第29話
翌日になって、久しぶりに昼より遥かに早く起きてリビングに行き、栄養ゼリーを何とか頑張って半分飲んだ。そして、久しぶりに制服に腕を通して鞄を持って玄関まで行く。
胸の内が痛いくらいにドキドキとする。胸の辺りを抑えて深呼吸を何度もして気持ちを落ち着かせようとする。
正直まだ足が震えてしまう。けど、会わなくちゃ会って話したい。先輩の側にいたい。
ちゃんと向き合わないといけないことがある。
「お!もう、行くのか?」
「うん」
「無理だけはするなよ?」
兄に乱暴に頭をくしゃくしゃと撫でられる。
大雑把に見えることが多い兄だが、昔から俺のことを助けてくれる大事な家族だ。
両親さえ俺のことを怖がって避けられてしまう日が多くて癇癪も起こすことがあった。
でも、兄は一度も理不尽に俺を見捨てずに怒ったりもしなかった。
嬉しいことがあったら俺よりも嬉しがって、悲しいことも同じだ。そして、悪いことをしたら誰よりも俺のことを叱ってくれた。
兄は兄なりに俺に感情を教えてくれようとしていたのかもしれない。きっと、聞いてもはぐらかすのだろうけど。
そして、今回は本当に兄に支えられたと思う。この時期はどうしても外は暑くて俺の体力を搾り取る。だから、どうしても学校を休んでしまったりしてしまうことがあった。
そんな時必ず側にいたのは兄だった。
今回も休みに入ったと言っていたがきっと嘘だろう。
忙しい時期はあらかじめ聞いていた。今はその時期が落ち着いたのか俺のことが心配で帰ってきてくれたのだろう。
きっと、兄だって学校があって友達も居て楽しく過ごしたいはずなのに。いつも俺を優先してくれる優しい兄。
「いつも、ありがとうお兄ちゃん」
「ん?可愛い弟のためだ当たり前だろ〜!ほら!もう時間だろ行ってこい!」
「痛い」
思いっきり背中をバシッと叩かれて、玄関で見送ってくれる兄に手を振って家を出た。
気づけば震えていた足もちゃんと歩けるようになっていた。
学校までの道中、同じ制服を見るとやはり足がすくむ俺がいた。だけど、先輩に会いたい気持ちと、兄に力強く押された背中に力が入り足をゆっくりと足を学校に向かった。
学校に着き、教室に着き深呼吸をした後ゆっくりドアを開ける。
「お、おはよ」
その瞬間賑わっていた教室が静まり返り、こちらに視線が集まる。
すると、仲の良いクラスメイト含め全員がこちらに押しかけた。
「白翔〜!!あんた、心配したんだから!」
「本当だよ!俺も学校来なくなってめちゃくちゃ心配した!」
みんな口々に言う中でも驚いたのは、あの日嫌がらせをしていたクラスメイトまで心配したと言ってくれた。
どうやら、俺が休んでいる間に何か一悶着あったらしい。
元から仲の良いクラスメイトたちが嫌がらせをしたクラスメイトたちに俺のことを話したらしい。
『白翔は、確かにそっけないし無愛想かもしれないけど誰よりも努力してるやつなんだ』
『そうだよ!夕伊先輩と仲良くしているのが気に入らない子もいるかもしれない。でも、夕伊先輩と居ると、二人ともとても楽しそうだから、それで良いじゃん!』
そう必死に訴えた後クラス内で意見をぶっつけ合いお互い納得したらしい。
本当に俺は周りに恵まれているな。こんなに大切なものを一度は捨ててしまったことに胸の内が痛んだ。
嫌がらせをしてきたクラスメイトたちが前に出てきて、言いにくそうに口籠る。
「あ、あの時はごめん。俺、お前が羨ましくてそれがムカついた。でも、あれはやりすぎた。ごめん!」
「私も、夕伊先輩に近づきたくてあんたを利用して嫌がらせした。ごめん」
「良い、別にそんなに気にしてない」
やはり、素っ気ない無愛想な風になってしまったかと思ったがクラスメイトたちがフォローしてくれてその場は、笑い話で幕を閉じた。
その後授業を受けて、昼休みになり先輩に会いに行こうと立ち上がる。
「白翔、夕伊先輩のところ行くのか?」
「え、うん」
そう言うと数人の仲の良いクラスメイト達は顔を曇らせて言いにくそうに話してくれた。
どうやら、俺が休んだ後何度か先輩は教室に来てくれたらしい。
毎度俺のことを聞いていたらしく、それが数日続いたらしい。かと思えば、先輩は授業をサボることが多くなったり教員が注意するほど素行が悪くなっていたらしく、最終的に先輩は学校を休んでしまうようになってしまったらしい。
「え、じゃあ、今も休んでるの?」
「うん。夕伊先輩ってあんまり周りと仲良くしないので有名だから、誰もどうしてるとかわからなくて‥」
「そっか‥教えてくれてありがとう」
そう言って席に座り直し一人考える。
メッセージを送ってみようかと携帯を手にするも、メッセージを送って俺はどうしたいんだ。
会いたい。側にいたい。その気持ちはある。
けど、それだけじゃない気がした。それに、俺は先輩のことについて知らないことばかりだ。
まずは、先輩がどんな人が何を考えていた人なのか知りたいと思った。
携帯をポケットにしまいこれから、どうするべきか考え始めた。
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