2-11 ノース
突然学校にて発生した戦闘から離脱したラン達一行は、何者かが開いたゲートをくぐって出口に出て来た。少しだけ煙玉の煙が入り込んでいるが、すぐにゲートが閉じたことで漏れ出るのも止まった。
「フ~……なんとかかいくぐった……」
危機を乗り切って息をつく幸助。周りを見渡すと、来たこともない家の和室の襖付近に出て来ていた。景色に目が行く幸助に対し、ランは目を細めて最後にゲートから抜けた人物に詰め寄った。
「助けてくれたことには礼を言うが、どうしてお前があのタイミングに出て来た、ユリ。それもその姿で!!」
一行を助けたのは、昨日離れてしまったユリ。しかも人間の姿に戻り、髪を結ばずボサボサにおろしている。
「昨日一泊止めて貰った恩返しよ。誰かさんが置いて行ってくれたせいでね。おかげで髪もくしゃくしゃよ」
「お前の毛だらけの身体は聞こえづらいんだ。髪は後で結ぶからそう怒るなよ……」
(ユリちゃんの髪ってランが結んでいるのか……てか俺の時と姿勢が違くない!?)
幸助は内心で突っ込んだが、それを言葉にする余裕はなく、怪我をしている朝と北斗、妖精をその場にゆっくりと降ろす。南はフッと息をついて身体を一瞬光らせ、変身した服装を光の粒に変えて消していくことで元に戻った。
変身をといた南はすぐに怪我人達に駆け寄り声をかける。
「栗潮さん! 星次さん! ノース!!」
「ノース? コイツの名前か?」
南はノースと呼んだ妖精の右頬に優しく手を触れて頭についたたんこぶに目が行く。
「酷いたんこぶ……あの人達に……」
「いやそれはランが付けた」
「はいっ?」
余計なことを言ったとばかりにランは幸助を睨むが、すぐに南がランを問い詰めてきたことで目線を彼女に向け直した。
「どういうことだい!? 何で君が……」
「あ~いや……俺の探していた結晶をコイツが握ってたもんだから回収しようと……」
「結晶!? まさか貴方たち、この世界のコアを……」
「お前、事情を知ってるのか!?」
話が白熱しかけた二人にユリが間に入って仲裁すると直球の正論を当て、二人を黙らせる。
「ハイハイ、こんな所でもめないでちょうだい。まずは怪我人の手当てが先よ!!」
「そうだ! 会長さん、救急箱はどこかない?」
幸助が思い立って救急箱を取りに行こうと脚を急がせると、ユリは彼の前に手のひらを広げて出して止めた。
「待ったぁ!! その必要はないわ」
「え、なんで……」
「まあ見てなさい。ラン、食べ物!!」
「牛丼三杯」
「持ち帰り分も買ってたのか……しかも三杯……」
「十分よ。はやく渡しなさい!!」
ランはブレスレットの装飾に触れて牛丼を出すと、ユリはフードファイターもビックリなスピードで完食し、川の字に並んで寝転んだ三人の前に立ち、両手を広げて前に出して目を閉じた。
すると彼女の全身がエメラルドの宝石のように光り輝き、両手の平から同じ輝きをした光の粒子がシャワーのように三人の全身に降り注ぐ。
そこから少しすると三人の大怪我やたんこぶを瞬時に治していき、完治させた。幸助は彼女の技に驚いて終わった直後に反射で聞いた。
「フゥ……」
「凄い! ユリちゃんもココラみたいに回復術が使えるんだ!!」
「私の種族の得意技よ。て言ってもかなりカロリーを消費するから、あのエルフちゃんと違って腹に余裕があるときしか出来ないけどね」
ユリが幸助に自分の技の説明を終えたそのとき、気を失っていた三人がゆっくりと瞼を動かして目を覚まし、起き上がった。
「う~ん……イタタ……」
「あれ? 私一体……」
「南……ここはどこだノォ?……」
「僕の自宅だよ。気を失ってたんだ」
南が返事をして完全に目覚めたノースはその背中に生えた小さな羽をパタパタと動かして宙に身体を浮かせた。彼はすぐにごちゃついている部屋の現状を目の当たりにして南に別の質問を飛ばす。
「ねえ、誰この人達?」
「えっと……」
「まず紹介も含めて状況整理だな。俺はラン、コイツはユリ、そこのはな垂れが幸助だ」
「いちいち俺を罵倒しないと話できないのかお前!!」
妖精はランにやられたことを覚えていないようで元気よく右手を挙げて自己紹介した。
「ぼくノースだノォ! ヨロシクだノォ!!」
「ノォって、安直な語尾だな」
「そこ突っ込まなくていいだろ」
彼の紹介に驚いたのはラン達よりもこの世界の住人である朝と北斗だった。
「ほ、本物の妖精!?」
「凄い!!……初めて見た……」
ランは彼女達のリアクションから、改めて比島姉妹の言っていたことに信憑性が増したことを確信した。その上で南も含めた二人に本題の質問を飛ばす。
「で、その中々姿が見れない妖精さんが、正体を隠していた魔法少女と組んで魔法少女狩りをしていた。その理由を教えてくれ」
南は少し迷った表情を見せたが、ここまで巻き込んでしまってはもう手遅れだと理解して正直に口を開いた。
「色々説明することはあるけど……まず単刀直入に言うと、栗塩さん達が変身しているあれは、本当の魔法少女じゃないんだ」
「エェ!!?」
本人が一番驚いて当然だろう。しかしこんなことで話を止めていては切りがないためにノースは先に進める。
「そもそも妖精が力を与えるなんて事がないんだノォ。ぼく達妖精が出来るのは、その人の中にそもそもある潜在的な戦闘力や浄化能力を引き出すことだけ。それ以上の手助けも出来ないんだノォ」
「じゃあ、あのシステムは誰が?」
ここからは話が長くなるとみたのか、一度間を置いてノースはちゃぶ台の上にちょこんと座り込み、こうなった経緯を本格的に話し始めた。
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ここからのノースの話によると、そもそも妖精は普段、湖の中の集落で暮らし、外の世界にジャークが現れたときのみ代表者が出動して少女の力を覚醒させて対処していたらしい。敢えて必要以上に手を貸さないことで均衡を保っていたこの世界だったが、それは一年前に崩れてしまった。
その日、いつも通りに暮らしていた集落の上空から突然ガラスが割れるように裂け目が開き、赤い空間が先に見えた。動揺する妖精達に、裂け目から現れた赤いローブを着た白髪の中年の男が妖精達に上から語りかけてきた。
「失礼、この付近に宝石のように輝く結晶が一つあるはずなのだが、是非見せてもらえないだろうか」
妖精達は一言で理解した。彼等は全員が周知している事、この湖の集落には一つ秘宝がある。そして彼等はそれがこの世界そのものを動かし兼ねないことも知っていた。それを登場していきなり求める男には当然警戒する。男は彼等の表情からそれを察したのか、首を傾げて声に出してきた。
「お前達、何か知っているな? 話す気はないのか? なら……」
男は右手を顔の右側にまで挙げて指パッチンを響かせた。一瞬で彼の後ろ一帯の空間が割れ、その奥から巨大な怪物が飛び降りてきた。
「力ずくで頂こうか」
力を解放することは出来ても、自分自身に戦闘力のない妖精では怪物の相手になるはずがなく、為す術も無く次々と殺されていく妖精達。その中でノースはたまたま結晶の護衛の任についていたのだが、ここに敵が来ても対処はとても出来ない事を分かりきっていた。
特殊なケースの中で宙に浮いて保管されている結晶を取り囲みながらも、パニックで何をすればいいのか分からなくなる兵士達。すると気が狂ったのか、その場の一人がケースを殴って右手に血を流しながらも破壊した。
「な、何を!?……」
思わず声をかけたノースにその妖精は顔を近付けて真剣な眼差しで小さく伝えてきた。
「結晶を持って湖から出るのだ!!」
「何を言ってるんだノォ!? そんなことしたら湖を守っている仲間達に示しが……」
「ここにいたってアイツに取られちゃうのだ!! でも外の世界なら魔法少女に助けてもらえるかもしれないのだ!!」
一理あると考えたが、しかしと思い止まるノース。だが、破壊音がすぐ近くから響いてきたことで考える時間がないことを告げられる。彼はそのもう一人の妖精と湖を脱出しに動いた。しかし二人に追い付いてきた怪物は甲高い鳴き声で叫びながら二人を殺しにかかる。
「キリュウイイィィィィィィ!!!!」
「お、追い付いてくるノォ!!」
怪物は飛び道具を飛ばし、ノースを仕留めようとした。しかし済んでで気が付いたもう一人の妖精は彼が攻撃を受ける直前にノースを弾き飛ばし、その攻撃を代わりに受けてしまった。
「ガアァ!!!」
「ナァ!!?」
吹っ飛ばされたその妖精は地面をずりながら倒れていく。すぐに近付いたノースは一目見ただけで彼が致命傷であることを察した。
そして彼は苦しそうな息をしながらも閉じかけた目で手を伸ばしてきた。ノースがその手を両手で易しく握ると、そこに何かを渡された。ケースから取り出した結晶だ。
「君だけでも、逃げるのだ……」
「でも……」
「この世界を守るのだ!!」
彼は強くノースを押し飛ばし、今度こそノースを仕留めようとする怪物に対して最後の力を振り絞り、全身を光らせて一発のエネルギー弾を繰り出した。攻めることに意識を剥けていた怪物はこれを直撃して足が止まり、その合間にノースは湖を抜け出すことが出来た。
そこからノースはあの侵略者に対抗できる戦力を探し続けたが、敵の行動速度は予想以上に速かった。彼等に隠れて動かざるを得ないノースと違ってあっという間に妖精に代わる魔法少女のシステムを完成させて配布していた。
その事によってノースは更に追い詰められてしまう。モデルケースとしてどこからか用意された魔法少女は男の配下として彼の手足のように動き、ノースを見つける度に攻撃してきたのだ。
何度も追いかけられその度に攻撃を受け、ボロボロの身体になったノース。羽で飛ぶ力も弱くなり血を流して細い道をどうにか隠れながら飛んでいた。しかしその力も次第に消えていき、気を失いかけながらその場に落ちてしまった。
(マズい……ですぅ……意識が……)
そこに足音が聞こえ、とうとうここまでかとノースは気を失う直前に腹をくくる。しかし気絶した彼のそれは全くの見当違いだった。現れた人物は驚きながらも彼に近付いてしゃがみ込み、一人ブツブツと声を出す。
「ぬいぐるみ? 落とし物かな?」
その人はノースに触れたことで彼の下がっていく生暖かさと付近の血に気づき、この事態の異常さに勘付いた。
「これ、血? ッン!! この子、怪我を……」
状況が分からないながらも緊急事態であることを察したこの人は、自分の手元にあったハンカチで応急処置をすると、手当てが出来るようにノースを抱きかかえて自分の家に急ぎ走った。
これがノースと南の出会いだった。
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