2-17 湖の兵器獣
二体の巨大生物同士の戦い。さっきまでそこにはいなかったはずのもう一方の存在にリブルースはさらなる動揺を隠しきれなかった。
「あの怪獣は何だ!? どこから現れた!!?」
兵器獣と戦う牛角の怪獣は、大きな右拳の一撃を当てただけで兵器獣の体勢を崩した。相当なパワーの持ち主だ。
「ギイィ!!」
しかし痛覚を感じない兵器獣は足下は崩れてもすぐに態勢を戻し、同時に反撃として両手のマシンガンを相手に放った。
怪獣に対しては豆鉄砲程度の威力なのかそのまま向かって兵器獣に追撃をかける。
ついさっきまで兵器獣と戦闘をしていた幸助は疲労で息切れをしながら近くの木陰に隠れて自分の右手に握られた蓋が開いたカプセルに目を向ける。
「こんな小さいものの中にあんなのが……まさか、俺の世界で突然出現して消えた恐竜もこれと同じか?」
しかし怪獣に優勢な状況はそう長くは続いてくれなかった。兵器獣は回し蹴りを仕掛けて怪獣はかわしたが、兵器獣はそのことを見越して長い尻尾を怪獣の身体に巻き付けて拘束した。
抵抗する怪獣を余所に、兵器獣は身体に集めてそのままになっていた電気エネルギーを巻き付けた尻尾から怪獣の全身に電撃を流す。
「ウオォォォン!!!」
大きな鳴き声を上げたその怪獣。あの大きさから放たれる電撃は怪獣の全身を光らせ、激しい音を響かせた。普通の人間なら軽く感電どころか燃えて灰になってしまうほどのダメージだ。
怪獣は持ち合わせた頑丈な身体で耐え切れたものの、尻尾の拘束から解放された途端に膝から崩れ落ちてしまった。
「マズい! 戻さないと!!」
幸助は咄嗟に蓋が開いたカプセルの口を怪獣に向けた。
この行動は正解だったようで、怪獣の身体がランのブレスレットから物を取り出すときと同じように光の粒子に変化し、吸い込まれるようにカプセルの中に戻って行き、最後には蓋が勝手に閉まり元の状態に戻った。
「とりあえず戻せた……ッン!!」
怪獣をカプセルにしまったことで居場所を露見させてしまった幸助に兵器獣は次こそ仕留めるとばかりに光線状にした電撃を彼に向かって撃ち出してきた。
「やばっ!!」
またしてもやって来た危機に幸助は電撃を相殺しようと技を繰り出そうとしたが、どういう訳かいつものように雷撃が出てこない。動きにもたついている内に兵器獣の電撃は彼の身体に届こうとしていた。
(マズい! 間に合わない……)
しかし幸助と電撃の間に突然何かが間を割って入り込み、電撃を通さずに周囲へ霧散させた。幸助は電撃を防いだ存在に憶えがあった。ランが度々使っている大盾だ。
「これは……ランの!!」
「ギリギリ間に合ったようだな」
大盾は形を変えながらランの手元に移動し、剣となって収まった。
「よ、お疲れさん。あれが奴らが隠していた湖の秘密か」
「毎度タイミングのいいことで……ってあれ?」
幸助はランが助けに行ったはずのユリの姿がないことに気が付く。
「ユリちゃんは? 会長さんもいないし……」
「アイツは策を思い付いたようで南と残った」
「お前、あれだけ急いでたのに!?」
「ユリの意見が最優先だ。ピンチったら逃げろとも念を押した」
「でも……」
「お前が奴にかけた
幸助はランの強調した言い方に口を止めた。実は幸助が兵器獣に喰らわせた最初の電撃。これは兵器獣から発せられる魔法少女への催眠電波を撹乱するためのものだったのだ。
なぜリブルースの話を聞いていないはずの彼等がそんなことをしたのかは、二人がそれぞれ左耳に付けていたワイヤレスイヤホンにあった。
「お前が突然
「ユリはただで転ぶ女じゃないんだよ。それでこのジャミング、あとどのくらい持つ?」
「さあ、明確なことは分からないけど、あまり長時間持たせる自身はないかな……」
幸助の声に元気がない。それどころか彼の身体も端から見てかなりしんどそうだ。彼の現状を見たランは手を貸すことなくスマホの画面をかざして言い放った。
「朝達は既に避難させてある。お前もそっちに行け」
スマホの画面ではGPSを貼り付けた朝の位置が分かるようになっている。しかし幸助はこの実質的な戦線離脱の勧告に当然反対した。
「大丈夫だ、俺はまだまだ戦える」
虚勢を張る幸助を見かねたランはあろうことか彼の腹を軽く膝蹴りをしてその場に崩れさせた。
「ウゴッ!? 何を……」
「元気なお前ならこの程度余裕で耐えられるだろ。自分の現状を自覚しろ」
「だが……」
「あの場から俺まで助けてもらった分で借りがある」
ランが幸助に話して思い返したのは、自分達が道場の爆発から助かった経緯だ。
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少し時間は遡り、夕空道場爆発寸前のとき。身体を縛ったワイヤーを解こうともがき苦しんでいた幸助。
「クッソほどけない!! このままじゃ二人揃って丸焦げどころか消し炭だ!! どうするよラン!!」
彼が同じ状況下にあるランに事態解決の相談をしようとどうにか身体を左に転がすと、そこで縛られているはずのランはいつの間にかワイヤーをほどいて立ち上がっていた。
当然のごとくやってのけたことに幸助は驚愕の声を上げる。
「エェ!!? お前、ブレスレットもなしにどうやって!?」
「この程度のこと習えば誰でも出来る。お前こそ身体を液化するとかないのかチート勇者」
「そんなことしたらすぐに蒸発しちまうよ!!」
「ったく……」
ランはローブのうちポケットにしまっていたナイフを取り出すと、あれだけほどけなかったワイヤーをいとも簡単に切断し、幸助を解放した。立ち上がった幸助は自分の威勢を上げようとする。
「良し! 後は爆弾を解除すれば……」
しかしそこで突然ランの表情が曇った。同時に幸助に指示を飛ばしてきた。
「オイ幸助!!」
「ん? 何?」
「水の術を使えるなら出せ。デカいのを今すぐだ!!」
「ハッ!? エッ!!?」
「はやくしろ!!」
脅しをかけるような大声に驚いた幸助は言われるままに周辺広範囲に水の幕を広げる魔術を、自分とランを囲むように発生させた。
するとその直後、屋敷に仕掛けた爆弾は作動し、屋敷を軽く破壊できるほどの大爆発が発生、幸助の魔術とぶつかり合った。
「オワァ!! なんてタイミングだよ……」
咄嗟なこともあって二人がいた部屋だけがずぶ濡れになって爆発を回避することが出来た。予想より大きな爆発だったことにランも一息ついたが、そのときに幸助が膝をついた。
「幸助?」
「ごめん、咄嗟だったから魔力出し過ぎたかも……」
「……」
ランは幸助を置いて屋敷を出ようと歩き出し、幸助はそれに声をかけて止める。
「おい、何処行くんだよ?」
「ユリを助けに行く。アイツを赤服の所に置いておくのは危険すぎる。お前は休んでろ」
随分とガツガツとしているランの態度にどうにも思うところがあった幸助はこんなときだからこそ彼に聞いてみる。
「なあラン! どうしてそこまでユリちゃんのことになるとガツガツするんだ?」
「ガツガツ?」
ランは幸助の言い回しに足を止めた。そして彼は振り返って一度で伝わるようにハッキリ、かつ短く告げた。
「ユリは……」
ランの言葉を聞いて居ても立ってもいられなくなった幸助は自身の両膝を両手で叩いて立ち上がらせ、
「だったら、それこそユリちゃん達を助けに行かないとでしょ? 場所は……」
「……そこは仕込み済みだ。いけるか?」
「……上等!!」
そうして二人はリブルースの基地へと向かっていったのだ。
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ランが剣を構えながら前に進むと、兵器獣はランに視点を移してさっきの電撃の準備をする。
「これはその借りを返すだけだ。お前に借りを作るのは、気持ち悪いんでな!!」
ランは単身で兵器獣に突撃をかけると、兵器獣は電撃を飛ばして先手を仕掛けてきた。ランは一切避ける様子もなく突っ込んでいく。
「オイ! そんな真正面に突っ込んだら電撃が!!……」
幸助の懸念は間に合わずにランは頭から兵器獣の電撃をもろに浴びてしまう。
「ガァ!!……」
「ラン!!」
少しの間電撃が続き、煙が晴れる。幸助はランが感電死していないか心配になって崩れた態勢を前のめりにする。そのとき、電撃の煙が晴れると……
「フゥ……こりゃビビるわな……」
「ハッ!?」
幸助の目の前には、何事もなかったかのように宙に舞ったホコリを払っているランの姿が見えた。
「お前……」
「このローブは特別製つってるだろ電気は基本通さない。……この量を耐え切れたのは誰かさんの電気何回も受けて耐性がついたからかもな!!」
ランは皮肉交じりの物言いをしながらも兵器獣の電撃を意にも返さずに向かって行き、左手に持ったレーザーガンを撃った。
当たった先で光線は軽い爆発を起こし、兵器獣の身体に傷を付けた。
「よし、前回みたく身体が硬いわけではないようだな。このまま押し切る!!」
ランの誘導に兵器獣は乗せられて上手く幸助から離され、ある程度距離が取れたところでランは更に攻撃を仕掛けた。
(催眠波はあのデカいアンテナから出ている。あれを破壊すれば!!)
しかし事はそう上手くは回らない。ランが兵器獣のアンテナに銃口を向けて攻撃を仕掛けたそのとき、左から蹴りを入れられてレーザーの軌道をずらされた。
すぐにランが体制を整えると、妨害をしてきたのはリブルースの部下のアンだ。
「お前また!」
更にそこに残り二人の魔法少女がランに迫り、四対一の不利な戦いが始まった。一人隠れて叩きを見ている首謀者は自身の兵器獣の様子を見てある確信を得ていた。
(近くで見て分かる……兵器獣はジャミングこそ受けているが、そこまで強力なものではない。あと数分すれば自然に解ける。
これならばわざわざ様子を見に来る必要もなかったな……ならば優先すべきはやはりあの女)
リブルースは自分の基地へと足取りを急いだ。蚊帳の外に取り残された幸助はその行動を一人発見する。
(あれは!!)
戦闘中のランに変わって自分が追いかけようとするが、もう脚に力が入らなかった。
(マズい……ユリちゃんが……)
幸助は頭にランから言われた言葉が思い出される。それだけ衝撃的なことだったのだ。
「ユリは……身体の中に結晶が入っている」
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