第21話

結局あの後も聞いても濁されてしまった。

どうやら、本当に先輩と昔会ったことを思い出さないと話してもらえないらしい。

家に帰り、自室でベットの上に座りながら考える。

もしかして、中学の頃に一緒の学校に通っていた。という線も考えてみるものの、あの時期に話しかけてくれた人物なんて教員くらいだ。

中学でなければもっと前なのだろうか。

そんこまで昔のことになっても、話しかけてくれた人物なんていないに等しい。

「‥だめだ。思い出せない」

そのままベットに寝転んで猫のぬいぐるみを抱きしめる。

そもそも人と関わりをたっていた時期の方が多いのに、そんな容易く人と話せた時期なんてあっただろうか。

考えれば考えるほど、本当に人違いにしか思えなくなってきた。

だが、先輩は『絶対』と言っていた。

あの眼差しに嘘偽りなんて感じなくて、それこそ何かを信じているものだった。

胸の内がモヤモヤとする。

今日は、もう寝てしまおう。そう思った瞬間、携帯がメッセージが来たのを告げる。

『明日も放課後図書室集合!』

あいもかわらず、先輩はブレないなぁと思う。

俺がこんなに考えているのに、先輩はいつも通りだ。

『わかった』

それに対して送るのはいつもの単語だけ。

そうして、携帯を閉じて猫のぬいぐるみを抱きしめながらゆっくりと瞼を閉じた。

‥‥

「見て見て!」

これが、デジャヴというやつだろうか。また、見たことない雑誌を「ジャーン」と効果音がつきそうな勢いで見せられる。

今は放課後で図書室に何度も来るようにメッセージが来ていたが、これを見せるためかと納得する。

「また‥デートスポット?」

そこのページにはデカデカと「デートスポット特集」と書かれていて、カップルの写真が多かった。

これもデジャヴなのか、先輩は赤くなりながらも一つのぶぶを指差した。

「猫ショップ?」

それは、前に食べたクレープの猫をモチーフにした猫のショップだった。

どうやら、期間限定のお店らしい。

「ここ!前の栞くんに似ている猫のグッズもあって、絶対行きたいんだ!」

また、唐突なことを言い出すと先輩の方を見ればキラキラと瞳が輝いていて頷く他なかった。

いつ行くのか、なんて聞くはずもなく前と同じく先輩は荷物をまとめて俺の手を引いた。

‥‥

電車に乗って数分で着き、ショップもそこまで遠くなく近くにあった。

中に入ればかなりの賑わいで女性客の方が多かった。

「かなり、多いね。栞くん離れないように手繋ご」

「うん」

それに対して何も躊躇わず手を差し出すとまた、指を絡められてぎゅっと握られる。

そのまま、目的のものがあるのだろうかどんどんと進む先輩についていく。

「あ!あった!よかった〜まだ売り切れてなくて!」

そこは、猫のぬいぐるみ売り場だった。

前の猫達のぬいぐるみで、先輩は二種類両方取り綺麗な猫の方を俺の方に差し出した。

「これ、買うの?」

「うん!なんか前に栞くんの家に行った時に猫のぬいぐるみ見てずっと欲しいなって思ってたから!この子達も可愛いでしょ?」

そう言われて猫のぬいぐるみを見ると確かに肌触りも良く可愛い。何より先輩に似てて落ち着く。

「うん、可愛い。買う」

そう言って二人でレジに並び会計していると、特典でステッカーをもらえた。

それにご機嫌な先輩は大切そうにカバンにぬいぐるみと一緒にしまっていた。

俺も同じく大切にしまった後、「ぐぅ」と大きな音が聞こえて音の主を見ると先輩だった。

「へへ、お腹すいちゃった。このお店の近くにシュークリーム屋さんあるから食べに行こっ!」

何か言おうとする前に腕を引かれて近くのシュークリーム屋さんに連れて行かれた。

中に入ると案外種類が多かった。

「俺は普通ので良い」

「えー、じゃあ、俺はいちごかチョコかどうしようかな」

どっちも人気のもので悩んでる先輩は、中々決めきれずにいた。

だが、数分で決めたらしく「よしっ!」と言って注文していた。

「いちご味のものを一つください」

「じゃあ、俺はチョコ味ください」

「かしこまりました、少々お待ちください」

「え?!栞くんふつうのじゃないの?!」

「うん、先輩悩んでたから半分こすれば、両方食べれると思って」

店員さんが準備をしている間にそう言えば、目をキラキラさせて抱きしめられそうなのを瞬時に避ける。

別に俺は食べ物に執着があまりないから。なら、どうせなら先輩が美味しく食べてくれれば良いと思っただけだ。

それぞれのシュークリームを渡されてイートインスペースで食べる。

「うーん!いちごおいしっ!」

「甘い」

一口食べただけで笑っている先輩は本当に表情がすぐに出る。

対して俺はやはり、「甘い」しかわからず食べ進める前に先輩に差し出す。

「?何?」

「半分こ、食べて?あーん」

それに対して赤くなった先輩はワタワタとした後目線を逸らしながら口を開けて、シュークリームにかぶりついた。

もぐもぐとゆっくりと咀嚼している先輩だが、さっきのようにご機嫌な様子はなく、美味しくなかったのかと思う。

「おいしくなかった?」

「え?!‥違う違う!少し嬉しいのと恥ずかしいので言葉にできず‥ちゃんと!おいしいから!」

嬉しいのと恥ずかしいのとは、どう言う感情なのか。とにかく忙しい先輩だなと思っていると、口元にクリームが小さくついていて気になり、身を乗り出して先輩の口元についていたクリームをなめとる。

すると、先輩は椅子から盛大落ちて目を見開いてこちらを見た後、顔を赤くしてそっぽ向いた。

「もう、今日の栞くんやばすぎ‥!」

「キスは良くて、これはダメ?」

「そうじゃなくて〜‥!」

唸りながらも椅子に座り直し遂にはテーブルに顔を伏せてしまった先輩。

いつも先輩がしてくることなのにと首を傾げる他なく、残ったシュークリームを気にせず口にした。

「甘い」

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