2-10 Who are you ?

 ランと幸助の二人は捕まえた妖精に話を聞きにかかったが、壁にぶつかったことで目を回している妖精は気を失い、話が出来る状態ではなかった。


「あ~あ、気を失っちゃったよ……」

「でもこれは……」


 ランは妖精が気絶しながらも右手に握り絞めているものを抜き取った。

 幸助にとって前の世界で見たものと同じ大きさのそれは、五芒星ごぼうせいの形をした黄色い結晶だ。

 ランはブレスレットの探知機能を使って確認すると、ゆっくり瞬きをして幸助に告げた。


「間違いない、この世界の結晶だ」

「てことは、お前の宛は完全に潰れちゃったって事か……ドンマイ」

「目的の結晶は手に入れた。こうなると後はユリを探し出すだけだな」


 幸助からの同情の声にランは顔を向けずに返し、こうなってしまうと次をどうするべきかと考えたが、何かを感じてそこから身体を横に動かした。


 ランが動いた直後、突然二人の後方からエネルギー弾が飛び込み、ランは避けることに成功するも幸助は気が付かないままに背中から直撃して気を失って倒れてしまった。


「ウガッ!!」


 ランがすぐに後ろを振り返ると、追い付いてきた比島姉妹が変身ステッキを向けて攻撃をした痕跡が見えた。


「お前ら……」


 そこに遅れてきた朝が息を上げながらこの状況を見て驚き、近くの二人に問いかける。


「二人とも、どうしたんですか!? 一般人にステッキを向けるなんて!!」


 しかし比島姉妹は朝の言葉に聞く耳を持つどころか、キイが振り返った途端に彼女に襲いかかった。殴りかかった彼女の動きを回避した朝は空間が出来た合間にランに近付く。


「大丈夫ですか?」

「俺はな。もう一人は痺れてるが、すぐに治るだろ」

「ええっと……」


 幸助の扱いの雑さに微妙な顔をする朝。ランは視線を比島姉妹に向けたまま彼女に聞く。


「二人に何があった?」

「分かりません。将星君達に追い付いた途端に急に攻撃を……」


 態度が豹変した比島姉妹が追い打ちをかけようとすると、突然彼等のいる場所の近くから「ドンッ!!」と爆発音が響いてきた。


 その一瞬二人の意識が爆発に向いたのをチャンスにランは右手で朝の襟を、左手に妖精を掴み左腕でラリアットを決めるような形で近くの窓を跳び蹴り、窓を割りながら狭い廊下から脱出した。


「グオエッ!!……」

「この学校、ボヤ騒ぎ多すぎるだろ」


 一番無理のある形で脱出させられた幸助は吐き気を及ぼしながら仰向けに地面に落ちてしまい、二重のダメージを負うのに対し残り全員は無事地面に着地した。


「お、お前……」

「すぐに回復するだろチート勇者、さっさと起きろ」

「グゴォ!!」


 ダメ押しとばかりにランに腹を踏まれた幸助は生命の危機に瀕したことで身体が覚醒したのか痺れが取れて立ち上がることが出来た。


「よし」

「よしじゃない!!……」

(将星君の西野君に対する扱いが怖い……)


 朝がランに少し引く部分がありながらも一行はすぐさま追ってくる比島姉妹を巻くために急いでその場から移動し、さっきの爆発音のあった場所に向かう。


 到着したそこには先程のランのヤンチャ以上に派手に破壊された校舎の壁の残骸が見つかった。ランはすぐに近くにいた怯えている生徒に聞き迫る。


「オイ! ここで何があった!?」

「分からないよ!! 突然生徒会室が爆発したと思ったら、魔法少女が北斗さんを攫っていって!!」

「北斗? 南の後ろにいた生徒会員か!!」

「でもなんで彼女が?」


 ランは魔法少女がやったという彼の証言、及びこの派手な、言いようによってはかなり荒い破壊後に昨日の乱入してきた魔法少女達のことを思い出す。


 同時に彼女達が何故昨日やって来たのかについても振り返った。


「まさか!!……」

「オイどうした?」

「将星君!!」


 突然何か思い立ったかのように妖精を掴んだままランが走り出し、幸助と朝はそれに引っ張られて追いかけていった。


 一方でこの時校舎に到着した南も校舎から聞こえて来た大きな爆発音に反応していた。


「一体何が!?」


 南は爆発が聞こえて来た方向を向くと、おおよその位置が出ている煙から分かったため更に焦る。


「あれは! 生徒会室!!」


 何か嫌な予感を感じた南は一目散に生徒会室に向かって行った。その途中、南は「ドンッ!!」と鈍い音が耳に入ったことで足を止めて方向転換をする。


 先程の物音は北斗が出した音だった。花壇のレンガにぶつかり、頭から血を流してボロボロになっている北斗に、三人の魔法少女が横並びになって追い詰めている。


 有意な状態を保ちつつ、中央にいた魔法少女の一人が、彼女の目の前にしゃがんで右手に持ったある物を見せる。周囲に人が集まってきていることも彼女達はお構いなしだ。


「昨日フーが消えた場所にこれが落ちていたの。貴方のものよね?」


 彼女が北斗に見せたのは、この学校の生徒会員を示すバッチだ。今の北斗の名札にも同じものが付いているが、学校からのレンタル品とすればいくらでも説明が付く。


「この学校で女子の生徒会員はアンタだけだそうだな。こうなれば正体は分かったようなもの」


 彼女は立ち上がりながらステッキを向け、そこにエネルギー弾の発射準備をする。


「死ね、フー」


 既にダメージで動けなくなっている北斗は避けることも出来ずに受け身を取ったが、光弾が飛び出る直前、その様子を見つけた南が魔法少女を突き飛ばしたことで難を逃れた。


「か、会長……」

「よかった、無事で……」


 南は三人と気を失った北斗の間に立って一度下に向けた視線を前に戻して三人に睨みを効かせる。相手側はそのことに文句を吐く。


「余計な邪魔を……」

「男は関係無い! 消えろ!!」


 三人の魔法少女は南を退かせようと叩きにかかるが、南はこれに応戦して弾きながら北斗に被害が出ないように場所を移す。


 しかし流石の武術経験のある南も、常人より身体能力の優れた魔法少女を三人も相手に取っていると苦戦は余儀なくされ、攻撃の一弾によって右頬に傷を負わされ地面に転がり込んだ。


「ガァ!!……」


 崩れる南に彼女達は鼻で笑って馬鹿にする。


「馬鹿だなぁ……犯罪者一人を庇ってそこまで大怪我するなんて……」

「コイツはもういい。あの女を始末する」


 南に背中を向けて北斗を殺害しに向かう三人。しかし


「待て……」


 三人が声に反応して振り返ると、フラフラと立ち上がった南がさっきとは何処か違った表情で三人を真っ直ぐ捕らえた目をしていた。

 生意気とも取れる瞳に三人は表情をしかめる。


「無能力の男にしてはタフだなぁ……」

「まだやる気?」

「さっさと消えろ、これ以上は本気で潰す」


 南は彼女達の言うことを聞く気はなく、息を整えると目線を下に向けて呟いた。


「彼女の元へは……行かせない……」


 南は自分の両手をグーサインの形にさせ、立たせた親指を自身の心臓の位置に突き立てた。丁度そのとき、近くまで来ていたラン達が南をを見つけた。


「あれは……」

「生徒会長? なんであんな所に?」

「……」


 南は後ろにラン達三人がいることを知らないままに両指を心臓に向かって突き刺した。すると南の心臓辺りから突然黄緑色の光が発光し、瞬く間に南の全身を包み込んだ。


「ッン!!」

「おいおい!!……」

「嘘!!……」


 光が収縮すると、次に空間上に突然自動生成された銀色の装甲が南の身体にまとわりつき、装備される。見た人全員がこの事態に驚愕した。


「これは……」

「まさか……」

「そう来るとは思わなかった……」


 一連の流れを終えてそこに立っていたのは、この場の全員が探し求めていた魔法少女『フー』の姿だった。

 敵側の魔法少女達はこれを見て邪悪にニヤつきながら話しかける。


「へぇ……確かにこれは今まで見つからなかったわけだ」

「フーの正体が男だったなんて……を捜している時点でアウトだったのか」

「でももうそんなことはどうでもいい。正体を晒した今、お前に逃げる場所はなくなった」


 三人はステッキを構え、南に向かって突撃を仕掛けた。


「死ね! フー!!」


 南は光弾を弾きながら距離を詰めて格闘戦が持ち込めるように運ぶ。


 至近距離に南が近付いたのを見て三人は統率の取れた動きで離散し、光弾で牽制しながら南を取り囲った。南はその動きに首を動かしはしても同時に対応することは出来ない。


「この前のことのようにはいかない」


 三人は円を描くように走りながら光弾を発射して南を蜂の巣にしにかかった。しかしこれに横槍が入る。


 次の瞬間南の頭上から膜のようなものが覆い被さり、光弾を全て弾き返してしまった。


「なにっ!?」


 未確認物体に戸惑い、動きを止める三人に、外部から声がかかった。


「三対一は卑怯だろ。もうちょい公平にいこうぜ」


 戦闘に乱入してきたラン、そして幸助に三人は気分を悪くする。ランは膜に変形させていたブレスレットを元に戻して左腕に付け直した。


「お前は……確か昨日フーの近くにいた……」

「邪魔をするなら、消す」

「やってみろよ。こっちには自称チート勇者の幸助様がついてるんだぞ」

「何その変な異名……しかも自称してないし……」

「君達……」


 昨日自分と戦ったはずなのに何の質問もせずに味方をしてくれるランと幸助に驚く南。ランは顔を向けないまま南に声をかけた。


「この場は合わせてやる。なんとかやり過ごすぞ」

「なんで味方してくれるの?」

「その場の気分」

「ハッキリしない答え……」


 ランは南の言っていることが一瞬気になったが、相手側の攻撃が来たことでブレスレットを変形させた剣で弾き返し、三人はそれぞれ一人を相手にして戦い始めた。


 相手側はフーの対策はしていても異世界からやって来たランや幸助の事については当然情報がなく、武器のない幸助を相手取っても苦戦していた。


「クッ!……関係無い奴が邪魔をするな!!」

「関係無いけど……こういうのは見過ごせないんだ!!」


 幸助は雷輪で相手の一人を拘束した。三体二となったことでより形勢がこちらに向いたが、その状況はすぐに崩された。


「動くな!!」

「「ッン!!」」

「ノース!!」


 三人がピタリと動きを止めると、戦闘の渦中の場に朝と妖精を片手ごとに拘束して連れてきたハイと、朝の首にステッキを突き付けるキイが現れた。


「抵抗を止めろ。でなければこの女の首が消えるぞ」

「ハイ……キイ……一体どうして……」


 怪我をしている朝の姿から見てかなり抵抗したらしいことが伝わってくる。その上五対三とまた形勢を逆転されてラン達も出るに困ってしまう。

 敵側はその事を鼻で笑いながら距離を詰めてきた。


「フンッ……馬鹿め、女一人のために動きを止めるとは……」


 抵抗の出来ない彼等に攻撃を仕掛けようとしたそのとき、今度は全員が全く意識を向けていなかった上空から突然複数個のボールが降り、地面についた途端、煙が発生し周辺一帯を包み込んだ。


「ナッ!? 新手か?」

「ウグッ!?」


 混乱して動きが鈍った相手を見逃さなかったランはキイとはぐれたハイに跳び蹴りを入れて、朝と妖精の身柄を取り戻す。


 そこから進む道に迷っていると、何者かが彼の後ろからローブを少し引っ張った。 そのことで手助けをしたのが誰だか分かった彼は後ろを向いて走り出す。


 南もこの隙に気を失っている北斗を抱えて近くにいた幸助と同じ手の導きを受け、味方陣営全員は煙の端にいつの間にか開いていたゲートをくくって戦線離脱に成功した。

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