2-16 何故生きている!?
魔法少女達に催眠がかからない。この事態に当然ながら動揺するリブルースに、更に予想外の出来事が起こった。
中心の兵器獣が映ったモニター画面範囲外から突然白い破壊光線が発射されたのだ。咄嗟に気が付いたリブルースはすぐに指令を出す。
「後ろからだ、かわせ!!」
巨体にもかかわらず兵器獣は身軽に動き、後ろからの光線に身を左に動かして回避した。
すぐにリブルースがモニターの視覚範囲を調整して光線の発射方向を向けると、そこには彼にとってこれまた予想外の人物が映っていた。
「ナッ!? コイツは」
リブルースが見ている先の戦闘現場の木陰には、道場の爆破によって死亡したはずの幸助の姿があったのだ。
「かわされた? どっかから覗いているな!?」
画面を見ながら殺したはずの人物が生きていた事実に驚きで体を震わせてしまうリブルース。
「何故あの男が生きている!? それもどうやってこの場所へ……エエイ! そんなことは二の次だ! 攻撃しろ、奴を殺せ!!」
遠隔でリブルースの指示を受けた兵器獣は幸助に狙いを定め、水かきのようなものと四本指が合体した両手の先端に隠されていた八門の銃口を向け、マシンガンのように銃弾を次々と撃ち出してきた。
「ウオッ! 来たか!!」
幸助は走り出して自分に降りかかる弾丸の雨を回避しながら、いつの間にか右耳にはめていたワイヤレスイヤホンに右手を当てる。
「兵器獣がこっちに意識を向けたぞ」
「よし、そのまま兵器獣の相手をしてくれ」
「分かってるが、今の俺はそう長時間持たないぞ」
「だからお前にあれを渡したんだろ、ピンチったら使え」
幸助は会話の相手が指したものをズボンの右ポケットから取り出した。青緑色の外観をした小さな筒状のカプセルだ。
「これ、そんなに使えるのか? 不安しかないんだが……ってウオッ!!」
幸助は機関銃が効かないと踏んでアンテナを下に向け、電気エネルギーを溜めている兵器獣が見えた。そして直後にアンテナから電撃を発射して襲撃を強めてくる。
さっきより上がった攻撃の速度に幸助は声を上げながら必死に逃げるが、どうにも今の彼は足が遅くなっており、身体に命中されて爆散、周辺が煙に包まれる。
話し相手との会話が途切れたランはどこか分からない暗闇の中を真っ直ぐに走っていた。
「ったく、ホントにピンチりやすい奴だ」
独り言のすぐ後に彼は行き止まり、立ち止まる。苛ついているのか、彼はそのままローブを広げて壁を右手で殴りつけた。
「チッ、こっちの方向で合っているはずなんだが」
ランが右手を引いて後ろを振り返ると、いつの間にかアンと呼ばれていた見覚えのある女性に行く手を塞がれていた。
「あら? 貴方、少し前に殺したはずの」
「ゲッ! 俺ももう見つかったのかよ」
ランは戦闘態勢を取ろうとするが、その前に左右の暗闇から気配を消していた残り二人の魔法少女が彼の両腕を掴んで床に身体を叩きつけた。
「アガッ!! 本日二度目かよ」
「どうやってあそこから脱出できたのか知らないけど、これで問題はないわね」
ランはそのまま二人に羽交い締めにされたまま連れて行かれ、勝利を確信した彼女達によってリブルースのラボ内へと入った。部屋に入ると、ランは強制的に膝を崩され、リブルースの前に跪く。
「初めまして侵入者君。ようこそ、このリブルースのラボへ」
「どうも。アンタが黒幕か?」
捕らえられていながら全く負けん気のないランの様子にリブルースはつまらないと内心思いながらも相手には見せず、率直な自分の思いを吐露した。
「どうやって屋敷の爆発から逃れられたんだい? それもここまでこの短時間で来るなんて」
「さあな。もう一人の奴にでも聞いたらいいんじゃないか?」
ランはリブルースのことをシカトする様に首を曲げて檻の中に捕らわれているユリと南がいることを確認する。そして相手にその事を気付かれないようにすぐに前を向き直す。
リブルースは先程ラン自身が触れた幸助について、動揺を誘うように話をする。
「もう一人とは兵器獣に向かった彼のことかな? 期待していたのか知らないがそれは無駄だ、残念ながら彼はもう始末が完了した。後は君だけということだ」
リブルースが言葉を切って右手を挙げ、ハンドサインを伝えると、三人の中で唯一ステッキをまだ所持しているアンがそれを構えてランの喉に打ち付ける。
ステッキの先端が光り出し、光弾の発射準備を終える。至近距離のため、発射すれば一撃でランは死ぬ。
「最後にもう一度聞こう。お前が持っているはずの異世界の結晶は何処にやった?」
「しばかれても教える気はない……と言ったら?」
「そうか……なら……」
リブルースはアンのステッキを檻の中の南に向けさせた。吐かなければ南に拷問を加えるということだ。
卑怯ながらもお人好しには一番効果のある作戦に、ランは頭を下げて観念したかのような姿を見せた。意気揚々となったリブルースは見せしめに南に攻撃を飛ばそうとしたが、その直前にランはふと呟いた。
「リブルースとか言ったな……お前、何か一つ忘れてないか?」
「何?」
彼の言っていることが気になり敵の全員がランに意識を向けたその瞬間、誰も見ていない折の後ろの壁から、突然すり抜けたように銃口だけが飛び出し、そこから発射されたレーザーがアンのステッキを破壊した。
「グッ!?」
「何事だ!?」
リブルース達が動揺している間もレーザーは続けて撃ち出され、今度はユリ達が捕まっていた檻の鉄格子の上部分を軽々と溶かして檻を破壊し、ランを拘束した少女二人の手を軽く撃って彼を解放した。
「よしっ!」
ランはすかさず拘束した二人を蹴り飛ばし、次に体制を整えている最中のアンから自分のブレスレットをすれ違いざまに奪い返した。
「これは返して貰ったぞ。」
「貴様」
ランが解放され、すぐに戦闘態勢に入る。こうなると狭い室内の中、下手に戦って自分がやられるのはマズいと考えたリブルースは急いで三人の後ろに守られるように入り込む。
「クッ、ここは一度引くぞ!!」
リブルースは動かせない操作盤をそのままおいて三人の少女に自分を守らせながら部屋を出て行った。
ランは少し後を追ったが、見失ったことで戻ってきた。そこにユリは直球でその事を聞いてくる。
「逃がしたの?」
「想定内だ。お前も、いい加減縛られてる振りは止めて立ったらどうだ?」
ランに言われたユリはいつの間にかほどいていた縄を床に落としながら立ち上がると、ペンダントに触れてナイフを取り出し、隣で本当に縛られたままでいる南の縄を切ってほどいてあげると、力が抜けたままブランと下に下げる。
次にランはユリの後ろにある壁に声をかける。
「奴らはいない、お前も出て来ていいぞ」
「ノォ……」
「妖精ちゃん!?」
声をかけられたノースが壁から透過して登場してきた。右手には銃口の正体の光線銃。左手にはランのスマホが握られている。画面にはGPSの位置を示すマップが映っていた。
「フゥ……上手くいって安心しましたノォ」
「どういうことラン?」
あまり状況がわからないユリに、ランは彼女の側に寄りながら説明をする。ランは以前捕まえたときにノースが壁を透過することを知っていたため、それを利用して先程基地内の壁を殴る動作をし、ローブ内に隠していたノースを壁の中に先行させたのだ。
「じゃあ、朝ちゃん達は」
「ここより先に救助しましたノォ。ついでに事情も説明済み!! ステッキは……僕の力では破壊出来なかったから、その場に捨てさせたノォ」
「向こうさんがやったように、俺も発信器の一つや二つアイツらに忍ばせてたって事だ。あぁ、もちろん身体には直接触れてないから安心しろ」
「何処に向けたのか分からない配慮の台詞ありがとう」
ランはノースに渡していた装備品二つを回収すると、この場にいても仕方ないと動き出す。
「何処行くの?」
「幸助の援護に行く。お前もの」
ランはユリに目を向けるが、彼女は自分のすぐ後ろにいる、魂の抜けたような表情をして身体を崩し、立ち上がる気力がなくなっていた南に近付く。すると南はランに向かってどうにかか細い声を出し、そのまま座ったまま倒れる勢いで身を乗り出す。
「道場は?……貴方たちが無事なんだもん!! 屋敷だって」
「全部は守り切れなかった……咄嗟に俺の思いつきを幸助が実行したことでなんとか俺らのいた部屋は無事で済んだが、それ以外は……」
ランは直接言うことをしなかった。南にとってあの場所がどれだけのものなのか、言われずともなんとなく察している部分があったからだ。
南もそれ以上聞き出しはせず、ランはブレスレットを叩いて何かを取り出すと、南の手元に渡した。薄い手紙のようだった。
「こんなときに渡すのも何だが、俺がここに来る前にたまたま見つけたものだ。妙に隠されているように置かれていたぞ」
南がそれを受け取ると、ランは目線をユリに向けて端的に伝える。
「今回は大人しく来い。奴がいつ戻ってくるとも限らない。危険だ」
「あの子を放っておけないわ。それに私にだってここなら出来ることがある」
「何?」
ランは幸助の状況を鑑みて手短に言うことを求めてから、ユリの考えていることの説明を受けることになった。
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その頃、基地の外に一時脱出したリブルース達は基地の外に出る直前の所で愚痴を吐いていた。
「ノングゥッド……冷や汗なんてかかせおって……だがもう一人は減った。私が直接見てジャミングを解けば、今度こそ催眠波が……」
しかし彼等がいざ外に出てみると、そこで見つけた状況に彼は酷く驚いた。
「ナッ!! 何だ……あれは!!?」
そこでリブルースが見たのは、頭に牛のような立派な角を生やし、赤い分厚い毛を全身に生やした二足歩行の巨大な生物が兵器獣と戦闘をしている所だった。
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