第15話
出かけた日から数日後、学校生活も安泰してきて先輩が休み時間にクラスにいることも慣れてきた。
ちなみに、俺の前の席の人の席を当たり前のように陣取っている。
「ねぇ、また出かけようよ!」
「無理」
一刀両断して教科書を見てノートに補足を書いてと予習をする。
いくら、勉強に自信があったとしても努力は必要なものだ。
最近は先輩のおすすめの本の方で感情の勉強もしているせいか、本来の学校での勉強が疎かになっている気がする。
考えながら、声がしなくなった先輩は頬を膨らまして黙り込んでしまった。
「‥陽由香先輩、ちなみに今何の時期かわかってる?」
それに対して言いたくないのか、目線を逸らしつつも更に頬を膨らませていた。
どうやら、わかっていないわけではないようだ。
その上で出かけようと言ってるということは、先輩は余程成績がいいのだろうか。
「‥テスト勉強してるの?」
「しなくても、平均は取れてるもん」
平均。そう言ってるも目線を逸らしてる姿からして怪しい。
人のことを心配している場合ではないが、テスト期間は勉強に集中するべきだと思う。
「陽由香先輩、テスト終わるまで俺に会うの禁止」
そう言って、勉強に戻ろうとすれば数秒おいて椅子が大きく倒れる音と、机を力強く叩く音が聞こえる。
ゆっくりと顔を上げれば、瞳を見開きながらも固まる先輩がいた。
「‥本気で言ってる?」
「うん」
「本当の本当?」
「うん」
それに対して先輩は頭を抱えて、唸ること数分。
静止した後顔を俯かせた。
「‥わかった、じゃあね」
意外にもあっさりと去っていた先輩の後ろ姿を見ながら違和感を感じつつ、勉強に戻った。
‥‥
テスト二週間前に差し掛かり、遊んでいた生徒たちも勉強に追い込まれていた。
あれから、全く先輩と会うことも連絡を取ることもなくなった俺は、勉強の時間は充分あった。
充分あるのだが、一つ困ったことが発生していた。
眠れないのだ。
何故か、胸の内にツキリという感覚が毎日走り目を閉じても意識が覚醒してしまう。
その分勉強に当てられてるおかげで、すでにテスト範囲を超えて勉強を進めているくらいだ。
そのうえ、食欲もよく先輩が作ってきてくれたお弁当のようなものを食べても気持ち悪く感じて吐いてしまう毎日だった。
おかげで、目眩に悩まらせられる毎日だった。
今日も放課後勉強に集中していると、教員が教室を施錠すると言い急いで帰る準備をして学校を後にして家に帰る。
部屋に篭り少しは休まなければと、お気に入りになりつつある猫のぬいぐるみを抱きしめてベットに横になる。
目を閉じるもやはり、眠れずぬいぐるみに顔を埋める。
「‥これは‥さびしい‥?」
胸の内が冷めていく感覚と、ぽっかりと穴が空いてしまったような感覚に感情が追いつけない。
いつもなら、すぐに冷静になれるはずなのに眠れていないせいか落ち着くことができない。
なんで。なんで。誰か、教えて。
そうして、気づけば携帯を手にあるところに発信ボタンを押していた。
そこには、『陽由香先輩』の文字。
だめだ。俺から禁止を言ったのだから。急いで切ろうとするとそれは、繋がった。
『もしもし?白翔くん?』
「‥っ!‥陽由香、先輩?」
その声を久しぶりに聞くと不思議と胸の内が少し落ち着いていく。
でも、それでも寂しさは消えなくて目の前の視界が歪み、瞳から涙が溢れた。
『どうしたの?大丈夫?』
「‥たすけて‥」
言葉に詰まって詰まって出た言葉がそれだった。初めて人に対して言った言葉。
先輩に家の場所を聞かれて伝えると、通話は切れてしまった。
ぬいぐるみを強く抱きしめて止まらない雫を何とかしようとするもダメで、感情が追いつかなかった。
そうして、どのくらい時間が経ったかわからないが家のチャイムが鳴る。
しかもそれは、一回ではなく何度も。
もしかしてと、そう思ったらいってもたってもいられなくて玄関までふらつく体で向かう。
そして、玄関の扉を開ければ息を切らした先輩の姿があった。
「陽由香、先輩‥なんで‥?」
「なんでって‥白翔くんが助けてって言ったから来たんだよ」
その瞬間溢れる雫は勢いを増して流れ落ちる。
それを見て先輩はただ抱きしめてくれた。
「ごめんね、大丈夫だから」
いつもの暖かい手で頭を撫でられる。
あぁ、これが欲しかったんだ。
‥‥
しばらくすれば、落ち着いてきて俺の部屋に先輩を案内するとすぐにベットに寝かせられた。
「こんなに、ひどい隈‥。それに、顔色も悪いよ‥」
目元を優しく触れられながら、眉を歪めた先輩は、何処か震えた声で言った。
それでも、頭を優しく撫でてくれる手はいつものように心地よくて、心が感情が落ち着く。
いつもと違う、ふわふわとした感覚。だからか、いつもは思わないことを口にしてしまう。
「‥陽由香、先輩も一緒に‥」
そう言葉にして頭を撫でている手を引っ張る。
すると、先輩は優しく笑みを浮かべて一緒にベットに入ってくれた。
そのまま、抱きしめられて背中をポンポンとリズムよく叩かれ眠気がやってくる。
「眠いなら、眠って?俺はここにいる」
その言葉にようやく体の力が抜けて目を閉じた。
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