2-21 結晶の力

 牢獄から解放された妖精達は、突然自分達に起こった事に驚くどころかイマイチピンときていない様子だった。どうにか理解しようと努力しているのか、その内一体がノースに聞いてくる。


「ねえノース、何があったララ?」

「アハハ……話し出すと長くなるんだノォ……」


 しかしノースがここまでの事情を話す前に、解放された安心からか大勢の妖精達のお腹が空間一体に響くほど鳴り響いた。


「ご、ごめんなさいララ……」


 恥ずかしそうにする妖精達だが、誰もこれを笑いはしなかった。むしろランがすぐに対応してくれる。


「腹が減ってるのか、なら少し待ってろ、すぐに用意する」


 ランは元に戻したブレスレットに触れてその場に薪とフライパン、そして携帯用のコンロを用意した。


「オイ幸助、火を付けろ」

「俺はマッチかよ! てか、お前が料理作るのか? ユリちゃんじゃなくて?」

「火事、掃除、料理は全部ランがやってるわ。機械の整備は私がやってるけどね」

「意外と主婦力高いんだなお前……」


 ランはこれまでユリと回ってきた様々な異世界で手に入れた珍妙な食材を器用に調理し、いくつもの料理を手早く完成させてみせた。


「ほら、出来たぞ」

「おぉ!」

「美味しそうですね!!」


 出来上がった料理はすぐに妖精達に振る舞われ、ずっと檻の中に閉じ込められ味の悪いものばかり食べさせられていた彼等は大粒の涙が次々零れ出るほど喜んで頬張っていた。


「美味しい! 美味しいララ!!」

「本当に、ほっぺた落ちちゃいそうなんだキリィ!!」


 幸助はこの様子に関心して料理をし続けているランに話しかける。


「凄い反響だな」

「当然よ! ランの料理はプロに負けない絶品なんだから!!」

「なんでユリちゃんが自慢げ?」

「私にもちょうだい! 二人を回復させてお腹すいたし」

「お、俺も!!」

「お前ら……まあいい、どっかの大食い用に材料は常に多めにこさえているからな」


 ランは料理を続けながら妖精達に料理を配っている南や朝達に顔を向けて声をかけた。


「せっかくだ。お前らも食ってけ」

「い、いいの?」

「飯は誰かと食った方が上手いからな」


 ランはそこからサクッとこの場の全員分の食事を完成させ、皿に盛り付けて手渡した。南は一口口にした途端反応の声をこぼし、幸助も目を丸くした。


「美味しい!!」

「うっま!! お前やっぱり俺よりよっぽどチートなんじゃないか?」

「前に行った世界で鍛えたんだよ。こういうことは出来るようになって損はないしな」

「にしたかってこれ、プロ顔負けだぞ……」


 その後、自分の分も作り終えて席に着いたランも食事を始めた。妖精達が盛り上がっている中、幸助が食べ終わった皿を持って彼の隣に近付いて話しかけてきた。


「なあ、」

「なんだ?」

「ユリちゃんの身体の中に結晶があるって、どういうことなんだ?」

「そのことか、それは……」

「文字通りよ」


 ランが答える前に同じく食事を終えたユリが歩いてきた。隣にはこの話が気になったのか南もついてきている。


「お前までなんで」

「あの男の基地でその事を聞いて、気になってたんだ」

「この場はこの子のおかげで助かったんだし、別にいいでしょ?」

「お前……まあいい」


 四人は食器を片付けて念のため人気のない場所に移動し、ランが回りを確認してからユリは自分から話し出した。


「私は、ランが落とした結晶を食べちゃったのよ。それ以来ぬいぐるみに変身出来るようになったたり……」


 ユリが軽くランの背中を叩くように触れると、次の瞬間ランの身体が「ポムッ!!」と音と煙を立て、煙が晴れると彼の姿が消えていた。


「あれ!?」

「将星君は何処に!?」


 二人がランは何処に行ったのかと横に首を振っていると、ユリは右手を下に向けて二人に下を向くよう伝え、その指示を受けて二人が下を見ると、そこにはランと同じ服装にローブを着込んだ抱き心地のいいサイズのぬいぐるみが独りでに動いていた。


「エェ!!?」

「もしかして、これがラン!!?」

「この通り、触れた者をぬいぐるみにすることが出来るようになったの。もちろん任意で解除は出来るわ」


 ユリが右手を軽く挙げて指で「パッチン」と音を鳴らすと、またしてもランの体が煙に包まれて変身し、今度は元の大きさの人間に戻り、尻もちをついてしまう。ランが突然振り回されて疲れていると、幸助は一つ思い立ったことがあった。


「変えるんなら許可を取れ! 変身させられてる間は喋れないんだぞ!!」

「そうか! 前に俺がランを雷輪で縛ってすぐに追い付いてきたのも、ユリちゃんがぬいぐるみにすることで輪から抜けていたのか!!」


 ランは頭をかきながら立ち上がると、ユリの言葉につなげてコウスケ達に説明する。


「そして赤服はコイツが結晶を宿していることを知っている。服にジャミングをかけているから位置は特定されていないが、素顔は割れているからな。普段はぬいぐるみに変身して貰っているんだ」

「食事の時には戻らないと出来ないけどね。口開かないし」

「そうなんだ……」


 ユリの事情を聞き終えた二人に、次の瞬間ランが至近距離まで詰め寄って血走った瞳の目力で圧をかけた。


「事情は話した! 分かっていると思うがこの事は他言禁止だ!! ユリが許可したから特別に話したことを頭に叩き込んでおけ!!!」

「「は、はい……」」


 圧に屈して頷く二人だが、幸助はそんなユリを連れてまで旅をしているランに聞きたいことがあった。


「で、でもメンテがいるとはいえ、どうしてそんな彼女と旅をしているんだよ!?」

「言ったろ、捜し物だ」


 ランは身を引きながらさらっと言い終えたが、幸助は右瞼をピクピクと震わせながら当然の返しをする。


「いや、俺が知りたいのはその捜しているだよ。結晶なのは分かってるけど何処の結晶なんだ?」

「ん? 言ってなかったか?」

「おう、お前肝心なことの説明がなさ過ぎるからな。それで何処の世界のもので……」


 幸助の質問にランは口を広げて答えようとしたが、その場に朝の声が響いてきた事で遮られた。


「みなさ~ん!! 妖精さん達が捜していますよぉ!!!」

「お~う!!」


 ランはすぐに答えて話を切り替える。


「大方、檻の処理とかについてだろ。話が長くなりすぎたしそろそろ戻るか。ユリ、行くぞ」


 ランは肝心なことを言わずに戻って行き、幸助は呼び止めようとしたが妖精のことも気になったためついていこうと歩き始めると、近くにいたユリが小声で何かをこぼした。


「本当は、アイツには関係無いことなのに……」

「?」


 幸助はユリの言うことが気になるも、彼女はすぐにランの隣まで走って行き、すぐに妖精達と話をしだしたことで間に入れなくなった。



______________________



 そこから破壊した檻を片付け終わると、エネルギー供給用の装置だけが残った。


「いいのか? これを残しておいて」

「うん。赤服がいなくなっても、この世界にはジャークが現れるノォ」

「魔法少女の力は、これからも必要ララ」

「皆……」


 妖精を代表して一体が他より前に出て朝の両手を自分の両手で重ねた。


「これからも、ヨロシク頼むララ!!」

「妖精さん……」


 朝も比島姉妹も彼等の眼差しを受けて目付きを鋭いものに変え、受けた手の暖かさに握り返して受け止めた。


「こちらこそ!」

「「「ヨロシクお願いします!!!」」」


 しかし握る力を強めたせいで妖精は痛みで体を震わせてしまった。


「イタタタタ!!!」

「あぁ、ごめんなさい……」


 こちらで一つは話がついたとき、ラン達の元にもノースが近付いて来て両手に持った結晶をランに手渡してきた。幸助は戸惑いながら逆に聞いてしまう。


「いいの? 大事なものなんだろ?」

「集めているんだノォ? この世界を救って貰ったお礼だノォ。」

「まあ結晶がこっちにあれば、赤服もここに寄りつきにくくなるだろう。俺らを狙った方が効率いいからな」

「なんかそれ、他の分もアイツらを請け負うって事じゃ……」

「返り討ちにすればいいだけだ。元々奴らが持ってる分も狙ってんだからな。それに結晶があれば、別の世界にこの世界の概念を一時的に放り込むことが出来る。俺が放った恐竜型の斬撃のようにな」

「あぁ、兵器獣の腹貫通してたやつ」


 ランは結晶を持った右手を下げてノースに軽く頭を下げた。


「ありがたくいただく」


 すると呆れていた幸助があることを思い立ち、ランに詰め寄った。


「そうだよ! 結晶はこの世界をコントロールできるんだろ!? ならこれで会長さんの家も直せるんじゃ……」

「残念ながらそれは無理だ」


 一言で拒否された幸助は豆鉄砲を受けたかのような顔になるが、ランは再び結晶を顔の近くに持ち上げて何処か悲しそうな様子で説明した。


「この結晶はあくまでこの世界という一生物のコア。風を起こすとかの自然現象は出来るが、人が作ったものを再生させたり、生物の命を蘇らせることは出来ない。」

「なんだよ、それ……」


 幸助はやり場のない感情に突き動かされて叫びだし、ランの肩を後ろから掴んでそのまま片手で胸ぐらを掴んだ。


「それじゃあ会長さんは! もう帰る家を、守ってきたものを取り戻せないのかよ!!!」

「そんなに直したいんなら、それこそお前のチート魔法の出番だろう?」

「それは……」


 幸助は興奮が少し静まって掴み上げていた手を離し、力をなくしてそのまま目線と腕を下に降ろす。


「俺も出来ないんだ。俺が手に入れた力は、攻撃系統のもののみ。修復は出来ない。俺のいた所には木の魔法もなかったしな」

「お前も言えた義理じゃないじゃねえか。 ……こうなるとそこら辺は、南自身が自分の心の中で整理を付けるしかない。俺達外野がつけいるのはそれこそ迷惑だ」


 その場から離れるランの冷たい態度とこぼした台詞に幸助が気になって顔を上げると、代わりにユリがランの方を難しい顔をしながら見つめてやって来た。


「ランの奴……」

「出来ない事に怒ったってしかないわよ」

「分かってるよ! でもそれでも……」


 幸助が歯切れの悪い言い分を述べながら目線だけを一度下に向けてランの方に戻すと、ため息をついて頭をかいた。


「ああクソ! アイツはなんでああも冷めてるんだよ」


 ユリはランの少しだけ震えている手元を見て幸助に返事をした。


「冷めているわけじゃないわ。怒りの沸点が人より高いのは確かだけど」

「これも世界を渡り歩いている影響か?」

「確かに、目の前で簡単に建物や町を破壊されることもあったようだけど……」


 幸助は話の流れでさっき聞きそびれたことをユリがいるのをいいことにランの代わりに彼女にもう一度聞いた。


「そんな危険なことまでして、アイツが捜しているものは何なんだ?」


 ユリはランの時とは違い、どこか暗い様子ながらも素直に話してくれた。


「アイツが捜しているのは……私の故郷の結晶なの」

「ユリちゃんの故郷!?」


 今しがた南の家の話をしていたために、この答えは幸助を大きく反応させた。

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