第14話

学校と家の行き来しかない毎日だから、久しぶりに乗る電車はどこか胸を踊らせた。

二駅ほどで目的の駅に到着し、駅内を歩いててもそれだけで先輩は周りから目を惹いていた。

「白翔くんって、誰かとこうやってお出かけとかする?」

「あんまり、しない」

実際、電車だって小さい頃乗って以来だ。

昔はよく家族四人で出掛けてはいたものの、もうそれも無くなった。

「じゃあ、これからも沢山俺とお出かけしよ!」

眩しいそのオーラに目を細めて頷く。

おかげで、家族のことなんか忘れて少し心が軽くなった気がする。

やはり、先輩はすごいと思い歩いていると駅を抜けて、初めてやってきた場所に辺りを見渡す。

随分人の行き来が激しく、中には別の学校の生徒も多く見受けられる。

隣を見れば、先輩が携帯で場所を探していた。

どうやら、ここからあまり遠くないらしく二人で並んで歩いて行く。

ふと思う、手元が寂しいと。

先輩は外では絶対手を繋いでくれない。その理由はわからずだが、何かあるのだろう。

だけど、何故か手元が寂しく我慢できずに先輩の手にそっと触れて弱い力でにぎる。

その瞬間先輩は足を止めた。

やはり、嫌だったのだろうか。ゆっくりと先輩の方を見ると、目を少し見開いてこちらを見ていた。

「‥手元が少し‥寂しくて‥。だめ?」

そう聞くと、先輩は勢いよく首を横に振り仕舞いには抱きついてきた。

一応人前なのだから離れるように胸元を押すも中々力があり離れてくれない。

諦めて数分、ようやく先輩が離れてくれて手を改めてギュッと繋がれる。

やはり、暖かい。その暖かさに手元の寂しさは、無くなった。

「えへへ、嬉しいな!」

「‥そう」

ニコニコとしている先輩はさらに上機嫌になり人の目線を掻い潜りながら、目的地へと向かった。

店を見つければ、同じように制服を着た学生で賑わっていて少し列ができていた。

そこに二人で並んで、順番は来るのはあっという間で期間限定の物を二つ購入し、無事キーホルダーももらえた。

「わぁ、可愛い!本当に白翔くんに似てて可愛い!」

そう言って、パシャパシャと写真を撮っていた先輩をよそにクレープを口にする。

甘い。

期間限定だけあって、サイズも大きくアイスから食べないと溶けてしまいそうだ。

そうして、アイスをペロペロと舐めているとパシャリという音が聞こえてそちらを向く。

先輩がどうやら、こちらを撮っていたらしい。

「?何?」

「いや〜、可愛いなぁって!それに、こうして外に出かけるのレアだから写真に収めとこうと思って!」

「そう‥」

構わずアイスが溶けないようにペロペロと舐めながら進めて行く。

先輩も写真は満足したのかクレープを食べ始めた。

ガブリっと豪快にいく先輩は男らしく、ものの数分で食べ終わってしまった。

俺のもあともう少しで食べ終わりそうで最後は先輩のように勢いよくガブリっと食べた。

さすがに、あの量。お腹いっぱいだ。

そういえば、キーホルダーはどうするのだろうか。

「陽由香先輩、キーホルダーあげる」

余程欲しがっていたものらしいし、俺は使い道がないので差し出す。

「お揃いでつけようよ!せっかくの記念なんだから」

「何の?」

「白翔くんが手を繋いでくれた記念!」

手を繋いで記念になるものかどうかと首を傾げた。

そう言いながらもそれぞれのカバンにキーホルダーがつけられた。

ぶっきらぼうな猫の方は先輩が。

綺麗めな猫の方は俺の方に。

「ねぇ、まだ時間ある?もう一つ行きたい場所があるんだけど」

「うん、いいよ」

そうして、また手を繋いで二人歩き出す。

次の目的地はそう遠くなく、すぐにたどり着いた。

中に入れば猫をモチーフにした雑貨などが多く陳列されていた。

中には女子の割合が多く少し入りにくい。

それでも、先輩が手を引いて歩いてくれた。

「白翔くんとお揃いのものが欲しくて、猫とか嫌いじゃないよね?」

「うん、特には」

お店に慣れてきて、手を一度離してそれぞれ探す中ふとめが入ったものがあった。

切れ長の目をした猫のぬいぐるみ。

ちょうど抱きしめたら収まるサイズで丁度の良さそうだった。

何より先輩を感じて思わず手に取ってしまった。

そのまま先輩の方に戻ればどうやら、ペンを見ているらしかった。

「あ、白翔くんちょうどよかった‥って、そのぬいぐるみは?」

「抱き心地良いから買う」

敢えて、先輩に似てるとは言わずにそれを手に先輩が手にしているペンに目を向ける。

「‥二種類で悩んでるの?」

「うん、そうなんだよね〜白翔くんは、どっちが良い?」

そう言って見せられたペンは黒と白のペンどちらも柄に猫が入っている。

見ても特段差はなさそうに見えた。

「‥俺は、よく黒い物使うから黒でいい」

そう言うと、先輩はペンに向き直り見た後に何か決意をしたようにレジへと向かった。

ついでに、俺も猫のぬいぐるみを買うためレジへと足を向けた。

店から出て、先輩からペンの入った袋を渡される。

「え、これって‥」

黒でいいと言った俺の意見とは違く、白いペンがその袋には入っていた。

「俺は、よく白とか色付きのやつ使うから交換っこ!黒は俺が使うね!」

それに対してもう決まってしまったことのようで、頷いた。

それから、ペンのお金を先輩に渡そうとするも断られる。

「今日は記念日だから俺からのプレゼント!」

「‥そう、じゃあ貰っとく」

そのままペンをカバンに入れてぬいぐるみが入った袋を手にぶら下げて帰る頃には日も暮れ始めていた。

行きと同じく、手を繋いで帰り道をゆっくりとあるく。

電車に乗って、いつもの道を歩いて別れ道で手が離される。

そのまま、手を振って別れて家路に付いて早速ぬいぐるみを取り出し抱きしめながらベッドに寝っ転がる。

今日は久しぶりに、違うことが体験できた。

誰かと出かけること。

それに、まだ胸の内は落ち着かなくてでも少しくらいモヤがかかっていた。

「‥さび、しい」

そう言葉にすると胸の内にゆっくりと落ちていった。

あぁ、これが『寂しい』と言う感情が。

でも、どうしてだろう。今まで一人でも大丈夫だったのに。

目を閉じると脳裏には今日のご機嫌な先輩の姿や思い出が蘇る。

暖かな手の温もりも思い出すも今はそこにはない。

あぁ、だから『寂しい』のか。

せっかく生まれてきてくれた感情だが、あまり気分のいい物ではない。

それをなくすようにぬいぐるみを抱きしめた。

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