2-13 道場破り
勝負に負けて倒れた南。先に立ち上がったランは乱れた服装を整えながら南に顔を向けて話しかける。
「言葉を語ろうとしない奴は身体で語るのが手っ取り早い。フーの時の戦いでも感じていたが、お前、焦っているだろ。かなり」
「……」
組み手が終わったのを見計らい二人に近付く幸助とユリ。幸助はランの言葉を聞いて最初に反応した。
「焦ってる? 会長さんが?」
「正体がバレたからってわけじゃない。もっと根幹にある自分に対する疑い……そういう感じのな」
「何のことかな? 僕は別に焦っていることなんてないよ」
起き上がった南はフッと笑った顔を見せて平気なことを伝えたが、ランにはその表情が作り物であることを見透かされていた。そして彼は単刀直入に南に一言話す。
「お前、無理矢理すがりついてるだろ」
「ッン!!……」
南は表情が固まり、何か反論しようとするも声が固まって出なくなった。言っていることの意味が分からない幸助がまたランに詳しく聞こうとすると、ドカンと何かの爆発音が聞こえて来た事で会話は途切れ、状況が打って変わった。
「来たか」
夕空家屋敷の玄関口。ノック感覚で当てられた光弾は易々と木造の門を破壊し、追っての魔法少女三人を中に入らせた。
「出て来いフー!!」
「始末を付けてやる!!」
急いで動くランと幸助。南もついていこうとするが、ランはこれを止めた。
「狙いはアンタと妖精だ。ここは部外者の俺らが出た方がいい」
「でも!!」
「心配すんな、アンタは朝達を連れて別ルートから逃げとけ。ユリも手伝って欲しい」
「ハイハイ、私は前線には出られませんからね」
ユリは嫌みっぽく返事をして、南の右肩に手を当てるとランに対してとは違い、優しい声をかける。
「行きましょ。大丈夫、あの二人は強いから」
「でも、これは君達には関係のないことだ!」
「関係ならあるわ。私達はアイツらの持つ結晶も狙っているの。手に入れるには戦うしかない」
「どうして、そんなに……」
「説明はまた今度するから、行くわよ!!」
ユリは南を説得して身体を引っ張り、朝達が休んでいる奥の部屋へ、ランと幸助は反対の正面口の方へと走り出した。しかし直後に幸助はユリに呼び止められる。
「ちょっと待った幸助君!! ほれ!」
「ウオッと!! な、何!?」
振り返る幸助にユリは何かを放り投げ、彼は落としかけながらも両手でなんとか受け止めると、渡された物を見て驚く。
「これ、俺の!!」
渡されたのはランが持っていないと言っていた幸助の剣だ。それも真っ二つに折れていたのが綺麗に修理されている。
「直してくれたの!?」
「これでましに戦えるでしょ? がんばって!!」
ユリの励ましの声に幸助は奮起し、ローブを着込んで先に走り去ったランを追いかけていき、ユリも南を連れて反対の方から離れていくことにした。
青年二人が玄関に到着すると、乱暴に敷地内に入って来た三人が目標と違う相手が出て来たことに眉をしかめる。
「何? またお前達か?」
「フーと妖精を出せ! お前達に用はない!!」
「ここで戦うのは面倒だ」
一方的な要求を言い出す彼女達にランはブレスレットを変形させた剣を向けて反論し、幸助も返して貰ったばかりの剣を鞘から抜いて続く。
「ぶしつけな入り方して随分強気な姿勢だな。こっちはお前らの裏にいる奴に用があるんだ。それに……」
「会長さんの家をこれ以上破壊させるわけにもいかないしね」
相手側三人は分かりやすく機嫌を悪くして光弾を発射してくるが、二人はそれぞれ宙に弾いて間合いに近づき、剣とステッキで鍔迫り合いをし出す。
しかし二人共、特に優しい性格をしている幸助は南とノースからの話を聞いたこともあって剣の持つ手に力が入りきらず、弾かれてしまう。
(啖呵を切ったのはいいけど、会長さんの話の通りだとこの子達だって赤服に操られているんだ。怪我をさせるわけにはいかない……どうすれば……)
「ステッキを壊せ」
「はい?」
自分が思っていたことが見透かされたかのようにランが対処法を教えてきたため、幸助が一瞬表情を固まらせると、ランは戦いながら説明の続きを話す。
「奴らの催眠装置はステッキの中にある。強引に破壊しても洗脳が解けるだけで影響はないそうだ。アイツがそう言ってた。」
「ゆr……フゴッ!!?」
ユリの名を言いかけたとき、幸助はランのチョップが頭に直撃する。
「
わざわざしばいてまで名前を言うことを止めてきたランに一瞬怒鳴りかける幸助だが、ランの真剣な表情を見て怒りを静め、また剣を両手に持って構える。
「分かった。じゃああれ壊せば勝ちなんだな?」
「堅さがどのくらいか分からんがな!!」
ランは手始めにと剣の刃を伸ばして奇襲する。だがこの程度の単純な行為では後ろに跳ねてすぐにかわされてしまう。
ランはそれも読んで彼女が空中にいるタイミングに剣を伸ばす速度を上げ、彼女の左足に絡ませ、そのまま転倒させて拘束した。
「フガァ!!」
ランは剣を手から離し、別の魔法少女に格闘戦を挑む。ステッキからの光弾で応戦しようとするも、ランは両腕を覆っているローブで光弾を弾きながら近付いてくる。
「そんな! 全く効かないなんて!!」
「自慢のオーダーメイドだ。こう見えても碌な鉄より丈夫なんだよ」
後ろに引いて体勢を立て直そうとする彼女だが、ランは先に間合いに入りステッキを壊しに拳を連続で叩きつける。
一方の幸助も剣で相手の光弾を弾き間合いに入る。どうやら戦闘力は二人の方が上のようだ。
「クッ!!……」
「大丈夫、すぐに洗脳を特から!! <雷輪>!!」
幸助は剣を持っていない左手を広げて前に出し、真正面の相手を見事拘束して倒れさせた。ランは戦闘を続けながらも幸助に頼みを告げる。
「こっちはまだかかりそうだ。先に二人分壊しとけ!!」
「ああ!! すぐに終わる!!」
幸助は魔力を込めた左手の正拳突きを拘束された二人の少女が握り絞めているステッキにそれぞれピンポイントで直撃させ、粉々に粉砕した。
「ガッ!! ッン……」
ステッキを破壊されて変身が解けた二人はそのまま気を失い、ランは拘束に使っていたブレスレットを剣に戻しながら自分の手元に戻し、幸助はすぐに彼の加勢に入る。
不利な状況からのさらなる追撃を受けたもう一人の少女は両腕を×字に組んで二人のパンチを受け止め、反動でその場を数歩下がる。
「ウッグッ!……」
「よし! これで……」
怯んだ相手にこの調子でたたみ掛ける二人。しかしそこで相手は身を守るどころか両手を降参のように挙げ、同時に何か企んでいる不気味な笑みを浮かべながら一言軽く呟いた。
「
何か妙な物言いに動きを止める二人。相手は首を右に傾げて逆に問いかけるような姿勢でものを言う。
「ここに来てるのは、私達だけかな?」
言われてみれば、洗脳され相手の数の内にいる比島姉妹の二人がいない。しかし別の場所から忍び込むには庭に生えている木々や草に当たってどうやっても音が立つ。
とすると考えられるのは……
「まさか!!……」
ランは何かに気が付いてその場から離れようと足早に走り出しかけた。しかしそのとき後ろから物音が聞こえてきた。反応が遅れた彼は両腕を掴まれて拘束され倒される。
「ガッ!!」
「ラン!!」
幸助も突然背中から全身に高圧電流が流れ込み、気絶こそしないものの倒れてしまう。
どうにか後ろを振り返ると、さっき気絶していた二人の魔法少女が片方は拘束を解いた上で何事もなかったかのように立ち、もう一方はランを拘束して押さえつけていた。
彼が驚いた反動か、剣がブレスレットに戻ってしまう。
「なんで……雷輪が消え……」
(なんだこの馬鹿力! 変身は解けたはずだろ!? このままじゃユリたちが!!)
ラン達が心配を剥ける先、屋敷から逃げ出したユリ達の目の前には、ラン達の前に現れなかった比島姉妹の姿があった。
「ここまでご苦労」
「キイ! ハイ! どうして!?」
「これでもうあの二人は追って来られない。覚悟!!」
「どうしてここに……ッン!!」
人通りのない狭い道の中。あまりにも出てくるタイミングがよすぎると疑問を浮かべたユリが後ろをよく見てみると、朝の履いている右の靴の外側に光を反射する小さな機械を見つけ、すぐに近寄って取り除いた。
「ワワッ!! 何です!?」
「……やっぱり、やられた」
ユリが見つけたのは、中心部が赤く光って点滅している発信器。
ここに来る前にいつの間にか貼り付けられていたらしい。その間、南に注目していたハイがユリに視線を移し、ふと声を漏らした。
「あの女……宝石のような緑の髪と瞳……例の世界からの逃亡者か。まさかこんな所で、見つかるとわな……」
(逃亡者?)
南が比島姉妹の言った事が耳に入って反応するが、今はそんなことを気にしている場合ではないと戦闘態勢を構える。
そこに比島姉妹は真剣な眼差しをして南に優しく話しかけてきた。
「そいつらは私達の敵よ! 騙されないで!!」
「発信器を付けたことはごめん……でもこれも、貴方に万が一のことがあってのことを思ってなの!!」
敢えて仲間である朝に問いかけるようにする二人。さっきの戦闘で人質に取っていたことは聞いてるが、気を失っていたためにその事を見たわけではない。
普段一緒にいる仲間からそう言われると、どうしても動揺してしまう。
「朝……こっちに来なさい……」
そっと手を差し伸べてくる二人に戸惑いを見せる朝。しかし自身の拳を強く握り絞めて反対した。
「い、行きません! 二人こそ、元に戻ってください!!」
朝に同行を断られため息をする二人だが、特に焦る様子はない。
「ハァ……お前が人質になってくれれば、より円滑に進められたのだが……」
「妖精はいないのか……なら単純に言おう。フーと……そして緑の髪の女、一緒に来て貰おう」
交渉が失敗したのを察した途端、二人の声が一人の野太い男性のものに変わった。
朝より前に出た南が右手の親指を心臓に当てて変身しようとするが、比島姉妹はそのことを邪魔することはしなかった。
しかし不自然にステッキを持った右腕を動かしている。そして光弾の発射準備を終えたステッキをなんと自分達の首筋に押し当てた。
「何を!?」
「聞いているんだろ? この娘達は操り人形、つまりはコイツら自身も人質、コイツらの意思に関係無くすぐに自殺させることも出来るんだぞ?」
ステッキを更に彼女達の首に押しつける黒幕の男は、交渉に見せかけた脅しを強めてくる。
「さあ! この女共を見殺しにするか決めろ! フー!!」
選択肢など元からない問いかけに南は黙っていることしかできず、相手はそんな南に一発の光弾を飛ばしてきた。
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