第20話
無事にテスト期間も終わりを迎えて、学校全体に賑わいが戻ってくる。
テスト期間中は独特なピリッという空気が漂っていたが、それが柔らかくなり賑わいにかわっていく。
ようやく、勉強から解放されたと言う生徒とテストの点数が終わったと言う二つの賑わいで別れていた。
ここ数日、先輩とは約束した通り携帯でのやり取りしかしておらず、顔を見ていない。
少し、寂しかった。
前のように感情は溢れ出してこないが、先輩の顔が見れなくて何処か胸の内が落ち着かなかった。
夜通話もするが、やはり遅い時間まで話していることもできず、すぐに終わってしまうのも寂しくて仕方がなかった。
そう考えていると、携帯がメッセージが来たことを知らせる。
『放課後図書室集合!』
その文字だけなのに、胸の内が落ち着く。先輩に会える。
それだけで、胸が躍るようで早く会いたくて堪らない。
何処か胸の内のモヤモヤとしたものが晴れていくようで何度も携帯のその文字を読み直してしまう。
「お、何か良いことあった?」
前に話した女子生徒たちが集まってきた。
そう思ったら後ろから、前と違って男子生徒も数名混ざっていた。
女子生徒の説明によると、前の嫌がらせを止められなくて謝りたかったのと、俺と話してみたかったらしくきてくれたらしい。
「いや、俺たちも止めないとって思っただけど‥本当ごめんな‥。」
「別に良いよ、その気持ちだけで」
今更だけど、俺のことを思ってくれる人がこんなにも居たのかと改めて気づく。
嫌がらせを受けていた時は、クラスメイト全員が皆一緒に見えて、今話しているクラスメイト達のことなんて視界に入ってなかった。
話してみれば皆優しい。
先輩がもし嫌がらせを止めてくれなかったら、こうしてこのクラスメイトと話すこともなかったんだろう。
「それで〜?なんか携帯見て少し明るくなった白翔見えたけど、もしかして夕伊先輩?」
「明るいかは、わからないけど‥携帯は陽由香先輩からのメッセージ」
すると、女子たちは小さく歓声を上げて親指でグッジョブと言っていた。
何がそんなに良いのかと首を傾げると、男子生徒達が何処か苦笑いしていた。
「あー、そういえば、白翔っていつから夕伊先輩と仲良いの?」
「入学式の時にサボってたら声かけられた時から?」
「お前本当根性あるところあるよな」
そうだ。あの時偶然先輩から声をかけてくれたのだ。
特段何も思わない学校生活がまた始まるのかとただ、考えていた時に先輩の声、顔を覚えている。
『俺のことを覚えてない?』
そう先輩は口にしていた。それだけが今だに謎だのままだ。先輩のみたいな顔や人にあったら一度でも頭の片隅くらいにはありそうなのに、それだけは、思い出せずにいた。
そして、あの時少し震えていた先輩を覚えている。俺の名前を聞く時も自分の名前を言う時も。
今の先輩じゃ考えられないけど。
「夕伊先輩から声かけてきたんだ!でも、珍しくない?」
「珍しい?」
「うん、夕伊先輩ってあんまり周りの人と仲良くするタイプじゃないって、うちの部活の先輩が言ってたし」
やはり、クラスメイトから聞く先輩も実際見た先輩も俺が思っていた先輩とは違う。
どっちかと言うと先輩は、人懐っこくて周りと溶け込めるイメージがある。
それこそ、女子からの人気は入学式を見れば知っている。それにあの時先輩はなんだかんだ言って、女子達の相手をしていた。
なぜ、周りと仲良くしないのか。なぜ、俺と二人きりの時と違うのか。
ますます深まる謎に首を傾げる。
「まぁ、あれじゃね?白翔だけ特別とか!」
「まぁ、あれだけ見せつけられたらな」
さらに女子生徒達は歓声を上げて、泣いている子もいた。
何故かお礼まで言われてこちらもますます謎だ。
何がそんなに泣けるのかわからずだが、男子生徒の苦笑いを見るに言いづらいことなのだろう。
それから、チャイムが鳴ってクラスメイトが席に戻り、改めて考えるも答えが出ない。
考えるだけ無駄だと思い、本人に聞こうと決心した。
「で、どうなの?」
「いや、いきなり栞くんが話あるから何かと思えば‥」
何処か考えている先輩だが、今目の前にいる先輩が真逆なんて勘違いだと思うくらいだ。
それくらい違うのだから、もしかして兄弟がいるというところまで考えが行き着いていた。
「陽由香先輩は、俺だけが特別?ってこと?なんで、いつもは違うの?兄弟がいるとか?」
「いやっ、兄弟はいない。栞くんのこと確かに特別だけど‥うーん」
答えが曖昧すぎる。
よくわからず首を傾げるも先輩は何処か言いづらそうに視線を逸らしていた。
「俺と栞くん昔会ったことあるんだけど、思い出せない?」
「?それ、前にも聞かれたけど会ってないと思う。人違い」
「そっか〜‥じゃあ、ちょっと言えないかな〜」
なぜ、その話と関係あるのか全くわからない。
だが、それ以上先輩に聞いても答えてくれることはなく、先輩のおすすめ本の時間が始まった。そして、先輩はまた同じ本を読んで号泣して鼻を噛んでいた。
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