第19話

結局あの後先輩が嫌がって、授業には戻れず放課後までサボり、先輩のおすすめ本が始まった。

久しぶりの学校に登校できたというのに、結局こうなってしまうのは仕方ないことなのだろうか。

「うぅ‥!」

本を読んでいると、ちょうど俺の読んでる本の下巻を読んでいる先輩が涙ぐみながら本を読んでいた。

今回のは恋愛小説で、テーマといえば叶わない恋という感じだ。

俺が読んでるところはまだ、二人が出会って和気あいあいとしているところ。だが、先輩を見るにうまくいかなかったんだろ。

上巻を読んでいる間に隣の下巻を読んでいる先輩によって内容の結末を知ってしまった。

所謂これがネタバレというやつか。

よく聞くのは会話の中で話されてネタバレと聞くが、感情によるネタバレもあるのかと知る。

ティッシュを取り出してとうとう、鼻まで噛み出した先輩はやはり、クラスに居た先輩は別人に見えた。

あの、何処か俺に似ているポッカリと空いたあの顔が同じように見えた。

皆は、クールというけれど何処か思いがあるような、よくわからないが感じた。

「うぅ、栞くん!」

「何?」

「これ、いい話だね!」

「俺まだ途中だからわかんない」

やはり、この先輩はわからない。

こうも、コロコロと感情や表情を変える姿、あの何処か何かを思う姿。

どっちが本当の先輩なのかわからない。

でも、それでも。先輩のそばを離れたくないと思うのは何故か。不思議な心地だ。

改めて隣を見れば、今だに本に向き直り最後まで読もうとしているのだろう。

それでも尚涙をポロポロと溢す先輩は何というか、やはりすごい。

この本の、物語の人物の最後を見届けようとしてる。どれだけ泣いても。

その上、これだけ感情を表す人は、俺はあまり見たことなくて飽きないなぁと思う。

思わず、ジャケットで涙を拭う。

それに、少し目を見開いていた。

「ふふ、栞くんは変わらないね」

そう言って笑う先輩に久しぶりに、あの日の彼女を思い出す。

やはり、似ている。

「‥俺はあまり変化しない生き物」

「ふふ、何それ!ふふ、栞くん面白すぎ」

泣いてたと思えば、笑い出して笑いながら泣いている。

忙しい人だ。

声を上げて笑って、涙を流して泣いて。どうやったらそんな風になれるのだろうか。

もっと、そばに居れば知れるのだろうきっと。それに、俺自身がそれを望んでいるのだから、離れることはもうできないだろう。

一通り笑い終わった後先輩は、本を閉じて顔を近づけてキスをされる。

今更気づいたが、人の唇ってこんなにも柔らかいものなんだなと呑気に思う。

唇を離せば先輩は赤い顔をして笑みを浮かべた後、勢いよく抱きついてきた。

やはり、先輩はキスをした後はご機嫌だ。

実はというと今日も家を出る前にキスをされたのだが、すごくご機嫌だったのを思い出した。

そんなに良いものなのかと唇を触れるもよく分からずだった。

そんなこんなで、テスト開始時期に入ってしまった。

先輩は最後まで泣きながら、しばらく会えないことに悔いていた。

何をしても離してくれなくて、仕舞いには

『写真撮らせて!』

と、言われて何枚か撮られた後抱きしめられて去って行った。

写真で何が起こるのかわからないが、こうして落ち着いてテストに取り込める。

一時はどうなるかと思ったが勉強をしていた成果もあり、何とか埋められてた。

国語類は毎度苦手で特に勉強をすることに毎度なっていたのだが、先輩のおすすめ本のおかげで何とかなった。

人の感情の起伏やその理由は、昔よりはわかるようになって気がした。

本のおかげもあるが、一番大きいのは先輩のあの感情の表し方だ。

いろんな感情を知って少しずつ俺の胸の内に落としていくのが暖かくて落ち着く。

このまま、続けば良い。

そんな呑気なことを思いながら、次のテストに取り込んだ。

一日分のテストが終わり、家に戻りベットに寝っ転がる。

お気に入りの猫のぬいぐるみを抱きしめてコロコロベットの上を転がる。

頭の中では今先輩はどうしているだろうかとよぎる。

テスト中はよりお互い集中するために、会うことはやめにした。

何かとあれば、図書室でサボってしまう俺たちには必要なことだ。

ただ、連絡だけは取り合っていようと先輩から提案された。

言うには、前のようなことが起こってしまわないようにらしい。

大丈夫だと、言っても珍しく先輩は頑固で譲ってはくれなかった。

それに対して頷く他なく、朝と昼にメッセージのやりとり。

夜には通話をすることにしていた。

考えているうちに携帯が鳴った。

『もしもし、栞くん?』

『うん』

顔が見えないせいか何処か、ぎこちない感覚だ。

だが、それは最初だけで先輩はいつものように機嫌良く話始めた。

今日あったこと。テストのこと。俺のことを聞いてきたりいろいろ。

『‥陽由香さんは、クラスで寂しくはない?』

まさに今浮かんだ、あの日の先輩の表情に口にしてしまった。

『‥うーん、栞くん不足で寂しかな』

『そういうことじゃない』

茶化す先輩に少し強めな言葉をかければ、少し沈黙。

『ふふ、やっぱり栞くんは優しい子だよね。大丈夫、いつかちゃんと話すから』

何処か落ち着いた声でそう言うと、明日もあるとのことで通話を切った。

先輩はいつでも俺に優しい。

だから、俺も何かできることがあるなら返したいと思った。

でも、どうやらまだまだ俺は先輩みたく優しくは、なりきれなくて。わからないことばかりだった。

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