2-12 道場での再戦
頭の中に思い返した出来事を簡潔に話し終えて顔を上げたノースは最後に一言告げて自分達の身の上話を説明し終えた。
「それ以降、事情を知って理解してもらえた南に協力してもらって魔法少女の悪用を防ぐために、ステッキを回収していたんだ」
「全ては被害者を減らすため。そしてこの結晶を守るためで……あれ?」
ノースはここに来て自分の手元に結晶がないことに気が付いた。
「な! ない! ない!! ないノォ!!」
途端に顔が青ざめて世界の終わりでも来たかのような叫び声を出す彼に南が暴れ出さないよう体を抑え、ランは自分から実物を見せて話した。
「あぁ、それは既に俺が頂いた」
「ナァ!! いつの間に!! それを返してくださいノォ!! 大事なものなんだノォ!!!」
そう懇願されてもランのことだから一度手に入れた結晶を渡すわけがないなと彼をジト目で睨む幸助。だがランは彼の予想に反した動きに出た。
「いいぞ、ほら」
「エェ!!?」
ランは持っていた五芒星の形をした結晶を易々とノースに放り投げる。ノースは慎重にキャッチして一安心の息をついた。逆に幸助はランに詰め寄って興奮気味に質問をする。
「何でだよ!? お前結晶を集めているんじゃないのか!!?」
「あれは俺が欲しいものじゃない。そこまで力ずくで奪い取る気はこっちにはない」
「俺のときは渡そうとしなかったくせに……」
「それはお前が赤服に結晶を渡そうとしていたからだ」
南は赤服という単語に引っかかり、会話をしている二人に割って聞いた。
「赤服? 妖精の湖を侵略した男のこと?」
「まあ、俺のいた世界も奴らの侵略を受けて……そこをランとユリちゃんに助けて貰ったんだ」
「で、次に行こうとしたときにコイツがひっついてきて今にいたる」
「じゃあ、貴方の所にもステッキが……」
「いや、俺の時は怪物による単純な破壊活動だった。でもここでも赤服がらみ……やり方は違えど、俺のいた世界と同じく、この世界のコアを狙って……」
しかしそこで幸助はおかしい点が浮かんだ。
「でも、それなら何でわざわざ魔法少女を量産したんだ? 結晶が欲しいだけなら随分コストがかかる気がするけど」
「そこについては私が説明するわ」
幸助からの疑問を受けて二人の後ろに正座をしていたユリが立ち上がり、全体の中心に移動して右手で首にかけた銀色のブローチを軽く叩くと、ランのブレスレットと同じように光粒子が飛びだし、ちゃぶ台の上にそれぞれが形を決めて実体化した。
飛び出て来たのはパーツごとにバラバラに分解された魔法少女のステッキだ。朝はそれを見て思わず身を乗り出し、目を丸くして叫んでしまう。
「アァ!! 私のステッキ!!」
「ごめんなさい栗塩さん。他のステッキは念のためすぐに破壊したから、これしか解体できる物がなかったんだ」
「そんなぁ……」
自分がつい昨日まで愛用していたアイテムが目の前で無惨な姿となって現れた朝はかなりのショックを受けたが、ユリからの説明を受けて更に大きく反応することになる。
「でも命拾いしたわよ。このステッキ、単純な話『催眠装置』が仕込まれてるわ」
「催眠装置!?」
「外部から特定の信号を受け付けたときに発動する持ち主の意思に関係無く脳をコントロールする毒蛾のプログラムよ。やられた途端に操り人形化確定ね」
「操り人形。じゃあ、キイやハイが突然人が変わったように私達を襲ったのも!!」
「黒幕の指令だろうな。場所は分かるか?」
ノースも南も首を横に振る。
「残念ながら」
「湖の中にいるとしても、集落が広くて探しきれないんですぅ……それに南は正体を隠してましたから」
「追われない分こっちも探せない……か……」
「手に入れたステッキからの逆探知も試みたけど、用心されていたようでダメだったわ。向こうからの逆探知についても特にはなし。所詮は量産品ね」
朝はユリの説明で事を分かっても自分のステッキにケチを付けられたことはあまりいい気がしなかった。一通り話し終えてユリが立体映像をしまうと、ランが続けざまに話をつなげる。
「要はどちらも動けないって事だろ」
「そ、こっちの三人はまだ回復も仕切ってないし、しばらくはこの家にご厄介になるしかないわ」
ユリの意見にほとんどの面々が納得する中、幸助はこうなってはせざるを得ないことを言い出す。
「それだと、会長さんのご両親にも許可貰っとかないと。これだけの人数じゃこっそりとはいかないし」
「そこは大丈夫。この家には僕しかいないから」
「一人暮らし? こんな広い家に?」
「まあね。だから遠慮せずに休んでいってくれ。僕は用事があるから失礼するよ」
「アッ! ちょ!!」
どこか気まずいような態度を見せて部屋を後にする南に幸助の制止の声は聞いてもらえなかった。
そこから少し時間が経ち、慣れない場所にこそばゆさを感じていた幸助はどうにも気になって屋敷中を歩き回っていた。そこにトイレを終えて出て来たランと遭遇する。トイレからの一瞬臭い匂いに身体を引かせると向こうから声をかけてきた。
「何してんだお前?」
「いや、異世界生活の影響で洋風の生活にすっかり身体がなじんで、久々の和室がどうにもこそばゆくって」
「それで人の家をコソコソしてどうなるよ。気持ちの悪い奴だな」
「初めて来た人の家で堂々とトイレの大行けるメンタルもどうかと思うけどな。緊張感」
「生理現象だ仕方ないだろ」
幸助が微妙な顔のジト目でランを見ていると、ランは話の内容を逸らして誤魔化した。幸助は次の内容に元々気になっていたこともあってすぐに乗せられてしまう。
「この家、どう思うよ」
「どうって、会長さんが言ってたとおり高校生一人で住んでいるんなら、管理するには広すぎるかな。昨日のバイトも、これを支えるためなんだろうけど……でもなんで?」
二人の話が続くと思われた最中、どこかからかけ声が聞こえて来た。武道におけるかけ声のようなものだ。二人が興味本位に音に近付いてその先にある閉まっていた襖を少し開くと、広い稽古場の中で一人武術の練習をしている南の姿があった。
「会長さん、用事があるってこれのこと?」
「この非常時によくやる」
「この非常時だからこそよ」
突然、背後から声をかけられ驚く幸助。後ろを振り返って見たのは整えた髪をポニーテールに結んでいるユリだ。ランは姿勢を変えずに会話に乱入してきた彼女に返事をする。
「だからこそってのは?」
「アンタならなんとなく分かること」
ランはユリの含みのある言葉に一度彼女に視線を向け、再度視線をむき直すと、突拍子もなく襖を大きく音をたてて広げ、稽古場の中に入った。当然南は動きを止めて彼を見る。
「君達!!」
「一回相手してくれ。昨日のリベンジだ」
「ッン!」
ランが南からある程度の距離を取って足を止めると、南もまた構えを取って彼を正面から向く。突然のランの行動に幸助は理解が出来なかった。
「ランまで! こんなことしてる場合じゃないだろ。フーの正体がバレた以上、ここだっていつ赤服に襲われるか分からないんだ」
「いいのよ、相手は屋敷の間取りも知らないし中にはランや貴方がいる。簡単に攻めて返り討ちには遭いたくないはずよ」
「だからっていきなり稽古に乱入する意味は……」
「まあ見てなさい。言葉より身体で語り合った方が速い時だってあるって事よ」
ユリに言われて疑問を浮かべながらも律儀に幸助が彼女と共に見ている中、ランと南はお互いに近付きながらルールを説明する。
「つっても俺は格闘技のルールはからっきしだ。だから単純明快、先に胴か背中を畳につけたら負けでどうだ?」
「構わないよ」
「んじゃ……行くぞ!!」
ランは深く一歩を踏み出して一気に南に近付き、その勢いを乗せたストレートパンチを仕掛ける。南は身体を反らしながら左腕で攻撃を受け流すとカウンターで右手の張り手を打ち込む。ランはそれを腰を下げることで回避し、左腕を伸ばしてガラ空きになっているみぞおちに突きを喰らわせようとする。
南は解放された左腕を動かして攻撃地点をずらし受け流すが、ランはそれを見越して左足を上げて回し蹴りをする。対応できなかった南は左肩に受けて横に倒れてしまった。
「決まったか?」
「いいえ」
ユリが思ったとおり南は尻をつかず、側転をするように右手を畳に付けて崩れた脚を上げ、器用に身体を動かしてランを蹴り上げにかかった。幸助は南の機転の利かせ方に驚き、戦っているランは南に蹴り上げられ後ろに倒れる。
「逆転勝ち!? 凄い」
「そういうところよ」
「ん?」
幸助はユリの言っていることが分からなかった。一瞬振り返りかけた幸助だが、ユリは首を少し前に振って向こうを見ろと暗に伝える。それに従って視線を戻すと、背中を畳につきかけたランの両足が、よく見るとまたを広げて南の右手を挟み込む形になっている。
「いつの間に!!」
「ッン!!」
ランは身体を捻らせて左手を畳に叩きつけ、そのまま背中と胴体が当たらない左側面に身体を打ち付けた。対する南は自然と重心の偏っていた右手を崩された途端に体制が維持できなくなり、ランの胴体が畳につく少し前に胴体を付けてしまった。
「ンナッ!!」
予想だにしなかった空中での攻撃にやられた南に、ランは絡ませていた脚を外し、その場に寝転がりながら息を吐くように言い出す。
「肉を切らせて骨を断つってね……この世界にこの言葉があるのか知らんけど」
一部始終を見ていた幸助がまたも驚いていると、ユリは前を向いたまま幸助に話しかけた。
「これが貴方とランの違いよ」
「俺とランの?」
「言ったでしょ、アイツは諦めが悪いって。幸助君は追い込まれた途端に勝手に勝敗を決めていた。でもランは自分が負けそうになっても機転を利かせる。もしくは始めからこうなるように仕組んでいたのかもね。
何事も自分の中でそう簡単に決め付けないこと。アイツを越えたいんなら、まずそこから知っておかないとね」
ユリは会話の最後に幸助に顔を向けて、左目で可愛らしくウインクをしてきた。
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