2-4 生徒会長

 目の前に現れた少年の疑いの目に固まってしまう幸助。対してランはケロッとした顔をしながら彼に近付いていき、その行動を見た幸助は当然のことを思うが、声に出せずにいた。


(おいおい! お前が近付いたらポケットのユリちゃんが見つかって……)


 と心の中で思う幸助だったが、その瞬間に足下に違和感を感じて下を見た。そこには足の後ろに隠れているユリの姿がある。


(いつの間に……)


 ランは朝が生徒会長と呼んでいた少年に話をつなげる。


「どうも、丁度今日転校してきたばっかでして……」

「転校生? そんな話は聞いてないけれど」


 疑いの目でランを見る彼は後ろにいる同じ生徒会のメンバーらしき女子生徒に顔を向けて聞いてみる。


「聞いていたかい?」

「いいえ、自分は何も……」


 女子生徒の言葉を受けて生徒会長は前を向くとランに向かって警戒心を持ちながら近づき、右手の手の平を上にして彼の前に出す。


「二人とも、生徒手帳を見せてくれ」

「エッ……」


 幸助は彼の頼みに固まってしまう。現在着ているこの服はランのブレスレットで変身させた偽物。


 側だけ取り繕ったこの服には、生徒手帳なんてあるはずがない。かといってこのまま何もしなくてもバレて即刻警察行きになってしまう。


 どうすればいいのかと幸助が動けずにいると、ランは平気な顔のまま軽く言ってのけた。


「ええ、いいっすよ」

「ハァ!?」


 驚いて思わず声を出してしまう幸助にランは自然な流れで芝居を打ちながら幸助に指示を出す。


「何驚いてんだよ。胸ポケットの中にあるだろ? それとも転校初日にしてなくしちまったか?」


 口を回しながらランはブレザーの胸ポケットに右手を入れ、中に入っていたこの学校の生徒手帳を取り出してみせた。


 その様子を見た幸助はまさかと自身も同じように右手を胸ポケットに入れる。すると、確かに中に何かがある感触がある。


 物を持って、手を引き上げると、確かにランの物と同じ生徒手帳が入っていた。

 最初のページを広げると、ご丁寧にいつ取ったのか分からない証明写真付きの生徒証が挟まっている。


(うそ~ん……パート2……)


 ランは堂々と、幸助は戸惑いながらも生徒手帳を生徒会長に渡し、彼はまじまじと見て確認を取る。


「うん、確かにこの学校の生徒手帳だ。どうやら僕らの情報が追い付いていなかったみたいだね。すまない」


 彼は確認のために広げていた二人の生徒手帳を閉じてそれぞれに返す。ランは彼の謝罪にいえいえとすぐに許した。


「生徒全員の事を覚えている人がいるってだけでとんでもないっすよ」


 二人が胸ポケットに手帳を戻すと、彼は警戒していた表情を解いて、優しい小さな笑顔を見せながら右手を自身の胸に当てて自己紹介をし始めた。


「紹介が遅れたね。僕は二年生の『夕空ゆうぞら みなみ』、この学校で生徒会長をやらせて貰ってる。

 こっちは副会長の『星次ほしつぎ 北斗ほくと』、二人揃ってよろしく」

「将星 ラン」

「西野 幸助です。よろしく……」


 南がラン達への警戒を止めて再び朝の方に話を戻した。


「さて、栗潮さん。僕がここに来た理由は分かっているみたいですね?」

「あ、はい……ちゃんと書きましたので……」


 朝は慌てて机の中から一枚の紙を取り出して彼の前に両手で差し出した。

 南はそれを受け取って内容を確認すると軽く頷き、紙を下に下げて朝の方に視線を戻す。


「届け出は受け取りました。では……」

「はい。わざわざ取りに来てくれてありがとうございます。」


 南が生徒会のメンバー達を連れて戻って行き、奥の角を曲がって姿が見えなくなるとラン以外の全員が揃って肩の荷が下りた気分になり、頭まで下げてため息を吐いた。


「「ハァ……危なかった……」」


 閉じていた目を開けた幸助はさっきから気になっていたことを早速小声でランに聞く。


「あの生徒手帳、どうやって……」

「これこそ異世界マジックの凄さだ。といっても仕組みについてはユリアイツに聞いてくれ。俺は知らん。」

「人の技術を自慢げに語るなよ……」


 少々重たい声で突っ込みをいれた幸助。二人の話の流れに一人ついて行けていない朝だったが、今度はランの方から問いかける。さっき南に提出した紙のことについてだ。


「今のは?」

「会長さん……」

「朝ちゃん?」


 何処かボ~ッとしていた朝だったが、幸助の声を聞いて我に返り、またしてもビクッと肩を震わせた。


「ハッ……!!イヤッ……魔法少女の活動をした後は、学校に届け出を出さないといけないんです。

 でないと授業が欠席扱いになってしまうので……」

「シビア……てか本当に正体を隠してねえんだな」

「はは……まぁ……」


 ランは生徒会長の登場でさっきまで自分達のことでザワついていたはずの生徒達の話題が一気に彼のことについてへと変わっていることに気付く。


「会長さん! やっぱりキリッとしてる」

「いつ見ても隙がないよなぁ……」

「今日ももう三人から告白されてるけど、またなびかなかったらしいわよ」


 一通り聞き終えたランは再びボ~ッとしかけている朝に声をかけて自分の世界に入るのを阻害した。


「凄い人気だな。あの会長」

「はい! そうなんです!!」

「ウオッ!!」


 打って変わって目を輝かせ、身を乗り出して喰い気味に話し出す朝にランも戸惑ってしまう。

 しかし彼女は止まらず、あの生徒会長の事について、熱意ある説明を始める。


「『夕空 南』、清廉潔白! 成績はいつも一位なのはもちろん、優しさと気高さを持ち合わせ、道場の跡取りとして武芸にもたけるまさに完璧な存在!!

 この学校始まって以来の人気者の生徒会長さんなんです!!」

「オッ、オウ……」

「さっきまでと違って凄い攻めの姿勢……」

「アァ! ごめんなさい……」

「フゥ~……」


 体制を整えながら息を整えるランは、朝に見切りをつけて結晶の捜索を再開しようと移動することにした。しかしそこに人が乱入して彼等に触れてきた。


「朝、お昼寝しているのにうるさいわよ!」

「ホアッ!?」

「ホント会長のことになると騒がしいんだから……ってあれ?」

「朝、その人達誰?」

「誰々?」


 話を切り上げたが、そのときに話題を振られたことで去るに去れなくなり、勢い余って転びかけるラン。

 どうやら教室の奥から朝の友人が彼女の様子が気になってやって来たらしい。


「キイ! ハイ! いつの間に……」

「次から次へと何だ……」


 現れた二人の少女は、先程の戦闘で朝と共に戦っていた魔法少女の面影がある。

 もしやと思った幸助が二人に近付いて話を振った。


「もしかして、君達さっき戦っていた……」

「さっき? もしかしてあの場に?」

「アッ!……イヤそれは……ゴホッ!!」


 幸助は失言に焦って言葉を濁そうとしたが、その事でよりややこしいことになる前にと、ランの右腕によって肘打ちを入れられ黙らされる。

 そして代わりにランが舌を回した。


「さっき騒ぎを聞いてな。それで彼女から詳しく話を聞いていたんだ。転校早々ボヤ騒ぎに巻き込まれるのは災難だったがな」

「ああ、転校生!! だったら自己紹介しないとね。私は『比島ひとう キイ』、双子の姉でまたの名を、『魔法少女 ミラ』!」

「妹の『比島ひとう ハイ』、『魔法少女 ファウ』よ!!」

「どうも……じゃあ俺達はこれで……」


 またしても話を切って場所を変えようとするランだったが、左腕をキイに掴まれて止められた。

 彼は分かりやすく嫌な顔をして振り返ったが、彼女は真逆に楽しそうにし、天然かわざとか存在感のある胸を押しつけ、上目遣いで見てくる。


「ねえねえ! 転校して来たって事は学校についてまだ分からないでしょ? 私が案内してあげるわ!!」

「アァ!?」

「いいわねえ! 私達ならこの学校でもかなり顔が利くから何処歩いてても大丈夫だし!」


 ハイも姉に続いて前に出ると、朝がそこに割って入り仲裁する。


「待ってください! そんな唐突に。彼等だって困惑しますよ」

「えぇ~いいじゃない! 同じ学校の仲間なんだし」

「結構だ、必要ない」


 比島姉妹の壁を作らない姿勢にランが視線を外しながら手を振り払う。しかしこれを失礼と思った幸助が彼の前に出て謝った。


「ごめんねぇ……コイツ無愛想でツンケンしてるから……」

「ア?」

「俺からも頼むよ! ここのこと全然知らないからさ!」

「お前……」


 幸助の勝手な言い分に比島姉妹は意気揚々となって彼の手をそれぞれ両手で掴む。


「そう来なくっちゃ!!」

「よろしいよろしい!!」


 三人で話が進む中、困り果てているランの顔を見た朝はその場に飛び込んで叫んだ。


「だ! だったら私も行きます!!」

「エェ!?」


 この行動に全員が驚いて彼女に顔を向ける。対して注目された彼女は大きく鼻息を吐いて胸を張った。

 結局ラン達三人はそのまま魔法少女三人による校内案内に連れて行かれることとなった。



______________________



 一方その頃、先程朝から提出書類を回収した南が生徒会議室にそれを置いて昼休憩に入ろうと部屋を出て歩いていた。


 玄関ホールには数人の女子生徒がそれぞれ手に花束やお菓子などのプレゼントを持ち、そわそわして彼の登場を待っていた。


「君達……」


 彼の声を聞いて出て来たことに気付いた彼女達は顔を赤面させながら目線を合わせ、揃って両手を彼に向けて伸ばす。


「「「これ! 受け取ってください!!」」」

「あぁ……ありがとう」


 優しい笑顔を向けて全てのプレゼントを受け取る彼の姿に女子達は黄色い叫び声を上げながら、恥ずかしさに身体を反転させて走り去っていった。


「「「キャーーーーーーーーー!!!」」」


 彼女達の後ろ姿にフッと肩を下ろしながら受け取ったプレゼントを片付けようと再び生徒会議室に入る南。そんな彼を少し離れた物陰から見ている人物が一人いた。


「また……先を越された……」


 彼女は両手に持ったプレゼントを箱が潰れる勢いで強く握り締めた。

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