思うよりそれまで短い。こころせよ若者、こころせよ国首、こころせよ盲目の人、こころせよ狂人。


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