第27話

図書室で泣いて涙が止まると不思議と何も感じなくなっていた。

あれ、いま此処にあったものはどこに行ったんだっけ。まぁいいか。いらなかったものだし。

そのまま、立ち上がり帰ろうと教室に行くと、すでにもう日も暮れそうで、生徒は校内に残っていなかった。

そんな中荷物を取りに教室に向かうと、俺の席に誰か座っている。逆光で眩しくて目を細めた。

ゆっくりと近づくとそこには、陽由香先輩が座っていた。

此方に気づくと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、此方に近づいてきた。

「‥栞くん!俺!俺、ごめんなさい!」

「?何?」

「体調悪そうなの気づいてたのに、クラスメイトの子達に頼ってる栞くんにを見て嫉妬してた‥。それで、少しイライラしちゃって無視とか傷ついたよね‥本当にごめんなさい!」

勢いよく頭を下げる先輩の姿が目に入る。でも、何でこの人は謝っているのだろうか。別に俺は傷ついても何もないのに。

「なんで、謝るの?わかんない」

「‥っ?!しおり、くん?」

「俺はもう何もいらない。陽由香先輩ももういらない。欲しくなくなった」

そう言って、先輩の横を通り過ぎ席にある荷物をまとめて帰ろうとすると肩を強く掴まれる。

「し、しお「触らないで」」

そういうと、簡単に先輩は肩から手を離してくれて教室を後にする。

声をかけられることも、後を追われることなく学校出て帰り道を歩く。

これで良いんだ。これが間違っていない正解の道だ。

今も胸の内がツキリ、ツキリと感覚が走るがいずれ治るだろう。

普段の足取りで家に帰り万全じゃない体を休めるために部屋に篭って冷房をつけた。

ベットに寝転びボッーとした時間を過ごす。

普段だったらこの時間は何をしていたか思い出していると、そういえば先輩からのおすすめ本を読んでいたなと思い出す。

でも、もうその必要はない。感情なんて一生知らなくて良いものだ。

昔両親から言われた言葉。

『あなたは、何も知らなくても良いのよ?』

『そうだな、お前は何もしなくて良い』

何も知らなくても良い。何もしなくても良い。

そう言われて不思議とその言葉が胸内に沁みて身体中の至る所を支配された感覚を覚えている。

「‥何も知らなくても良い、何もしなくて良い」

両親が正しかったんだ。

なのに、俺は先輩と出会って自惚れていた。

知っても良いんだ。何かして手を伸ばして良いんだと。

でも、それは良薬でもあった。だが、それは今は毒に感じる。

当分は思考がうまく回りそうにない。

感情が溢れ出して止まらなくなることもあるかもしれない。

それにもう、学校なんて行きたくない。

先輩に会いたくない。

そのままベットをコロコロと転がっていると玄関の開く音がした。

「ただいま〜!栞〜!居るか〜?」

玄関から聞こえてきた声は久しぶりに聞く兄のものだった。

ベットから起きて部屋を出て玄関にゆっくり向かう。

「お兄ちゃん」

「お!栞〜!元気だったか?」

「まぁまぁ」

出迎えに行けばいつものように強く抱きしめられて、背中を少し強く叩かれる。

兄の横には大きなトランクケースがあった。

「しばらく、休みに入るから帰ってきたんだ。ほら、お前この時期いつも伸びてるだろ?それに、少し痩せたな。帰ってきてよかった。体調は大丈夫か?」

「わかんない。でも、暑いの嫌い」

そういうと、兄は少し眉を下げて頭を撫でた。

抱きしめていた体を離されたと思ったら、手を引かれてリビングに連れて行かれる。

ソファーに並んで座ると兄がガサガサとあるものを取り出す。

「ほら、これだけでも少し飲んでゆっくりしてろ」

そうして渡されたのは、栄養補給飲料。当然開ける力は無く兄に開けてもらい、ちびちびと口で吸う。

そのまま、兄は何処かに連絡を取るのか携帯を取り出していた。

どうやら、両親に連絡しているようだった。

「そう、しばらく休みだから帰ってきた。栞も心配だったし‥。うん、だから俺が居るからしばらく大丈夫」

それを耳で聞きながら、栄養飲料をちびちびと吐かない程度の分を飲みテーブルに置く。

通話を切った兄がそれに気づき栄養飲料を手にすると半分以上も減ってないことがバレて思わず視線を逸らす。

「‥とりあえず、食欲戻すことからだな。ゼリーなら少し飲める感じか?それとも他も食べれる?」

「ゼリーなら、少しだけ」

「わかった」

そのまま、兄は財布を持って買い出しに行ってくると言って出かけて行ってしまった。

此処にいても仕方なく部屋に戻ると、携帯が着信を告げていた。

それを見れば先輩で、しばらく眺めていると切れた。

そして、メッセージを開くと何件もきていてそれらを全て削除して、携帯の電源を切りベットに寝転ぶ。

冷房が効いてて涼しい。

そのまま目を閉じて体が少し楽になるのを感じる。

俺は、もう孤立者のままでいい。

このまま、家に引きこもっていようか。きっと、それが正解だ。

幸い両親もそれを許してくれるだろうし。

きっと、その方がもうあんな思いをしなくて済むんだ。

もう、あんな思いをしたくない。なのに、なんでまだ心がモヤモヤとするんだ。

これが、正解なんだろ。これが一番なんだろ。

全てを捨て切れない俺が俺の中で大切にそれを守ってるような気がした。

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