第23話
その日から常に保冷剤を手に授業を受けて、何とか凌いでいた。
少しは最初の頃よりマシになっては、いるが日に日に暑さは増していた。
保冷剤があれどそれでも、限界というのはあるわけで昼休みになると前回の体力はほぼ無いに等しい状態になっていた。本当は起きていたいのに、こうも自分の体力がないせいか体質のせいなのか嫌になる。
中学の頃は、こうなると学校を休んだり保健室で休んだりサボったりとしていたが、今はそうはいかない。
先輩のそばにいたい。先輩と話していたい。その思いが強く胸の内にあった。
先輩にはあまり迷惑も心配もかけないようにとくる前までには、少し回復することにしている。
「白翔〜、大丈夫?これ、自動販売機で買ってきたよ」
「うっ、ありがとう」
先輩が来る前までクラスメイトが、何とか手助けしてくれる。
差し入れや、授業中は力尽きた時教員に事情を話してくれたりと助けてくれて、おかげで何とか学校生活を送れている。
今日はスポーツドリンクの差し入れだ。
自動販売機で冷えたてだろう。おでこに当てると冷たくて少しは、涼しくなる。
本当になんで、こんなに暑いのか。
まだまだ、これから暑くなると言うのだから本格的に対策を考えないと周りに迷惑をかけてしまう。
それに、最悪両親に連絡がいくことだってありうるのだ。それだけは絶対避けなければ。
これだから、夏は嫌いだ。
スポーツドリンクで冷やしていると先輩がクラスまで来て体を少し起こす。
「栞くん大丈夫?また、仰いであげる」
そう言ってノートで仰いでくれるこの時間がなんだかんだ言って嫌いじゃ無い。
優しくくる風が心地よくて、思わず目を閉じてその風を感じる。
どんな、冷たいものよりも優しくて涼しくなる気がする。
だが、こうしているうちに時間は過ぎるわけで、先輩とのせっかくの時間もなくなってしまう。
せっかくの時間だ。できるだけ、先輩のそばにいて話をしていたい。
「陽由香先輩、お昼食べよ」
「え?でも、大丈夫?すごく暑そうだけど」
「大丈夫」
最近暑いせいか、食欲も落ちてきていている。だから、朝も夜も食べずこの昼の時間だけ食べるようにしている。
不思議と先輩の作るものは不思議と口に入った。
今日はいつもの卵焼きとさっぱりとしたサラダパスタだった。
ゆっくりと口にしながら先輩の話を聞いて、時々相槌を打ちながらいつものお昼の時間を過ごす。
暑いせいか、少し気持ち悪いかもしれない。でも、せっかく先輩の作ってくれたものだから食べきりたい。
ゆっくりとだが何とか完食できた。
その後何か話したか記憶が朧げだが、先輩が帰っていくのを見送った後、机に顔を伏せる。
「白翔〜、大丈夫か〜?保冷剤もらってきたぞ」
クラスの男子生徒達が、保冷剤を保健室からもらってきてくれてそれを首元に当てる。
「涼しい」
「お前ほんと大丈夫か?顔色悪く無い?」
「大丈夫。暑いだけ」
なるべく周りに迷惑をかけないように何とか顔を上げて言葉にする。
こんな時笑えたらよかったのだが、表情筋は動かず言葉で伝えるも、クラスメイトの顔は晴れず授業が始まるもチャイムがなりそれぞれ席についた。
授業中もなんとか保冷剤で乗り切る中、気持ち悪さにも耐える。
何より先輩が作ってくれたものを吐き出すことだけはしたくなかった。
何とか、顔だけでも上げて授業を受け終わる。
前と変わったことは、放課後は先輩の誘いを最近は断って家で休むようにしていることだった。
家にいる時は、まだ時期は早いが冷房を入れてベットに横になると気分がだんだん楽になってくる。
猫のぬいぐるみを抱きしめながらコロコロ転がっていると携帯が鳴りだす。
「もしもし」
『もしもし、俺だけど栞くん大丈夫?最近放課後会えてないから、心配で』
どこか沈んだ声の先輩に少し胸の内にモヤが掛かる。
だめじゃないか。先輩に迷惑も心配もかけてはいけない。
前のように先輩の手を煩わせてはいけない。
「大丈夫。少し暑さにやられてるだけ」
『そっか。今から家に行こうか?』
「大丈夫」
少し強めに言うと電話の向こうの先輩は黙り込んでしまった。
しまった。少し暑さのせいでモヤモヤを先輩にぶつけてしまった。
「陽由香さ『とにかく、お大事にね』」
言葉をする前にそのまま通話が切れてしまった。
ちゃんと謝らないといけなかったのに。言葉で言わないといけなかったのに言えなかった。
それなのに何もできずにいた。
せっかく先輩からかけて来てくれたのに。たくさん話せたかもしれないのに。
胸の内のモヤモヤが段々と強くなっていく。
暑さからは少し解放されたが、次はモヤモヤのせいで体が重くなっていく。
「‥ごめん、なさい‥」
視界が滲んで雫が瞳から溢れ出しながらも、そこにいない先輩に向けて謝った。
謝り続けて、段々と体が疲れてきて瞼が重くなってくる。
だめだ。せめて、メッセージだけでも謝らないと。携帯を手にするも、体が重くて仕方がない。
メッセージを打とうしたことで、瞼が完全に閉じて意識が遠のいていく。
「陽由香さん‥ごめん、なさい‥」
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