2-19 ドドドドド天才美少女

 同時刻、リブルースの基地から逃げ出した四人の内、比島姉妹の二人が突然頭を手で抑えて苦しみだした。 膝を崩す二人に朝は心配になって近付いて声をかける。


「二人とも、どうしたの!?」

「ウグッ!?」

「イッ! 痛いっ!!?」


 移動しながらもランのものに似たブレスレットから基地の中で見たのと同じモニタで逃げ出した佐立の姿を見ているリブルース。彼女達を鼻で笑いながら独り言を呟いていた。


「フンッ!……馬鹿な奴らだ。ステッキに一度触れた途端、中継箇所となって離れていても催眠波が作用する。解放されたところでステッキが壊されなければ問題はない」


 リブルースは画面をスワイプして動きが戻った兵器獣とその手前で追い詰められているランの様子に切り替える。


「兵器獣の妨害工作も消える。あの男の始末も済みそうだな」


 リブルースが画面を閉じ、再びユリを狙って前に向かったその瞬間、一瞬激しい風が高速で通り過ぎたのを感じたが、特に気にする様子もなく前に進む。


「ん?」


 そして自身の技術で周りの景色に紛れ込ませていた基地の入り口にまで到着して開けようとした。しかしそこで問題が発生する。彼が扉を開ける為の操作をしても、何故か扉は開かなかった。


「何故だ? 何故開かない!!?」


 パスコードを間違えたのかと思った彼は再度打ち込むが、結果は同じだった。自分が作ったものに弾かれている事実はリブルースを大きく焦らせる。


「どういうことだ!? 何が起こっている!?」


 次の瞬間、彼にとって更に訳の分からない事態が起きた。離れた場所にて洗脳波の準備をしているはずの兵器獣が狂ったようにもだえているのが見えたのだ。


「ッン!? 痛覚がない兵器獣が何でもだえている!?……まさか!!」


 リブルースは悪い予感が頭をよぎり、再びモニターを開いて朝達を映す。そこには、兵器獣とは逆に頭を抱えていたはずの比島姉妹が回復している様子があった。


「二人とも、大丈夫?」

「う、うん……」

「なんか、急に気分が良くなった……」


 この事態はリブルースより兵器獣の近くにいるラン達にもすぐに伝わっていた。アン達三人はなぜか驚かないが疑問は浮かべているようだった。対してランと南はすぐに状況を察する。


「将星君! これって……」

「ああ、そういうことだ」


 ランは一瞬だけリブルースの基地の中にいるユリの方を見た。そのユリは一人リブルースが兵器獣を操るための操作盤を目にも止まらぬはやさで操作していた。


「思った通り。アイツ、態度からして露骨だったけど、この装置を自分以外使えないと高をくくってたようね」



______________________



 時間は少し前に遡り、ランが基地から出る直前のこと。ランはユリが言った事に動揺した。


「兵器獣の催眠波を書き換える!?」

「そ、あの操作盤を使ってね」

「アイツらが戻ってきたらどうするんだ? 手早くする気ではいるが、保証は出来ないぞ」


 顔は変わらないが心配するランにユリは左目でウインクをして伝える。


「大丈夫、そこら辺の対策についても考えてるから。それに、このままじゃいつ洗脳が始まるかも分からない」


 ランは正直反対したい部分があったものの、ため息をついて飲むことにした。


「ハァ……分かった。ただしやばくなったらすぐに逃げろよ」

「大丈夫よ! このドドドドド天才美少女ユリちゃんにかかればね!!」

「ドドドドド天才美少女?」


 ユリは威勢良く自画自賛し、ノースは額から冷や汗を流した。


______________________



 そして現在、基地に残ったユリは南と話をしながらも操作盤の使用法を理解し、それを操作して兵器獣がステッキに送るはずだった信号の周波を変えたのだ。


 兵器獣がもがいているのは、突然信号を変えられた事によるバグだったようだ。


「す、凄いノォ……異世界人の電子機器をいとも簡単にハッキング出来るなんて……」

「ランと色んな世界を回ってきたからね。色んな機械を見て来て、その使い方を学んだの。ま、短時間でここまで出来たのは、このドドドドド天才美少女ユリちゃんだからこそだけど」

(自画自賛が凄いノォ……)


 ノースはユリに感心しながらも間に入る自画自賛で尊敬は出来ないといった微妙な感想を持った。


「ついでにこの基地のシステムもいじくっておいた。大方、今頃相手さんはパニックになってるんじゃないかしら?」


 ユリの読み通り、現在基地の外では兵器獣の故障と取れる状態に撹乱されたシステム。今まで時間をかけて準備してきた事がたった数時間の間に台無しにされた事への怒りは、当然かなりのものだった。


「ノングッドノングッドノオォォングウゥゥゥド!!!! あの女ぁ!! この短時間でやってくれたな!!!」


 対して完全に流れが向いたランと南。アン達はとにかくこの場ではどうにもならないと二人をはやく殺しにかかる。


 前にいる南はこれに対処するが、生身の身体ながら明らかにこの世界の人間の力を越えているアンの攻撃に驚いた。


「変身していないのにこの力、一体……」


 受け身を取る南のガラ空きになっている横腹に残りの二人が仕掛けてくるが、そこはランがブレスレットを如意棒に変えて裏から伸ばし、攻撃を阻止した。


(如意棒がめり込まない感覚、そしてこの微かに聞こえる甲高い反響音……やっぱこれは……)


 三人は押し返されて距離を取る。ランは脚の傷からの出血を気にすることなく立ち上がるが、隣の南は気が気ではない。


「将星君、その血!」

「ご安心を……とはいかないか。なるべく早く倒したい。そして同時に、アイツらの正体は予想が付いた」

「エッ!?」


 ランは密かに南に耳打ちする。南は聞いて目を丸くしたが、すぐに鋭いものに戻した。


「分かった。敵は僕が引きつける。隙を突いて攻撃して」

「いいのか?」

「脚……出血止まってないでしょ?」


 ランは気遣いをかけられた事に少し瞼が動いたが、一度目を閉じて元に戻すと南の言葉に甘えることにした。


「じゃ、ヨロシク頼むわ」


 合意したのを確認した南は敵三人を引きつけるために走り出した。


「おい、流石に無防備は!!」

「大丈夫!!」


 南はランの忠告を振り切って突撃をかける。当然敵が何もしないわけがなく返り討ちにするためランに撃った怪光線を発射する。しかし南は動じることなく、両手でおにぎりを握るような独特な構えをとった。


「<夕空流格闘術 三式 羊反ようはん>」


 南は両手の間に空いた空間に光線の一つを包み込むと、小さな空間そのものを空気ごと持ち運ぶようにそっと身体に当たる寸前の位置からずらし、反転させて撃ち返した。


「ッン!!」


 南は反転させた光線をドロイが撃った光線と衝突させて相殺し、ドゼロの光線をかわして一気に間合いを詰めた。至近距離に詰められたドロイは、相手が攻撃をする前に空いていた左手で殴りかかった。


 南はこれを右手の平を指を閉じた状態で受け、そのまま流れるように下に下げていた右手でドロイの腹に張り手を決め、彼女をランがいる方向に投げ飛ばした。


「<九式 天秤投げてんびんなげ>!!」


 殴りかかった力すらも重ねて投げられた力は強く、すぐにランの所にまでドロイが飛ばされる。

 空中にいる上、勢いがはやくて抵抗が出来ないドロイに、待ち構えていたランはブレスレットを変形させて握った右手を手首まで包むグローブのように姿を変えた。


 彼の行動に南も何故か言及することなくただ見ているだけでいる。


 そしてランはあろうことか目の前にいるドロイを側頭部から思い切り武装した右手で殴りつけ、彼女の頭を真下の地面にぶつけさせた。

 ドロイの身体は鈍い音を立てて壊れていき、物理的に首がもげてしまった。


 普通なら誰もが絶句するほど驚きそうな瞬間。しかしその場にいる人物は南も含めて動じず、ランは地面に転がっているドロイの頭を右手で鷲掴みにすると、それを上に掲げて全員に見せてきた。


 晒されて見えたそれは、人間の外観をした頭の中に細かい機械配線が敷き詰められた物体、完全に『アンドロイド』のものだ。


「本当に、アンドロイドだった……」

「さっき聞いた話からもピンとな。大体いくら妖精の湖を侵略できたって、そうすぐに追っての魔法少女を用意できるとは思えなかったしな」


 ランはドロイの残骸を放り出し、正体が発覚して警戒を強めたアンとドゼロが距離を取っていく。南はランの元に戻って彼に話しかける。


「一体破壊できたけど、もうさっきのような手は通じそうにないよ?」

「だろうな。でも小細工が通じないなら、やることは一つだろう?」

「小細工が効かない……もしかして……」


 ランはいつの間にか変形させていた剣と、以前も使った青く輝く小さな八方体の石を取り出して南に見せた。


「出来るか?」

「……うん!」

「よし、一気にケリを付けるぞ!!」


 ランが言いたいことを理解した南は彼の左隣に移動して右腕を大きく引き、溜めるような構えを取った。


 ランも剣に恐竜の結晶を触れさせて同じ色に輝かせる。アンとドゼロもまたしても怪光線を放つ準備をした。両者これで勝負を付けるつもりだ。


 南が丁度拳を正面に出した瞬間、ランは勇者の世界で使ったのと同じ恐竜の頭の形をした斬撃を、アンとドゼロはより大きくした怪光線を繰り出した。


「<四式 牛圧ぎゅうあつ>!!」


 衝突する技と技。しかしランの斬撃と南の拳圧は軽々と相手の攻撃を押しのけて突破し、二体の敵に向かっていった。


 ドゼロは全身の機械を粉々に砕かれたが、いち早く気付いたアンは寸前で動いて右腕だけ破壊されるだけで済んだ。


「惜しかったわね」


 仕留め損なったことを強調させて動揺させようとしたアン。しかしランは彼女を鼻で笑って告げた。


「いいや、狙い通りだ」

「何?」


 アンが後ろを振り向きかけたそのとき、鈍い轟音がそこら周辺に響き渡った。そして彼女が振り返った先には、腹の真ん中二カ所に攻撃が直撃し、大きな穴を開けられている兵器獣の無惨な姿があった。


「しまった!!」

「小細工で邪魔する奴には……」

「正面突破! だね!!」


 兵器獣は開けられた穴から破損した機械に火花を散らし、後ろへ倒れると大きな爆発を起こして破壊された。

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