2-5 二体目のジャーク

 人気のある廊下を抜けて渡り廊下を歩いている六人、先頭の姉妹二人がテンションを上げて楽しそうに後ろの男子達に説明している。


「ここが音楽室よ! 音楽の授業はここでやっているから」


 ハイの説明を聞き流しながらランは隣の幸助を睨みながら耳打ちする。


「どうしてくれんだお前! おかげで調査がやりずらくなっただろ!!」


 幸助はランの言い分をうるさく思いながら自分なりの言い分を彼にだけ聞こえる程度の小声で返す。


「人の親切を受けないのは失礼だろ? それに断ることで変に怪しまれて正体がバレたら元も子もない」

「だからってわざわざこうも長時間付き合う必要もないだろ。どこかで適当に理由を付けてずらかるぞ」

「そんな焦らなくても……」

「こうしてる間にも赤服が動いているかもしれねえんだぞ。何を悠長な……」


 と話をしている内に一行は空間の空いたホールにたどり着いた。今度はハイに代わってキイがその場所について紹介する。


「ここが玄関ホール。まぁここは一度通っているわね」

(いや……)

(裏から力ずくで入ったんで初めてです……)


 内心で二人がそう思っていることなどつゆ知らず、この場を通り過ぎて行こうとしたそのとき、一人の女子生徒が頭を下げたまま前を見ずに走り、キイの左腕にぶつかってしまった。


「痛っ!!」

「アッ、ごめんなさい!!」


 ぶつかってきた生徒はそれだけ行ってすぐにまた走り去っていった。

 キイは右手で少しふてくされながら左肩を払うと、心配した幸助と朝が近付く。


「キイ……」

「大丈夫かい?」


 すると彼女は「ハァ……」と一度息をはきだし、気を取り直してにっこりと二人に顔を向けた。


「このくらい平気よ。さ、気を取り直して先に行きましょ!」


 一行はキイのノリに流されるまま、また校内案内を再開した。



______________________



 バタバタと廊下を走る女子生徒。先程キイにぶつかったその人だ。

 彼女は校庭に出ると、物陰でうずくまって落ち込みながら自分を責めていた。


「私……本当に意気地無しだ……」


 彼女は両手に掴んでいる小さなプレゼント箱を見つめて南に渡すことが出来なかったことを後悔し続ける。


「どうして皆のように渡せないんだろう……私は……私は!!……」


 そのとき、彼女の背中から黒いもやのようなものが吹き出し、自分を責めていたはずの言葉が変わっていく。


「そうだ……あの女達がいなければ……私の思いは伝えられたんだ……アイツらがいなければ……アイツらさえ……!!」


 彼女のプレゼントを掴む力が強くなり、箱が崩れかける。そのとき、突然彼女は何かに撃たれたかのようにビクッと体を震わせ、意識を失ってその場に倒れ込んだ。


 するとそこから黒い球体が飛び出し、校庭の中心まで移動した。


 次の瞬間、黒玉は全身からもやを発生させて巨大な身体を構成していき、やがて大きなプレゼント箱に手足が生えたような怪物の姿が出来上がった。新たなジャークの誕生だ。


「プレゼントォーーーーーーーーー!!!」


 ジャークの出現に校庭にいた生徒達は悲鳴を上げながら慌ててその場から逃げ出した。


「ジャークだぁ!!」

「イヤァ!!」


 騒ぎを聞きつけていち早く駆けつけた南がこの混乱状況の中でも冷静に動き、生徒達の避難誘導をし始める。


「ジャーク!! 皆ぁ!! 速く逃げて!!」


 校庭にいた生徒達を校門を開けて外に出す。


 しかしジャークは外へ出て逃げ出す生徒に巨大パンダと同様に目からビームを放ち、当たった生徒は苦しむ声を上げながら身体が光り出す。


 すると、大小それぞれのプレゼント箱に変化してしまった。


「皆!!」


 ジャークは次に南を右手で掴み上げ、顔の付近まで持ち上げた。


「グッ……イタァ!!」

「プ~レゼント~!! つ~かま~えた~!!」


 ジャークは更に南を自分に近付けて歪んだ愛情をぶつける。


「会長! 好き好き好き!! 今日は会長にプレゼントをあげようと思って用意したの!! 見て! あんなにいっぱい出来たんだよ!!」


 ジャークは南の身体の向きを変えて道行く人を変身させたプレゼントを見せつける。


「そ、そんな……」

「大空に愛を込めて……受けとってぇ!!!」


 ジャークは北斗を天高く放り投げ、そのままプレゼント付近の地面に落下させる。


「ウワァーーーーーーーーー!!!」


 しかし北斗が空中にいる途中、突然横から飛んできた誰かにお姫様抱っこの形で彼の体は回収された。

 ジャークは見失った南を探してキョロキョロとしていると、自分の後ろ側から声が聞こえてきた。


「大人しくしなさい! ジャーク!!」

「ッン!!」


 声の方向にジャークが振り返った先には、既に変身し終わっている三人の魔法少女が横に立ち並び、中心にいる朝ことモニーが南を抱えていた。


「魔法少女! 参上!!」


 朝は北斗を安全に降ろし、声をかける。


「会長、速く逃げて!!」

「ありがとう、栗塩さん」


 南はこれ以上足手まといにならないように校舎裏に走って行き、三人はそれを確認すると顔を前に向けて戦闘態勢を整え、揃ってジャークに向かって行った。


 一方、彼女達に置いて行かれて校舎内に残っているラン達。幸助は彼女達のモードが変わった素速い動きに驚きを通り越して感心していた。


「ジャークが現れた途端に血相を変えて行っちゃったよ……凄い対応力だ」


 ジャークは向かってくる相手にまずは一撃と長い右手で彼女達を叩き潰す勢いで地面に殴りつけた。

 三人は分散して飛んでこれを避け、それぞれ攻撃に出る。


「受けてみなさい! <ファウ ザ プラズマ>!!」


 ハイこと魔法少女ファウは右手を指の先まで広げて前に向け、手の平の上に赤い電撃を発生させるとそれを手のひらサイズの球体に固めて何発か連続して撃ち出した。


「プレゼントォ!!」


 ジャークは頭の蓋をワニの口のようにパックリと開け、びっくり箱のように出現させた白い光弾を飛び出させてファウの攻撃を相殺した。


「箱の中から攻撃を!!」

「びっくり箱みたいね」


 ジャークはそこから一度箱を閉じ、もう一度開いて今度はバウンドするバネのように光線を飛び出させた。


「今度は光線を!!」

「私が防ぐわ!!」


 光線の射線上の真正面に移動したハイこと魔法少女ミラが大きく息を吸い込み、頬をぷっくりと膨れさせる。

 そして含んだ息を吐き出すように大量の水を吐き出した。


「<ミラ レインスクリュー>!!」


 大量の水玉がマシンガンのように螺旋回転しながら光線にぶつかっていき、見事に相殺して見せた。

 更にミラはこの技のぶつかり合いで発生した水蒸気を利用して身を隠し、背後に回り込んで跳び蹴りを入れた。


「プレゼントォ!!?」


 資格から攻撃を受けたジャークは吹っ飛び、顔面から地面に激突した。顔と身体が一体の箱になりその中心から脚が生えているために、こうなるとジャークは起き上がれない。


「プレゼントォ!!……」


 ジタバタと暴れてどうにか立ち上がろうとするジャーク。頭の蓋をまたしても開けてそこから巨大なバネを自重で曲げさせて地面に接触させ、その反動を利用して立ち上がった。


「プレゼントォ!!」

「あの箱何でも出てくるの!?」

「ならあれを防げばこちらの勝機です!!」


 モニーは有言実行しようと走り出した。魔法少女に変身中の彼女達の身体能力は常人のそれを軽く越えていき、風を切り裂いて駆け抜けて飛び上がる。

 だがそんなことをすれば当然ジャークが対抗し、再び箱を開けていくつもの光弾をバウンドさせながら彼女を襲わせた。


「そんなの! 効きません!!」


 モニーは言葉通り左右に素速く動き、敵の攻撃を全て回避して更に距離を詰め、そのまま高く飛び上がった。


「とうっ!!」


 いかに素速く動けるといえど、空中になればどうしてもかわすことが出来なくなる。

 そんなモニーをジャークは捕らえて今度こそと蓋を再度開き、またしても破壊光線を撃ち出そうとする。

 しかしそれを読んでいた魔法少女達は残りの二人も素速く動いた。


 目の前のモニーに完全に気を取られていたジャークは左に回っていたファウの跳び蹴りを受けて今度は箱の右側面へと腕ごと地面に崩れてしまう。


「プレゼントォ!?」


 だったら立ち上がればいいとばかりにまたしても箱の蓋を開けようとするジャーク。

 ジャークから見て頭頂部の先に待ち構えていたミラは、これを許さなかった。


「残念。その手はもう食わないわ!!」


 ミラは「パンッ!!」と大きな音を立てて手を叩き、広げた両手の間に大きな水で出来た大玉を発生させる。


「<ミラ レインボール>!!」


 ミラは両手の平を前に向けると共に水球を撃ち出し、ジャークの箱の蓋に直撃させた。

 この水球は当たった拍子にスライムのように形を変形させ、ジャークの頭の周りを覆って形を固めた。


「プレゼントオォ!!?」

「よぉし! 狙い的中ね!!」

「さっすが私のお姉ちゃん!!」


 これによってジャークは頭の蓋を開けることが出来なくなり、一切の特殊攻撃が封じられてしまった。

 動揺して叫んでもジャークは隙だらけになり、トドメを決めようと地面に足を付けたモニーが走り出す。


「これで後は浄化するだけ! 私が決めます!!」

「ええっ、任せたわ!!」

「さっさとやっちゃいなさい」


 モニーは走り出しながら巨大パンダに喰らわせたのと同じ<モニー チアリングショット>を撃ち出す準備に入った。

 両腕に力が入り、手の周りに光が集まっていく。


「はぁーーーーー!! 貴方を元に戻します!! <モニー チアリングショッ……」

「プレゼントォ!!」


 しかし彼女が発射しようとしたそのとき、ジャークは表情をどこかしてやったようなものに変えて埋まっていなかった左腕を伸ばすと、技を飛ばす直前のモニーに絡みつけて拘束してしまった。


「ウッ……クッ……」

「「モニー!!」」


 マズいと感じた校舎の中に待機していた二人が窓から飛び出して外に向かおうとしたそのとき、変化が起こった。


 「ドンッ!!」と大きな音と共に、ジャークとモニーの間に突然何かが飛び降りてきたようだ。攻撃を受けたジャークはモニーから手を離して声を上げた。


「プレェ!!」


衝撃で発生した煙幕にモニーが包まれ、その場にいた姉妹が救出すると突然の乱入者に警戒して煙の範囲外まで下がる。


「モニー、大丈夫?」

「ええ、平気です」

「よかった」


 三人が話をしていると、降りてきた誰かが右腕を振り払うことで煙幕を払い飛ばした。彼女達は現れた人物の姿を見て全員驚いた。

 どうやら誰なのか知っているらしい。


「ナッ!……」

「アンタは……」

「ッン……厄介なのが来たわね。」


 姿を現したのは、オレンジ色のズボンスタイルの服装の上に身動きの邪魔にならない程度に黒色のとがった装甲を取り付け、同じ二色のラインがいくつか入った口元以外を覆い隠す覆面型ヘルメットを被っている異様な魔法少女の姿だった。


「『魔法少女 フー』……」


 名前を呼ばれた魔法少女フーは上げていた腕を下げ、顎を引いて覆面の中でも目をモニーに向けて立っていた。

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