第30話

とりあえず、俺自身の気持ちを考えてみようと授業中もノートの端に思ったことをメモしながら考えてみることにした。

本来は授業に集中すべきだが仕方ない。今は、これが優先だ。

先輩と居て俺は楽しかったし嬉しかったんだと思う。多分。

まだ、明確な感情というものがわからず思い出を振り返る。

初めて先輩とクレープを食べに行った時。

あの時は甘いということしか思えずに居たが、今では考えるだけで胸の内がポカポカと暖かくなる。

嬉しい。

頭の中で思ったその感情をノートに追加して書く。

それに、二回目出かけた時も先輩と手を繋いで買い物をして嬉しかった。

楽しかった。

どんどん思いついたものをメモして思考を巡らせると何故か段々と身体中が暑くなってきて視界が歪む。

すると、座っているのも難しくなり椅子から大きな音を立てて盛大に落ちた。

その後と言えば簡単で、授業中に倒れたものだからクラスメイト達が心配して、保健委員のクラスメイトに保健室まで付き添ってもらった。

今はベットで大人しく横になり、頭の下には氷枕が置かれていた。

頭を使いすぎたのか、気づかなかったが鼻血も出ていたようで鼻に詰め物をされていた。

やはり、暑いのは苦手だ。これがどうにかなれば、自由に動けるのに。

かと言ってようやく夏本番に入ってきたばかりだ。これからがもっと暑くなるというわけで、何とかできる問題でもないわけだ。

一応、教室でも冷房は付くようになったもののやはり、人がいると体温というものであまり涼しくなるはずもなく、殆ど意味をなさない。

あぁ、目の前がぐるぐるする。

もっと、考えないといけないのに、そのせいで思考が働かない。

仕方ない一度眠ろうと目を閉じればすぐに意識は遠のいた。

‥‥

目を開ければ先輩が目の前に立っていていつものように柔らかい笑みをくれる。

「陽由香、先輩!」

「ねぇ、栞くんーーだよ」

呼びかけるもそれだけ言うと先輩の姿は消えてしまった。

代わりに何か下にキラキラとしたものが転がっていてそれを手に取る。

「宝石?」

それは、ピンク色の石でキラキラと外側はキラキラと輝いていたが、内側は何やら黒く濁っていた。

不思議とそれを見つめていると、胸の内がドキドキと高鳴る。

これは、前に先輩と居た時に何度も感じた高鳴り。

もっと、その宝石を見ていたいそう思うも叶わず視界は歪み真っ暗になった。

‥‥

ゆっくりと瞼を上げて目を覚ますと、丁度チャイムの音が鳴り響いた。

時計を見れば既にお昼休みの時間になっていた。

ずいぶん長い間眠っていたようで少し頭の中がすっきりとしていた。

そして、考える。先ほどの夢。ピンク色の宝石。あの宝石には吸い込まれそうな、何か知ることができるような気がするものだった。

ドキドキとした胸の高鳴りはなんだ。

それに、先輩が言っていたことは何なのだろうか。

気になって仕方なく、探す方法を考えて真っ先に浮かんだ。

「図書室」

そう言葉にすると、また倒れないようにゆっくりとベットを降りて靴を履く。

「あら、白翔くんもう大丈夫なの?」

「はい、ありがとうございました」

そう言って急いで保健室から急いで出ようとした時に保健室の先生は保冷剤を念のためにと幾つか持たせてくれた。

さすがにもう、常連になっている俺の対応に慣れているようで少しその気遣いが嬉しかった。

とにかく図書室に足を向けた。

図書室に入れば相変わらず誰もいない。

記憶の中を探りながら目的の本を探す。

「あ、あった」

それは、上巻と下巻で別れている先輩が教えてくれた本。ラブストーリーがメインになっている本らしい。

上巻は、読んだものの先輩がなかなか下巻を読ませてくれなくていまだに読んでない。

下巻を手に席にいつもの座りそのページをめくった。

その本は、最後はうまくいかない結末かと思えば二人結ばれたストーリーだった。

お互いがすれ違って、会わなくなってこれで終わりかと思えば、女性が男性に愛をぶつけた。

『貴方の事が好きなの!好きで好きで堪らなくて、私の中にはもう貴方で溢れてる!』

その言葉をきっかけに二人はよりを戻し幸せな話で終わった。

「これ、俺も同じ‥?」

気づけば先輩と出会って何をしても離れていても、一人になってしまっても心の中には先輩がいた。先輩のことを考えるだけで心がいっぱいになって幸せになって。

「‥好き、だったんだ」

胸の辺りを抑えてようやく答えに辿り着いた気がした。

そこで脳裏によぎるのは初めてキスをした日。

それを思い出すだけで、顔が熱くなり心がドキドキと高鳴る。

そうだ。好き。好きなんだ。先輩のことが。

ようやく、あのピンク色の宝石の意味がわかったような気がする。

全てが吸い込まれるような感情、見ていると心がドキドキと高鳴ること。

黒く濁っていたのは俺がそれを知らなかったから。

謎がどんどん解けていく。

でも、一つだけわからないことがあった。

あの時の先輩の声が聞こえなかったことだ。先輩は、俺に何を言ったのだろうか。

それが、不思議でならなかった。

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