2-9 ネオ二ウム
ランが用意したテントの中に入った幸助は、その中身に少年らしく目を輝かせた。
外からの見てくれよりも広いテントの中には二人横に寝転んでも余裕のある白い空間に同じく、白い寝袋が用意されているのはもちろん、料理用のコンロや換気扇、身体を洗うためのシャワールームまで用意されている。
「これ最早即席のテントってレベルじゃないだろ……IHコンロやシャワーにいたってはどこからエネルギー供給してんだよ」
「だから言ったろ魔改造されてるって。詳しい仕組みはユリしか知らん」
テントの中身としては完全に異様な空間ながらもどこか男心をくすぐるテントに幸助の目は興奮で光り輝いていた。
「ハァ~スゲェ……何か子供の頃に思い描いてた秘密基地みたいだ……前の冒険では野宿ばっかだったからなんか楽しいなコレ!!」
幸助がワクワクしながら言うテントについての感想を無視してランは適当な位置に座り込んでまたしてもブレスレットの装飾に触れる。
するとそこから独りでに空中に映像が映し出された。映像には薄く青がかった小さな黒板のような直方体の立体映像の中に何かを映し出している。
その映像を幸助は首を伸ばして覗いてくる。
「それって……朝ちゃんのステッキじゃん」
映し出されていたのは先程の事件でランが一時握っていた朝の変身ステッキだ。ランは幸助にブレスレットが見えるように左腕を曲げて前に出し、見えやすくする。
「お前これ……」
「手に持ってたときにブレスレットでスキャンしておいた。実物がないから詳しいことは分からないがな」
「さっき言ってた考え事ってこれの事か?」
「ああ、その事に関する紐解きが出ているといいんだが……」
ステッキの周りにはいくつかの位置に矢印が刺さり、その矢印の上に幸助は見たことのない文字で何かが書かれている。
「思った通りだ。このステッキはただの変身道具じゃない。詳細な技術や仕組みはユリに聞いてみないと分からないが、このステッキにはネオ二ウムが使われている」
「それって、確かお前のローブに使われてる素材だっけ? 一体何なんだよその『ネオ二ウム』っていうのは……」
「ローブだけじゃない。このテントはもちろん、バイクや銃とかの発明品も全部ネオ二ウムで出来ている」
ネオ二ウムについて知らない幸助は首を右に傾げて頭を右手でをかきながら、もやついた表情をする。
ランは彼にネオニウムについて教えていないことを思い返して彼に説明した。
「ネオ二ウムは、俺が育った世界を含めて複数の平行世界で発見された
「そんな言い方……」
「コイツは加工によってはダイヤモンドより硬くすることも出来れば、柔らかくしてしならせることも、挙げ句燃やせば燃料としても使える優れ物。
おまけに燃やしても二酸化炭素が出ない使用だ」
「えげつないな……」
ランの言っていることの意味が少し理解できたために彼の言葉をそのまま返してしまう幸助。すると彼はその『ネオ二ウム』が朝達のステッキに使われていることが次に気になった。
「でもそんなものが何でこの武器に?」
「この世界にもそれが発見されて使われている可能性も十分あるが……それならあの便利な物質を生活に使わないって点で矛盾が出来る」
「そっか……ッン! じゃあ……」
幸助が頭に思い浮かんだ悪い予感を口にする前にランが代弁した。
「外部から何者かによって持ち込まれた可能性が高い……そしてあのフーとか言う女は、これらのことについて何か知っている」
「……」
ランは映像を閉じると上げてい左腕の力を抜いて下げ、目付きを真剣なものにさせた。
「どっちにしろ、フーを見つけ出して直接聞くしか俺らに出来ることはなさそうだ・・・」
明日からの動向を決定すると共に幸助は自分がしでかした事ながらも、ランがあまりにもユリの消息が分からないことに素っ気ない態度をすることに思うところが残ったままその日の夜は過ぎていった。
______________________
日の開けた翌日。学校に来て合流した五人は、早速学校内にいるフーを見つけ出すために動き出した。
「それで転校生君。アンタの落とし物のGPSをたどればフーは見つかるのよね?」
「でもそれって、フーがそのものをどっかに置いたら探せなくなるじゃん!!」
「それに関しては大丈夫そうだ。落とし物の信号は学校内を動いている」
ランは背部が真っ白なスマートフォンにそっくりなデバイスの画面を四人に見せて信憑性を持たせる。
しかし流石に手がかりがこれ一つだけでは不安があったハイはランに再度聞いてみた。
「ねえ、他には何か手がかりはないの?」
「あるぞ」
「あるのか!?」
幸助が驚いたことに女子三人が少し引いていると、ランはコホンとわざと小さな咳をして話を戻す。
「奴と戦った感触だ」
「感触ぅ?」
「どういうことですか?」
ランの言っていることの意味が分からない四人の内キイと朝が聞き返す中、ランはデバイスの画面を見ながら詳細を説明する。
「フーの戦い方はお前らのハチャメチャな戦いとは全く違う、洗練されたものだ。日頃から鍛えていないとああは動けんだろう」
「てことは、フーは何かしらの格闘術を使ってるって事?」
「そ、俺はそこら辺の知識には疎いからあまり知らないが、学校中のその系統の部活を探っていきたいと思ってる」
「でもこの学校、柔道部も合気道部も空手部もないわよ」
「何ぃ!!?」
予想外の返答にランは思わず足を止め、眉にしわを寄せて後ろを振り返ってしまう。そこに女性陣が事情を話した。
「昨日言ったでしょ? 手軽に力が持てる魔法少女が増加して、武術道場が軒並み潰れていったって。元々へなちょこな男が多いしね」
「その波に、部活動も巻き込まれてしまったんです……」
「男子ならまだしも、今じゃ武術やってる女子なんて、それこそ幻クラスよ」
こうなっては当てになるかどうかも分からない位置情報だけを頼りに捜索せざるをおえなくなる。しかしランは次にもう一つの宛を出した。
「そうだ! ならばもう一つ考えがある」
「考え?」
「昨日お前らが言ってたことだ」
「「「「?」」」」
一行はランのもう一つの宛と言っていた場所へ向かった。この学校の生徒会室だ。
「ってなんで生徒会室?」
「昨日言ってただろ? 生徒会長は道場の跡取りだってな。その知り合いに繋がりがねえか当たってみる。というわけで……」
ランは躊躇なく生徒会室の扉を開いて中にいる全員に聞こえるように大声をかける。
「た~のもーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「いや、なんで道場破りのかけ声?」
しかし扉を開けるために腕を広げた状態でランは微妙な表情のまま目をパチクリとさせた。
急に黙った彼に何があったのかと幸助が隙間を縫って部屋の中を覗いてみると、部屋の中には南はおろか書類整理をしている女子生徒一人しかいなかった。
「あれ? 一人だけ?」
「皆さん、どうかしましたか?」
五人は唯一いた女子生徒の北斗に招かれる形で部屋に入ると早速南について聞く。
「会長さんはどうした? ちと聞きたいことがあるんだが……」
「ああ……すみません。会長はまだ来ていなくて……いつもなら私よりはやく来ているんですが……」
「そうか」
「これで捜しようがなくなったわね。全くどうして……」
引っ張り回された事で機嫌を悪くしたハイがランに説教をしようとしたそのとき、彼は突然走り出して生徒会室を後にした。
あまりに切り替えのはやい行動に残り全員が動揺しながらも北斗を残して後を追いかけていった。
「ウオワッ!!……朝から騒がしい人達だなぁ……」
遅れて出た四人の中で一番足の速い幸助がランに追い付いて突然の行動の心情を聞く。
「突然どうしたんだお前!?」
「信号がかなり近くから出ていた」
「じゃあ、そう遠くない距離にフーが?」
「いやそれが……」
ランは幸助にデバイスの画面を見せる。幸助はそれを見てランが言いように困ったことに納得がいった。
結晶はここから見てすぐ近くの場所を東に向かって進んでいる。しかしその位置に到着した彼等はその場所を目視したことで動揺が現れる。
「これ……」
その場所は、廊下の壁よりも更に先、しかし外に行くほど遠くない距離になっている。つまり結晶は……
「壁の中を進んでるのか!?」
「そりゃあ学校内を見回っても見つからないわけだ」
「どうすんだ!? 壁の中じゃ捜索のしようがないぞ!!」
「そこら辺は安心しろ」
「はい?」
ランは焦った顔を見せることも無くブレスレットに右手の平を触れていつもの白いローブを着込むと、そのままブレスレットを変形させて細い隙間にも入りそうなペラペラの
「お前まさか……」
「そおらよっと!!」
ランは近くにあった細い隙間に、伸ばした如意棒を侵入させる。
中で障害物をかわしながら凄い勢いで伸び続ける如意棒は結晶を持っている何かに当たった。ランにもその感触が伝わってくる。
「これか!」
ランは如意棒の先端を変形させてマジックハンドのようにし、対象物をしっかりと掴んで固定する。すぐさま如意棒は縮んでいき、隙間のすぐそこで勢い良く対象物をぶつけさせた。
「痛あああぁぁぁ!!!!」
「さあ出て来て貰おうか」
「悪魔……」
隣の幸助が引く中、ランは悪い笑顔で如意棒の持ち手に立体映像の液晶を出現させて壁の中の座標と今自分がいる場所の座標を手早く入力した。
すると二人の目の前の空間に小さく裂け目が発生し扉が開く。向こう側で既に伸びていた物体はそのまま目の前の裂け目を通じて二人の前に姿を現した。
「ッン!!?」
「ほお……こう来たか」
抱き心地のいいぬいぐるみサイズの身体に黄色い身体。背中には小さな天使の羽が生えている。
目は今ので渦巻き状に回って瞳の形は分からないが、二人は目の前のこれの正体がなんとなく分かった。
「これって……もしかして
一方その頃、生徒会室で別の書類を一人片付けている北斗。そこに扉を開く音が聞こえ、南が来たと思った彼女は顔を向けて挨拶をする。
「あ、おはようございます会長。……ッン!?」
北斗は目で見た相手に驚いた。そこに現れたのは、昨日フーを追いかけていた魔法少女の一人だったのだ。
「おはよう。最後の挨拶はこれでいいかしら? ようやく見つけたわよ。フー!!」
彼女は自身のステッキの先を北斗に向けて北斗を睨み付けた。
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